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アンサンブルコンテスト

恋愛って

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「森竜希みたいなのは、多分あたしみたいなのと合わないんだなぁ。あの子は人間できてるから、あたしみたいなのでも我慢するだろうけど。あ、でも中崎はお互いにムリだね。昨日の見て超思った」
 両手の指の腹をそれぞれ合わせて、棚橋は体育館の天井を見上げる。
「なんで彼氏に振られたぐらいであんなに大騒ぎしちゃうかな。理解できない」
 そう言う棚橋を見ながら、あたしはふと今朝の夢を思い出す。
『オカマのくせに。ホモのくせに』
 宇野が、中崎の声でそう言っていた。棚橋も、そう思ってるのかな。普段ならあまり知りたくないことを、無性に知りたくなる。
「あのさ、棚橋」
「ん?」
「棚橋は、たっちゃんの性別はどう思ってんの?」
 質問が、すらりと口から出た。やっぱりどうかしてる。こんなこと、簡単に訊けちゃうなんて。
「どっちでもいい」
 棚橋はひっつけていた両手を離し、それをバッと背中にまわした。
「森竜希が女でも男でも、あたしには関係ないもん。あたしにとって不快なのは、あの子が恋に依存してること。森竜希だけの話じゃないよ。そういう連中は男でも女でも中間でも、みんなワケわかんないって思ってるし」
 そう言って、棚橋は両手を後ろでまた組む。
「桑田、怖いんでしょ。周りが森竜希をどう思ってるかが」
「別に」
「隠さなくていいじゃん。友だちの世間体気にするのって、別に普通だよ」
 天井に視線を戻し、話を続ける。
「桑田が心配してるより、みんな森竜希を受け入れてるよ。入学式から女装してたし、慣れもあるから。あ、時々からかってくるアホどもや、森竜希に好かれた当事者は別ね。他の男子は確かに冷たく見えるけど、大した嫌がらせとかいじめもないから、実際はそんなに嫌ってないと思う」
 少し早口でそう言ってしまうと、一度言葉を切った。
「あーあ。恋愛の必要性って、あるのかな」
 棚橋はためいきをついてつぶやく。
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