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1566 蜜月
これから
しおりを挟む営業再開はもうじきだ。数日中に国祖神からのお達しが出てアルバが貴族として認められたら、一座の封鎖は完全に解かれる。
アルバのことで父に国祖神に掛け合ってもらう時、ラスは「アルバが今まで通りの生活ができるように」と頼んだ。公に貴族になることで、彼が貴族の娘をあてがわれたり、貴族の生活を強要されたりするのは避けなければいけない。アルバから自由を奪う結果になってはいけない。
国祖神からの勅令を待つ間、ラスもアルバもこれからのことに頭を悩ませる。ラスに家族を捨てさせたくないアルバと、アルバに友人や馴染んだ生活を失ってほしくないラス。お互いがお互いのためだと譲らず、話し合いは平行線のままだ。
「どうしたよ、そんな顔して」
今日もまたラスとの話し合いに決着がつかず、疲れた顔で夕食をとっているアルバにフランマが絡んでくる。ラスは今日は実家で両親と食事をする予定なので何も食べないが、アルバの隣に座って紅茶だけ飲んでいる。
「この先、ラスとどうやって一緒にいようかって話してるんだけど、うまくいかなくて」
近くのテーブルから椅子を持ってきて自分たちと同じテーブルにつくフランマに、アルバはため息をつく。
「ぼくはラスには都で暮らしてほしいけど、ラスはぼくには旅芸人を続けてほしいんだ」
「あー、そういうやつか」
彼の悩みを理解し、フランマは頬杖をついた。
「巡業先で良い人見つけた旅芸人は、皆それに悩まされるんだよな」
「そういう人たちはどうしてるの?」
フランマのつぶやきに、ラスが小首を傾げる。すると、フランマは指を三本立てて見せる。
「ざっくり、三通りありますね。ダイモンの親父さんに掛け合って、恋人を下働きとして一座に入れる。一座を抜けて恋人の家に転がり込む。旅芸人と町民としてそれぞれ別に暮らして、数年に一度、巡業で来た時だけ会う。まあ、会えない間にうやむやになって終わるんで、三つ目はおすすめしませんね」
指を一本ずつ折って説明する。本当は四つめの選択肢、「別れる」があるがフランマはあえて口にしない。
「うーん、別に暮らすのが一番折り合いがつくかな……」
アルバが腕を組んで眉間に皺を寄せる。フランマが呆れて目をぐるりと回した。
「お前聞いてたか? それはおすすめしないって」
「聞いてたけど、でも、もうそれしかないじゃん」
「アルバ、自然消滅は怖いぞ? あれは強い意志とか絆でどうにかできるもんじゃない」
「うーん、そう言われたってさあ」
二人はやいやいと言い合い始める。ラスはしばらくそれを眺めていたが、やがてちょっとうつむくと口の中だけでぼそりとつぶやいた。
「私は、アルバに何年も会えないのは嫌だ……」
ラスの表情が翳る。その言葉は彼には届かないし、届けるつもりもない。ラスは本心では親から離れてアルバについて行ったり、アルバに旅芸人を辞めてもらって一緒に暮らしたり、何かを失ってでも彼といたいと強く願っていた。しかし自分が家族を捨てるとアルバをひどく傷つけてしまう。アルバに旅の馬車から降りてもらうと、彼は友人と別れなければいけないし、その先で両親がアルバを認めないかもしれない。彼はどうしても覚悟が決まらない。
「あんた、この子にちょっかい出すんじゃないよ!」
リッカの怒った声で、ラスは顔を上げた。アルバとフランマもそちらを見やると、スースにつきまとっていたミューズがリッカに叱られている。
「おーおー、あいつ、とうとう怒られてやがる」
フランマが苦笑いして立ち上がる。アルバとラスにひと言断ると、仲裁しに行った。
退院したミューズはアルバの仲立ちでスースと話すようになってからというものの、彼女を追いかけ回している。スースの姿を見ればすぐに話しかけに行ってしつこくデートに誘い、スースがのらりくらりとはぐらかしてもめげない。当人のスースよりも先に、それを見ていたリッカの方が堪忍袋の緒を切らしたようだ。
「断られてんのを分かりなさい! ったく、しつこい男だね!」
「まあまあ姐さん、落ち着いてちょうだいな」
厳しく叱りつけるリッカを、スースが止めようとする。ミューズは稼ぎ頭のリッカに怒られ、怯んで涙目になっていた。
「私はそう嫌じゃないですよ。一生懸命な坊やもかわいいものじゃない」
「あんたもあんたよ。その気もないのにはねつけないで……」
ミューズをかばうスースに、リッカは頭を抱える。するとフランマが間に割って入ってきて、「こいつがすみません、よく言い聞かせとくんで」とミューズの頭を掴んで下げさせた。ミューズは悔しさでいっぱいになり、先輩に謝らせられているのにも関わらず反論をする。
「その気がないって、でもスースは今、俺のことかわいいって」
「男として見てる相手に、坊やなんて言うわけないでしょうが」
ミューズの言葉を、リッカはばっさりと切り捨てる。「あらあら」とスースが困った声を出した。
「なんでそんなきつい物言いしかしないんすか!」
猛烈に恥ずかしくなり、それを振り解くようにミューズは怒鳴る。
「だから未だに独り身なんじゃないですか⁉︎」
彼のせりふに、フランマが真っ青になった。反射的にミューズの頭を叩く。「人気芸人に喧嘩売るなよ」とフランマが叱りつけるも、ミューズには響いていないようだ。
「独り身? それの何が悪いのさ、あたしには舞台があんのよ。ぼて腹で引退なんてまっぴらだよ!」
目元をぴくぴくと引きつらせ、リッカはさっきよりも頭に血がのぼっている様子だ。
「あーあ、リッカさん、この人の子どもを産みたいって思えるほど惚れたことないんだ」
「あんたね、そんなことを孕まない男が言うんじゃないよ!」
嫌味を吐くミューズの頭を、今度はリッカがしばく。二人は食堂の真ん中にも関わらず、言い争いを始めた。アルバはそれに気を取られているが、ラスはまだ暗い表情のままだ。
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