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エピローグ

願掛け

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「あ、そうそう、英里佳に言い忘れてたんだけど」
 思い出したように、たっちゃんの視線があたしに向いた。
「なに」
「中崎ちゃん、彼氏できたって」
「え?」
「彼氏できたんだって」
 衝撃の告白を、さらっとされる。たっちゃんはまたスマホを開いて、一枚の写真をあたしに見せてくれた。一年生っぽい男の子が、中崎と一緒に自撮りで映っている。
「悟くんにフラれた後ね、すぐにこの人に告白されたんだって。最初はなんとなくだったけど、今は悟くんより全然好きだって言ってた。私、中崎ちゃんと仲直りしたんだよ」
 嬉しそうに言う。中崎の変わり身の早さには呆れたけど、これがあの子の幸せの形かな、なんて思うといろいろおさまる。
「そういや、お前ら何願掛けしたんだ?」
 口の端から白い息を漏らし、宇野が尋ねた。あたしがたっちゃんを見ると、たっちゃんはあたしを見る。たっちゃんが微笑んだので、あたしはそれに合わせて口を開いた。
「今年はいい年になりますように」と、あたし。
「今年もいい年になりますように」と、たっちゃん。
 宇野は、「なんだよそれ」と笑い出した。『は』と『も』の大きな違いに、あたしたちはまた顔を見合わせる。去年は、たっちゃんにはいい年だったんだ。こういうところ、やっぱあたしとたっちゃんは違うよなあ。
「で、宇野君は何?」
 あたしからすぐに視線を戻し、たっちゃんは宇野に尋ねる。
「あ、そりゃな……」
 自信満々に言いかけて、宇野はすぐに口を閉ざす。あたしが首を傾げると、真っ赤になった。
「あー、英里佳のことか!」
 たっちゃんがニンマリとして、軽く身を乗り出す。宇野が「違えよ!」と声を大きくした。
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