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十日伊予

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1568 箱庭

前王の還葬式

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 還葬式の会場は城の謁見の間で行われる。
 現王が玉座の前に立ち、隣には雷神が、少し下がった所には前王の侍従が骨壷を抱えている。現王は前王よりも歳をとっていて、穏やかな顔つきの男だ。しかし彼の柔和そうな雰囲気に反し、必要以上に口を開かず、当主たちを見下ろす彼の目は、前王テレスがまだフランクな方だったと知るには十分すぎる。
 貴族の当主たちは普段の謁見と同じように、王の下に並んでいる。アルバはその中で、ジーグリッドの後ろに並べられ、居心地悪そうにうつむいていた。顔を上げれば雷神と目が合う。雷神は一人息子をたぶらかしたアルバが気に入らないようで、葬儀中にも関わらず、彼をきつく睨んでいる。アルバの周りの当主の何人かは、その視線に他人事ながら怯えていた。不幸中の幸いとして、ラスは来ていないようだ。
 アルバの胸中では、恐怖より、自分の人生をめちゃくちゃにした化け物だ、と嫌悪感が強く脈打っている。しかし彼に復讐を望む気持ちはなく、あるのは雷神と関わらずに息子を守り育てたいという願いばかりだ。
 玉座の周りに張られた水は、今日は流れがある。現王が一言二言形式じみた言葉を放つと、当主たちが頭を垂れたのを確認し、侍従が骨壷を水面に傾ける。粉に砕かれた遺骨がぱらぱらと落ちて、水に飲み込まれ、流れていった。前王の体は神殿にあるので、その骨は偽物だ。
 散骨が終わると、格の低い家から謁見の間を退出していく。ザラス家は早々に順番を迎え、アルバはジーグリッドに気にかけられながら出ていく。ジーグリッドは自分が原因かもしれない死を目の当たりにしたことで、少しばかり気が弱っているようだ。
 城を出ると、当主たちが乗り付けてきた馬車や輿があちらこちらに停まっている。執事のエンソンがすぐに二人を見つけ、ザラス家の馬車まで案内をする。
「大丈夫か?」
「うん。ジーグは? 顔色悪いよ」
 二人はお互いを気遣いながら、他の馬車たちの間を抜けていこうとする。一際大きく、どの家よりも城の近くに停めている馬車の横を抜けていった時、アルバは小さな悲鳴を聞いた気がした。
「ねえ、今──」
 彼が声の主を見つけようと振り返った時、侍従の一人が自分たちを追いかけてきていることに気がつく。アルバは立ち止まり、ジーグリッドの腕を掴んで引き留めた。
「これは公のことではありません」
 侍従は二人に追いつくと、肩を少し上下させながら、何事かと首を傾げているジーグリッドを見やる。
「……いずれこうなったことだ。気に病むのではなく、前に進め。肩にかかるものは重かろうが、足元もよく見なさい」
 そう伝え、侍従は今度はアルバを見やる。
「何もしてやれない兄ですまない。つらいこともあったろうが、優しさを大切にして善く生きなさい」
 状況がわからずに眉をひそめるアルバにそう伝える。「兄」という言葉に、二人はその伝言が誰からか察す。侍従は悲しげな表情を見せた。
「お優しいお方でした……」
 それだけをつぶやくと、城に戻っていく。ジーグリッドは思わず腰を折り、城に深々と頭を下げてみせる。アルバは困惑しながらも、彼に倣った。

 馬車の中、窓から自分が見つからないように、ドナは床に座り込む。馬車のすぐ側には息子が──アルバがいる。
 彼女は涙目で、荒くなる呼吸音が聞こえてしまわないよう、自分の口を両手で塞ぐ。前王には世話になったが、立場上、城内での式には参加できず、夫と乗ってきた馬車の中で祈りを捧げていた。式が終わり、夫が戻るのを顔を暗くして待っていたのだが、まさかアルバを見かけるなんて……。
 ドナは更に顔色を悪くし、アルバとジーグリッドの足音が遠ざかるのを息を殺して待つ。彼女の心には罪悪感、恐怖、そして微かな愛情がくゆっている。記憶の中の「シャマシュ」は消えてくれない。




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