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アンサンブルコンテスト

棚橋

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「桑田。来たんだ。髪かわいいじゃん」
 体育館の入り口で、トラックを待っている部員の集団に混じると、そこにいた棚橋に声をかけられた。棚橋はオーボエの同級生だ。
「珍しいね」
 オーボエみたいな小型楽器のパートがいるなんて。まわりは一年生とパーカッションと低音パートだらけなのに。そう思って訊いたら、「あんたもじゃん」と棚橋は笑った。辺りを見回すと、あたしたち以外の二年生は三人いた。コントラバスの夏川――我が部唯一の男子部員――は壁にもたれてぼんやりしていて、反対側ではチューバの鍋倉が一人で手持ち無沙汰にしている。トラックが来る西側の入口では、パーカッションの浜島は同じパートの一年生と何か話してる。確かに、二年生で小型楽器はあたしと棚橋ぐらいだ。
「たまには、なんかこういう仕事もしないとな、って」
 そう言って、棚橋はまた笑う。のっぺりした顔に、えくぼが浮かんだ。
「あんたは? 桑田」
「いや、ちょっとね……」
 棚橋の質問に、あたしは言葉を濁す。なんとなく、言いたくない。そうしたら、棚橋はニヤリと笑った。
「森竜希と気まずいんでしょ」
 棚橋は、いつもたっちゃんをフルネームで呼ぶ。そしてその後、決まって同じことを言う。
「あたし、あの子――っていうか、ああいう子苦手なんだよな。恋で生きてます! って感じの子。あたしは、恋とか意味分からんし」
 あたしはそれに、苦笑いしかできない。たっちゃんへの批判は聞いてて気分のいいもんじゃないけど、的を射てるから言い返せない。
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