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十日伊予

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1566 蜜月

婦女子の集い

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 貴族との初顔合わせは、妙ちくりんなものだった。
 ラスに貴族の居住地の中まで連れられ、街とは比べ物にならない豪華な屋敷が立ち並ぶのに驚くのも束の間、アルバはたちまち十人を超える使用人たちに囲まれる。清潔で、華美ではないが上品に仕立てられた制服を着た使用人たちは、困惑するアルバをあっという間に屋敷に連行する。屋敷に着くと、当主と夫人、それからお茶会の主催である若い娘が仰々しく出迎えた。彼らの長身と、黒髪、青みがかった目の色に、アルバはちょっと動揺する。彼らにはどこか自分の面影があり、実際そうなのだが、遠い親戚に突然出会ったような感覚だ。アルバはフードをかぶっていたが、当主たちはその下を見たがる気持ちを隠しきれないようだ。ラスは気さくに挨拶をすると、アルバを連れて屋敷に上がる。美しく手入れをされた庭園に通されると、そこには若い貴族の娘たちが四人いた。
「きゃあ、ラスさま!」
「ご交際相手さまもいらしてるわ!」
「たくましい殿方なのね、素敵ぃー!」
「やだわ、皆さま、はしたない、はしたないことですわ」
 娘たちはアルバとラスを見た途端に、頬をばら色に染めてはしゃぎ出す。当主は彼女たちに一言二言苦言を呈して、彼女たちのお茶会だからと遠慮してその場を後にした。
「では、改めまして。ラスさま、御機嫌よう。そちらのお方は、お初にお目にかかります。シンシア・リルぺと申します。本日はご足労いただき、感謝いたします」
 皆が席につくと、主催の娘、シンシアが改めて挨拶をする。綺麗な水色のドレスの裾を持ち上げて、貴族風の礼をラスとアルバとそれぞれにした。アルバは、彼女の白い顔にかかる丸メガネを、一体なんなんだろうと見つめている。高価で平民では買えないので、彼がメガネを見るのは初めてだ。
「やあ、シンシア。素敵な会に招いてくれて感謝するよ。皆も元気そうで何よりだ。アルバ、彼女たちに挨拶をしてくれないかい?」
 ラスがくだけた調子で挨拶を返し、アルバに目配せをする。アルバは慌てた。
「あ、その、アルバと申します。当一座をご贔屓にしていただき、感謝いたします。本日はよろしくお願いいたします」
 旅芸人の仕事で金持ちに挨拶をする時の文句を口走る。ラスには「ありのままでいいよ」とだけ言われて、貴族の前での振る舞いは教えてもらっていないので、これが今のアルバにできる精一杯の挨拶だ。貴族なんて自分とそう変わらないと思い、その立場にピンときていなかったアルバも、居住区や彼女たちの独特な雰囲気に気圧されて緊張している。
「アリアドネ・ロードと申します。こちらは双子の妹のリントルカ・ロード」
 他の娘たちも自己紹介を始める。同じ髪型に同じドレス、同じ顔をした二人が礼をした。
「私はジェネルー・エスタと申します」
 今度は一際背の高い娘が礼をする。ラスとそう変わらない背丈だ。
「メリーサ・イチェンです。お会いできて光栄でございます」
 最後に、髪をくるくると縦に巻いた娘が礼をし、挨拶が終わる。主催のシンシアが何か言おうとする前に、メリーサが興奮気味に口を開いた。
「その、お二人はご交際をされていらっしゃるということで」
 アルバの方に身を乗り出そうとするメリーサを、隣に座るアリアドネが慌てて止める。
「はしたないわ、いけない、落ち着きましょう」
「ああ、申し訳ございません。つい……」
「わ、私もお聞きしたいことがございますわ!」
 メリーサが我にかえったのも束の間、今度はジェネルーが興奮して裏返った声を上げる。様子のおかしい婦女子たちに困った顔になって、アルバはラスを見た。
「ええと、これはどういう集まり?」
 彼の質問に、ラスはまた言い淀む。
「なんて言おう、趣味の集まり、かな。みんな名家のお嬢さんなんだけど、アルバと会わせてくれたら、この先もしアルバとの縁談が出ても断ってくれるって……」
「なんでそんな」
「うーん、その、ね……」
 一生懸命言葉を選ぶ。アルバは要領を得ず、居心地悪そうにもじもじとする。
「同好会のようなものですわ」
 シンシアがにっこりと笑った。近くにいた使用人に言いつけ、数冊の薄い本をアルバに渡させる。
「私たち、殿方同士の恋路に興味がありますの。ここにいるのは、殿方同士の恋愛小説を書いて、読み合いをしている会の会員になりますわ」
 彼女が明るく言い放つ。アルバは一瞬、シンシアが何を言っているのかわからなかった。
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