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勘違い

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 は。あたしは拍子抜けした。悟くんは完全にたっちゃんを見ている。
「吹奏でフルートって、やっぱ桑田さんだろ!」
 たっちゃんが否定する間もなく、悟くんはまくし立てた。
「カワイイじゃん。清楚系で大人しい感じだし、話と違うぞ。え、秀平とはうまくやってんの? そっちの君、森さんだよね。なんかイメージ違うな。逆っていうか、何だ?」
 やっぱり、この人は宇野の兄弟だ。たっちゃんを見て桑田さん、あたしを見て森さん。あげくの果てにはイメージが逆。そりゃそうだ、そもそも逆なんだし。
「ビックリだな……秀平が言ってたのと全然違う」
「あの、桑田英里佳はこっちです。僕が森です」
 たっちゃんが苦笑いして、あたしを指差した。悟くんは一瞬、え?って顔をする。そして、みるみる赤くなった。
「マジ?」
「マジです」
 たっちゃんは、なぜか申し訳無さそうに答える。というか、宇野は家族にあたしとたっちゃんの話、してたのか。まあ宇野だし、それ自体は意外じゃないけど。
「嘘だろ。信じらんねえ」
 悟くんは真っ赤になって、顔をそらした。
「え、じゃあ、本当に男なの?」
 こいつ。あたしがたっちゃんだとカン違いしてたときは、何も言わなかったよね。あたしがたっちゃんだと納得なんですね。つまり、あたしが男に見えるのか。まあ、たっちゃんの隣にいたらそうかもしれないかな。たっちゃんはどう見ても女の子、ってわけじゃないけど、あたしよりは小柄だし、髪も長くて服装も女の子っぽい。髪が短くて背の高いあたしと並ぶと、たっちゃんの方が女の子に見える。あたしが悟くんだったとしても、多分、普通にそう思う。
「あー、でも納得。確かに秀平の言ってた通りだ。カワイイ」
 悟くんの言葉に、あたしはピクッとした。宇野は、たっちゃんをかわいいって言ってたんだ。そうなんだ。なんかイライラする。だから宇野は嫌い。
「冗談やめてください。僕なんかかわいくないです。英里佳の方が全然かわいいです」
 恥ずかしがって、たっちゃんはあたしの後ろに隠れる。顔を赤らめて、ちょっと嬉しそう。そうだよね。カワイイとか、男の子に言われたことあんまり無いし、間接的だけど、大好きな宇野に言われたんだもんね。あたしは不機嫌になる。ヤダな。こういうの、反省したはずなのに。反射的に思っちゃう。宇野が妬ましいって。今、絶対鏡見たくない。嫌な自分が映るに決まってる。ああ、ヤダヤダ。
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