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1564 旅路
エンリットの屋敷
しおりを挟むエンリットの屋敷は何かがおかしかった。庭に立ち入って庭師に挨拶をされた瞬間から、アルバは違和感を覚える。今までに一座の仕事で呼ばれた商人の屋敷たちは、老いた庭師が中心となってしっかりと整えた庭がほとんどだった。しかしエンリットの庭はどうだ。広くはあるものの、剪定はお世辞にも上手とは言えない出来で、掃除も行き届いていない。屋敷の中も、飾られた花が萎れていたり、絨毯に靴の泥がついていたりと、豪商の屋敷とは思えない汚さだ。それに、使用人は皆、一様に若い赤毛だ。
「……本当に、あの子を連れて行かれるのですか?」
アルバが屋敷の異様な雰囲気に眉をひそめていると、エンリットが恐る恐る聞いてくる。その言葉に、アルバは彼をキッと睨みつけた。
「ああ、申し訳ございません。つい。お許しください」
エンリットもやり手の貿易商だ、アルバのような若造に怯む男ではない。しかし、高貴な血筋の彼の機嫌を損ねてはならないと、媚びへつらって下手に出る。アルバをやりこめようと思えばできるが、その気になれば貴族の身分を得られる相手と禍根を残したくない。幸いにも、ツィオはまだ迎え入れたばかりでそれほどの思い入れもない。
「こちらでお待ちを。連れて参りますので」
応接室に通され、ふかふかのソファに座ると、アルバは急に不安になってくる。ツィオを物のように買われた怒りでここまで来たが、いざ取り返せるとなると彼との問題を思い出してしまう。「嫌いだ」と言われてから、口をきくことも、顔を合わせることもしていない。また彼に拒まれてしまったら、どれだけ苦しいだろうか。そう考えると、今から心臓がばくばくと鳴り、息苦しくなる。
アルバは痛む胸を手で押さえ、深く息を吸った。きっと兄貴はあの時は機嫌が悪かったんだ。きっと嫌なのに無理やり買われたんだ。きっと自分のところに帰ってきたいんだ。そんなことを必死に自分へ言い聞かせる。気を抜くと、すぐにでも涙が溢れてきそうだ。
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