おんなのこがたり【好きなのは、男の体のおんなのこ】

十日伊予

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アンサンブルコンテスト

みんな嫌い

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「あれ、どこか見に行くの?」
 二人で手を繋いで教室を出ようとすると、鍋倉に声をかけられた。
「うん。小学校のときの友だちの見に行く。クラリネットね。鍋ちゃんも行く?」
「行く。順番、まだまだ先だし」
 嬉しそうに答えて、鍋倉は振り返る。その先には、綿矢がいた。
「わーちゃん、森ちゃん達、クラリネット見に行くって。わーちゃんも行かない?」
 鍋倉の問いかけに、綿矢は嫌そうな顔をする。
「行かない」
 あー、この間の悪口を引きずってる。綿矢のあからさまな態度に、あたしは呆れる。たかが悪口くらいで。べったりするぐらい好きなら、悪口言われてもしがみつけっての。
「そう……」
 鍋倉は残念そうに、けれど多少の無関心を含んだ表情で視線を戻した。
「わーちゃん、最近ああなんだ」
 廊下を、さっきの第二音楽室へ向かって歩いている途中、鍋倉は口走った。
「前はずっと一緒だったのに。わーちゃん、何考えてるか分かんなくて怖い」
 たっちゃんは真剣な顔で、鍋倉の話を聞いている。事情を知っているあたしは、「へえ」とか「ふぅん」とかぐらいしか言えない。
「嫌いだなぁ……」
 ぽつりと、鍋倉は言った。その一言に、たっちゃんはピクリと反応する。何か言おうとして口を開いて、すぐに口を閉じる。しばらくそれを繰り返した。
「鍋ちゃんは」
 ようやく声を出し、鍋倉を見上げた。
「鍋ちゃんは、みんな嫌いなの?」
 ひどく遠慮がちに、たっちゃんは尋ねる。けっこう踏み込んだこと訊いちゃうね。あたしはそう思ったけれど、鍋倉はたっちゃんの質問を過度の干渉にも不躾なことにも思わなかったらしく、さらりと答える。
「みんな嫌いだよ」

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