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アンサンブルコンテスト
懺悔
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第二音楽室では、ちょうど演奏の最中だった。あ、うまい。たっちゃんと二人で、教室の外で壁にもたれて演奏を聴いていると、自然とそう思った。クラリネットやらホルンやらフルートやらオーボエやらが混じったアンサンブル。楽器も曲も違うのに、分かる。あたし達より遥かにうまい。
「木管五重奏だって。ええと」
プログラムを広げて、たっちゃんは学校名を読み上げる。案の定、毎回最優秀賞をもっていく学校の名前が飛び出した。たっちゃんも「やっぱりね」と唇をへの字に曲げ、プログラムを丁寧にたたむ。
「珠ちゃんは、この六つ後だって。早く来すぎちゃったかな」
手のひらサイズに折りたたんだプログラムをスカートのポケットに入れ、たっちゃんはつぶやいた。鼻白んだ目つきだ。
「ねえ、たっちゃん。珠ちゃん元気かな」
あたしはたっちゃんに弄られた自分の髪を触り、指先でその先をつまむ。
「元気だと思うよ」
髪の毛を小さくこすっていると、その束の中に枝毛が混じっているのが見えた。
「英里佳……」
あたしが自分の枝毛になった髪を一本つまんでプツンと抜くと、たっちゃんはそれを見ながら、ゆっくりと口を開いた。
「なに?」
「英里佳、僕は最低の人間だね」
「そんなことないよ」
枝毛をぽいと床に捨て、ため息を吐く。一本だけの、細くて頼りない、黒い糸がふんわりと落ちていく。
「そうだよ。僕はずっと英里佳に嫌な思いさせてるから」
「あたし、平気だよ。たっちゃんのことで人にからかわれても。たっちゃんが女の子でいるのは、もう自然なことだし」
嘘をすらすら言う。たっちゃんには男の子でいてほしいけど、それを彼に言うのは、嘘を言うよりはるかに残酷だから。
「そっちじゃないよ。僕は英里佳をずっと傷つけてる」
たっちゃんは光が少なくて黒い目で、じっとあたしを見る。
「木管五重奏だって。ええと」
プログラムを広げて、たっちゃんは学校名を読み上げる。案の定、毎回最優秀賞をもっていく学校の名前が飛び出した。たっちゃんも「やっぱりね」と唇をへの字に曲げ、プログラムを丁寧にたたむ。
「珠ちゃんは、この六つ後だって。早く来すぎちゃったかな」
手のひらサイズに折りたたんだプログラムをスカートのポケットに入れ、たっちゃんはつぶやいた。鼻白んだ目つきだ。
「ねえ、たっちゃん。珠ちゃん元気かな」
あたしはたっちゃんに弄られた自分の髪を触り、指先でその先をつまむ。
「元気だと思うよ」
髪の毛を小さくこすっていると、その束の中に枝毛が混じっているのが見えた。
「英里佳……」
あたしが自分の枝毛になった髪を一本つまんでプツンと抜くと、たっちゃんはそれを見ながら、ゆっくりと口を開いた。
「なに?」
「英里佳、僕は最低の人間だね」
「そんなことないよ」
枝毛をぽいと床に捨て、ため息を吐く。一本だけの、細くて頼りない、黒い糸がふんわりと落ちていく。
「そうだよ。僕はずっと英里佳に嫌な思いさせてるから」
「あたし、平気だよ。たっちゃんのことで人にからかわれても。たっちゃんが女の子でいるのは、もう自然なことだし」
嘘をすらすら言う。たっちゃんには男の子でいてほしいけど、それを彼に言うのは、嘘を言うよりはるかに残酷だから。
「そっちじゃないよ。僕は英里佳をずっと傷つけてる」
たっちゃんは光が少なくて黒い目で、じっとあたしを見る。
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