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しあわせなたっちゃん
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「僕はね、幸せなんだと思う」
部活が終わり、家へ帰っている途中でたっちゃんは言った。今日の部活は長引いて、一時で終わるはずが二時まで延びてしまった。アンコンが近いから、みんな準備とか曲の合わせに精を出している。あたしは、まあそれなりに。帰り際に見かけたグラウンドでは、陸上部がいつもより早く部活を始めていた。
「何が?」
「英里佳は、僕以外の僕みたいな人に会ったことないかな」
たっちゃんはアスファルトの歩道の上に転がっていた小さな石ころをつま先で蹴った。石ころが、たっちゃんの足が動いた方向に転がっていく。たっちゃんみたいな人。それって、たっちゃんが男の子なのに女の子をしているみたいな、そんな人のこと? 分かりきった質問をしようとして、あたしの口は思いとどまった。
「僕みたいにね、自分のことを周りにさらしていられてる人って少ないんだよ」
首に巻いたマフラーも、ウインドブレーカーの下に着込んだシャツも、暑く感じる。昼下がりのポカポカした陽気が、居心地悪い。冬なのに、今だけは冬じゃないみたいで。
「朝も言ったけどね、僕は、英里佳がいたからなんだ」
マフラーを緩めていたら、たっちゃんはあたしを見た。
「英里佳が最初に理解してくれたから、僕は自分がおかしいって思わずにすんだんだ」
「たっちゃんはおかしくないよ」
あたしがそう言うと、たっちゃんは笑う。
「ありがとう、英里佳」
たっちゃんは立ち止まって、さっき蹴った石ころを見つけると、それをギュッと踏んだ。しばらく靴の底でそれを転がして、また飽きたように蹴り上げる。あたしはたっちゃんの三歩後ろで立って、たっちゃんがそうしているのを見ていた。石ころはくるぶしの高さにしか上がっていない。中途半端。それでもたっちゃんは楽しいのか石ころで遊んでいた。
「結構、続くね」
せわしなく動くたっちゃんの足元を眺め、あたしは言う。たっちゃんは少しだけ笑った。
「中途半端にね」
たっちゃんも、同じことを思ってた。
部活が終わり、家へ帰っている途中でたっちゃんは言った。今日の部活は長引いて、一時で終わるはずが二時まで延びてしまった。アンコンが近いから、みんな準備とか曲の合わせに精を出している。あたしは、まあそれなりに。帰り際に見かけたグラウンドでは、陸上部がいつもより早く部活を始めていた。
「何が?」
「英里佳は、僕以外の僕みたいな人に会ったことないかな」
たっちゃんはアスファルトの歩道の上に転がっていた小さな石ころをつま先で蹴った。石ころが、たっちゃんの足が動いた方向に転がっていく。たっちゃんみたいな人。それって、たっちゃんが男の子なのに女の子をしているみたいな、そんな人のこと? 分かりきった質問をしようとして、あたしの口は思いとどまった。
「僕みたいにね、自分のことを周りにさらしていられてる人って少ないんだよ」
首に巻いたマフラーも、ウインドブレーカーの下に着込んだシャツも、暑く感じる。昼下がりのポカポカした陽気が、居心地悪い。冬なのに、今だけは冬じゃないみたいで。
「朝も言ったけどね、僕は、英里佳がいたからなんだ」
マフラーを緩めていたら、たっちゃんはあたしを見た。
「英里佳が最初に理解してくれたから、僕は自分がおかしいって思わずにすんだんだ」
「たっちゃんはおかしくないよ」
あたしがそう言うと、たっちゃんは笑う。
「ありがとう、英里佳」
たっちゃんは立ち止まって、さっき蹴った石ころを見つけると、それをギュッと踏んだ。しばらく靴の底でそれを転がして、また飽きたように蹴り上げる。あたしはたっちゃんの三歩後ろで立って、たっちゃんがそうしているのを見ていた。石ころはくるぶしの高さにしか上がっていない。中途半端。それでもたっちゃんは楽しいのか石ころで遊んでいた。
「結構、続くね」
せわしなく動くたっちゃんの足元を眺め、あたしは言う。たっちゃんは少しだけ笑った。
「中途半端にね」
たっちゃんも、同じことを思ってた。
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