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怒り
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「今の取り消してよ!」
たっちゃんはまた怒鳴り、あたしが見たこともないような形相で坊主頭達を睨みつける。フーフーと肩で荒く呼吸をしていて、怒りで赤くなった顔には冬だと言うのに汗が浮かんでいる。あたし、たっちゃんが怒ったの初めて見たかも。
「は? 何こいつ。頭おかしいんじゃねーの?」
反撃してこないと思っていたたっちゃんの剣幕に怯んだのか、あたしをからかった坊主頭は、言い訳がちにたっちゃんに暴言を吐いた。都合が悪くなったら相手を罵るなんて、見苦しい。他の坊主頭達は、困ったような気まずそうな顔をして黙っている。
「僕はね、何言われてもいいんだ。僕がこの格好をしてるのは、僕がやりだしたことだから」
たっちゃんは激高して周りが見えていないようだ。
「でも英里佳は関係ないでしょ? なのに何でそんなこと言うの? 英里佳に謝ってよ!」
「た、たっちゃん、もういいから」
周りの好奇と奇異な感情に満ちた目に耐えられなくなる。自分が興奮しているときは平気なのに、冷静だとこんなにも痛いのか。あたしはたっちゃんを制した。けれどたっちゃんは、まだ高ぶる激情を抑えられずにいる。
「最低! 最低! 黙ってないで何か言いなよ!」
「ほら、落ち着けって」
不意に、背後から宇野がたっちゃんの頭を掴んだ。肩から通学鞄を提げ、右手で黒い車体の自転車を支えている。たっちゃんは振り返り、宇野の顔を見た瞬間、はっとしたように頬を紅潮させた。
「ね、たっちゃん、帰ろ」
たっちゃんが黙ったので、あたしはたっちゃんの手を握った。あたしの顔を一度見て、たっちゃんは恥ずかしそうに頷く。たっちゃんの手は、小さくて綺麗な手だった。それでも、女の子の手じゃない。厚くてあったかくて堅く張った、男の子の手。いつのまに、こんな手になっていたんだろう。刹那、場違いなまでにあたしの心臓は早鐘を打った。あたしの傍で、あたしの触れられない間に、たっちゃんの身体はどんどん男の子になっていく。そんなだから、あたしがたっちゃんを好きな以上に、あたしの中の女の子がたっちゃんの中の男の子に反応してしまうんだ。怖い。これ以上たっちゃんを好きになってしまうのが怖い。
「うん、ごめん」
たっちゃんは恥ずかしそうな、どこか疲れたような表情を浮かべ言った。そして、あたしの手を力強く握った。
「ごめんね」
それだけ言うと、たっちゃんはあたしの手を離した。無理にじゃない。たっちゃんが手を離したとき、あたしは既に手から力を抜いていた。さっき感じた恐怖は、まだ胸に残っている。たっちゃんがあたしを見るので、何となく宇野を見ると、宇野はたっちゃんを見ていた。物欲しそうな、悔しそうな顔で。あ、そういうことか。違う。そういうことじゃない。あたしは宇野の視線の意味に気がついていたけれど、気がつかないフリをする。それはきっと、あたしたちに一番ひどい終わりを持ってくるから。誰も気づかないぐらいが丁度いい。
たっちゃんはまた怒鳴り、あたしが見たこともないような形相で坊主頭達を睨みつける。フーフーと肩で荒く呼吸をしていて、怒りで赤くなった顔には冬だと言うのに汗が浮かんでいる。あたし、たっちゃんが怒ったの初めて見たかも。
「は? 何こいつ。頭おかしいんじゃねーの?」
反撃してこないと思っていたたっちゃんの剣幕に怯んだのか、あたしをからかった坊主頭は、言い訳がちにたっちゃんに暴言を吐いた。都合が悪くなったら相手を罵るなんて、見苦しい。他の坊主頭達は、困ったような気まずそうな顔をして黙っている。
「僕はね、何言われてもいいんだ。僕がこの格好をしてるのは、僕がやりだしたことだから」
たっちゃんは激高して周りが見えていないようだ。
「でも英里佳は関係ないでしょ? なのに何でそんなこと言うの? 英里佳に謝ってよ!」
「た、たっちゃん、もういいから」
周りの好奇と奇異な感情に満ちた目に耐えられなくなる。自分が興奮しているときは平気なのに、冷静だとこんなにも痛いのか。あたしはたっちゃんを制した。けれどたっちゃんは、まだ高ぶる激情を抑えられずにいる。
「最低! 最低! 黙ってないで何か言いなよ!」
「ほら、落ち着けって」
不意に、背後から宇野がたっちゃんの頭を掴んだ。肩から通学鞄を提げ、右手で黒い車体の自転車を支えている。たっちゃんは振り返り、宇野の顔を見た瞬間、はっとしたように頬を紅潮させた。
「ね、たっちゃん、帰ろ」
たっちゃんが黙ったので、あたしはたっちゃんの手を握った。あたしの顔を一度見て、たっちゃんは恥ずかしそうに頷く。たっちゃんの手は、小さくて綺麗な手だった。それでも、女の子の手じゃない。厚くてあったかくて堅く張った、男の子の手。いつのまに、こんな手になっていたんだろう。刹那、場違いなまでにあたしの心臓は早鐘を打った。あたしの傍で、あたしの触れられない間に、たっちゃんの身体はどんどん男の子になっていく。そんなだから、あたしがたっちゃんを好きな以上に、あたしの中の女の子がたっちゃんの中の男の子に反応してしまうんだ。怖い。これ以上たっちゃんを好きになってしまうのが怖い。
「うん、ごめん」
たっちゃんは恥ずかしそうな、どこか疲れたような表情を浮かべ言った。そして、あたしの手を力強く握った。
「ごめんね」
それだけ言うと、たっちゃんはあたしの手を離した。無理にじゃない。たっちゃんが手を離したとき、あたしは既に手から力を抜いていた。さっき感じた恐怖は、まだ胸に残っている。たっちゃんがあたしを見るので、何となく宇野を見ると、宇野はたっちゃんを見ていた。物欲しそうな、悔しそうな顔で。あ、そういうことか。違う。そういうことじゃない。あたしは宇野の視線の意味に気がついていたけれど、気がつかないフリをする。それはきっと、あたしたちに一番ひどい終わりを持ってくるから。誰も気づかないぐらいが丁度いい。
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