【更新終了】Bro.

十日伊予

文字の大きさ
66 / 271
1564 旅路

エンリットの屋敷

しおりを挟む


 エンリットの屋敷は何かがおかしかった。庭に立ち入って庭師に挨拶をされた瞬間から、アルバは違和感を覚える。今までに一座の仕事で呼ばれた商人の屋敷たちは、老いた庭師が中心となってしっかりと整えた庭がほとんどだった。しかしエンリットの庭はどうだ。広くはあるものの、剪定はお世辞にも上手とは言えない出来で、掃除も行き届いていない。屋敷の中も、飾られた花が萎れていたり、絨毯に靴の泥がついていたりと、豪商の屋敷とは思えない汚さだ。それに、使用人は皆、一様に若い赤毛だ。
「……本当に、あの子を連れて行かれるのですか?」
 アルバが屋敷の異様な雰囲気に眉をひそめていると、エンリットが恐る恐る聞いてくる。その言葉に、アルバは彼をキッと睨みつけた。
「ああ、申し訳ございません。つい。お許しください」
 エンリットもやり手の貿易商だ、アルバのような若造に怯む男ではない。しかし、高貴な血筋の彼の機嫌を損ねてはならないと、媚びへつらって下手に出る。アルバをやりこめようと思えばできるが、その気になれば貴族の身分を得られる相手と禍根を残したくない。幸いにも、ツィオはまだ迎え入れたばかりでそれほどの思い入れもない。
「こちらでお待ちを。連れて参りますので」
 応接室に通され、ふかふかのソファに座ると、アルバは急に不安になってくる。ツィオを物のように買われた怒りでここまで来たが、いざ取り返せるとなると彼との問題を思い出してしまう。「嫌いだ」と言われてから、口をきくことも、顔を合わせることもしていない。また彼に拒まれてしまったら、どれだけ苦しいだろうか。そう考えると、今から心臓がばくばくと鳴り、息苦しくなる。
 アルバは痛む胸を手で押さえ、深く息を吸った。きっと兄貴はあの時は機嫌が悪かったんだ。きっと嫌なのに無理やり買われたんだ。きっと自分のところに帰ってきたいんだ。そんなことを必死に自分へ言い聞かせる。気を抜くと、すぐにでも涙が溢れてきそうだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

白花の檻(はっかのおり)

AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。 その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。 この出会いは祝福か、或いは呪いか。 受け――リュシアン。 祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。 柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。 攻め――アーヴィス。 リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。 黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。 王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...