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エピローグ

悟くんのこと

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「ああ。これ、悟に買ったんだ。あいつ、追い込みで部屋にこもってるから」
 そう言って、宇野は紙袋からお守りを出して見せた。学業お守り。そういや、悟くんは受験生だった。
「宇野君、悟くんにがんばれってって伝えてくれる?」
「了解。あいつ絶対喜ぶよ」
 事もなげに、たっちゃんは悟くんのことを口にする。宇野も当たり前みたいに流すものだから、あたしはうっかり訊いてしまう。
「たっちゃんて、結局悟くんのことどうするの?」
 すると、たっちゃんは意外な反応を見せた。顔を赤くするでもなく、恥ずかしがるでもなく、けだるそうにあたしから目をそらしたんだ。面倒くさい、みたいな表情で。
「悟くんは友だちとしては好きだけど……」
「タイプじゃないんだよな」
 クスクス笑いながら、宇野が言う。申し訳なさそうに、たっちゃんは頷いた。
「前、一回正式に振ったんだよ」
 たっちゃんの代わりに、宇野が説明する。
「でも悟のやつさ、どうしても諦められないらしくて。兄貴がストーカー体質だったことにちょっとビビってる」
「しょうがないから、入試で一番の成績とったらつき合ってあげる、って言ったの」
 宇野に付け足して、たっちゃんは小さくため息をついた。宇野が苦笑いして、たっちゃんの肩を軽く叩く。
「長年好かれるのは慣れてるんじゃないの?」
 あたしが自嘲的に言ってみると、たっちゃんは更に険しい顔になった。
「英里佳は幼なじみだし、特別だよ」
「あらヤダ。口説いてんの?」
「違うよ。とにかく、悟くんが一番とらないこと祈ってる」
「一回つき合ってみたらいいじゃん。悟、あんなだけど女子を喜ばせることについてはプロだし」
「それが嫌なの。女の子に慣れてる人って、ちょっと怖い」
 ぷく、と頬っぺたを膨らまして、たっちゃんは伸びをする。それからあたしと宇野に耳を寄せるように指を振った。
「宇野ちゃんの頼んでたワンピース、うちに届いたから。今度着においでよ」
 そう耳打ちすると、宇野の顔がパッと明るくなる。最近、宇野はたっちゃんに頼んで女の子の服を通販で買ってたっちゃんの家に届けてもらって、こっそり楽しんでいる。
「別に堂々としてたらいいのに」
 あたしがそう言うと、宇野は眉をひそめる。
「私、ずっと男でやってきたんだよ。いきなりは無理だよ。外では男子扱いして」
 小声でぼやく。あ、ごめん、とあたしがつぶやくと、いいよ、と返してくれた。
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