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優しい英里佳
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「ううん、そうだよ」
たっちゃんは、あたしを真っ直ぐ見たまま言う。
「英里佳がいてくれたから、今ここに僕はいるんだ」
綿矢が、うんうんと頷く。
「そうだよ。なあこから見てても、桑田さんがモリーをすごく支えてるの、わかるよ。だってみんな、どっかで意識しちゃうじゃん。なあこはたまたま女の子だったけど、モリ―は男の子で生まれてきたから。でも、桑田さんは普通にできてる。気、遣ってないもん。気を遣われるのが嫌な時ってあるじゃん」
綿矢の台詞に、あたしはうんざりとする。たっちゃんのことであたしが誰かに肯定されるのはしょっちゅうだ。
「英里佳は、僕が悩んでたときに一番初めに気づいてくれたよ。それまで、僕はすごく悩んでて、僕はおかしいから人前に出ちゃダメだとか、死んだ方がいいのかな、とかそんなことばっかり考えてた。でも、英里佳が僕は女の子でいいって、言ってくれたから、僕が女の子でも大好きだからって、言ってくれたから。僕は、すごく楽になれたんだよ。英里佳はいい子だよ。自分を否定とか、しなくてもいいんだよ」
涙が出そうになった。たっちゃんは、こんなにもあたしを信じている。なのにあたしは、たっちゃんを苦しめ続けている。
「たっちゃん、違う」
のど元までこみ上げてくる嗚咽を抑え込んで、あたしは言葉を絞り出す。涙が出そう。でも、泣いちゃいけない。あたしにそんな権利はないから。たっちゃんの『僕』の理由だって、あたしは知っているから。
「あたしはたっちゃんに――」
「あんたたち」
あたしの言葉は、低くてかすれた声に遮られた。振り返ると、あたしの背後に部長が立っている。その面長の顔は一見おだやかだったけど、怒っているのは何となく分かった。二人を見ると、たっちゃんはばつの悪そうな顔をして、綿矢は冷や汗をかいている。多分、あたしもおんなじような顔なんだろう。
「サボってんじゃない」
部長がおだやかに、冷たく言う。あたしたちは慌ててその場を離れた。
たっちゃんは、あたしを真っ直ぐ見たまま言う。
「英里佳がいてくれたから、今ここに僕はいるんだ」
綿矢が、うんうんと頷く。
「そうだよ。なあこから見てても、桑田さんがモリーをすごく支えてるの、わかるよ。だってみんな、どっかで意識しちゃうじゃん。なあこはたまたま女の子だったけど、モリ―は男の子で生まれてきたから。でも、桑田さんは普通にできてる。気、遣ってないもん。気を遣われるのが嫌な時ってあるじゃん」
綿矢の台詞に、あたしはうんざりとする。たっちゃんのことであたしが誰かに肯定されるのはしょっちゅうだ。
「英里佳は、僕が悩んでたときに一番初めに気づいてくれたよ。それまで、僕はすごく悩んでて、僕はおかしいから人前に出ちゃダメだとか、死んだ方がいいのかな、とかそんなことばっかり考えてた。でも、英里佳が僕は女の子でいいって、言ってくれたから、僕が女の子でも大好きだからって、言ってくれたから。僕は、すごく楽になれたんだよ。英里佳はいい子だよ。自分を否定とか、しなくてもいいんだよ」
涙が出そうになった。たっちゃんは、こんなにもあたしを信じている。なのにあたしは、たっちゃんを苦しめ続けている。
「たっちゃん、違う」
のど元までこみ上げてくる嗚咽を抑え込んで、あたしは言葉を絞り出す。涙が出そう。でも、泣いちゃいけない。あたしにそんな権利はないから。たっちゃんの『僕』の理由だって、あたしは知っているから。
「あたしはたっちゃんに――」
「あんたたち」
あたしの言葉は、低くてかすれた声に遮られた。振り返ると、あたしの背後に部長が立っている。その面長の顔は一見おだやかだったけど、怒っているのは何となく分かった。二人を見ると、たっちゃんはばつの悪そうな顔をして、綿矢は冷や汗をかいている。多分、あたしもおんなじような顔なんだろう。
「サボってんじゃない」
部長がおだやかに、冷たく言う。あたしたちは慌ててその場を離れた。
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