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エピローグ

思いがけず

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 拝殿に行く長い階段で、何人か知り合いを見た。小学校のときの友達から、お母さんのお茶友だちまで。けっこう人が来るんだねとたっちゃんに言ったら、まあね、と返された。慣れない下駄と着物で階段を上がるのに疲れて、少しだけ機嫌が悪いみたいだ。手を洗い清めて、拝殿するまでずっと無言だった。
「英里佳、何お願いした?」
 屋台と屋台の間にあるベンチに座ってようやく、たっちゃんは口を開いた。表情だけで、疲れているのがわかる。あたしはたっちゃんの前に立って、手袋を忘れて赤くなった両手をジャケットのポケットに突っ込んだ。
「たっちゃんが、帰りはもう少し痛い思いしなくて済むように、って」
「嘘つき」
「ひどいなあ。ま、嘘だけど」
「嘘なんだ。でもありがと」
 たっちゃんがニコッと笑う。あたしも笑いがこみあげてきて、たっちゃんのおでこにデコピンをくらわせた。
「あれ、桑田と森じゃん」
 不意に、宇野の声が聞こえた。声のした方を見ると、人の群れをすり抜けて、宇野がやってきている。手には、白い小さな紙袋が握られていた。
「よっ。宇野も来てたんだ」
 宇野がベンチの前にたどり着いてから、ひょうきんに言ってみる。宇野は薄着でいるのに寒くなさそうだ。

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