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アンコン前日

悪いのは

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「ホントは自分は悪くないって思ってるくせに。とりあえず謝ったら、被害者になれるとか思ってんでしょ? 面倒くさいとか思ってんでしょ? 絶対、自分は綺麗なフリしてたいんでしょ? そういうとこ、前から嫌いだしキモい! 死ね! 死んじゃえ!」
「ごめんなさい」
 またたっちゃんが謝る。それがカンに触ったらしく、中崎は足を伸ばしてたっちゃんを蹴った。上履きを履いた中崎のつま先が、たっちゃんの肩に当たる。浜島が青い顔をして、「ちょっと!」と叫んだ。
「ごめんなさい」
 たっちゃんはまだ繰り返す。今にも土下座しそうな勢いだ。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさ――」
「たっちゃん、もうやめて! 何で謝るの? 中崎だって言ってるじゃん! もう謝んないでよ!」
 あたしはたっちゃんの鼻を押さえたまま、怒鳴った。怒鳴ったってよりは、叫んだに近い。自分でも耳障りな甲高い金切り声だった。
「僕が悪いから」
 たっちゃんはあたしを見もせずにつぶやく。
「前に言ってたでしょ。絶対、こいつが悪いって時の話。今、絶対に悪いのは僕。だから、謝らなきゃダメなの。僕は被害者にはなれない。なっちゃいけないんだ」
 たっちゃんの加害妄想が止まらない。この痴話ゲンカじゃ、たっちゃんに落ち度なんてないのに。たっちゃんの横顔を覗くと、いつもキラキラしてる黒目がちの目が真っ暗で空っぽだった。たっちゃんが何考えてるか分かんない。
「何言ってんだよ! アタマおかしいんじゃないの!」
 浜島に引き離されながら、中崎が怒鳴る。
「最悪! 大っ嫌い! 宇野先輩だってアタマおかしいよ! 森先輩なんか好きになって、ホモじゃん! なのに女の私とつき合ってさ、変態じゃないの?」
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