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十日伊予

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1567 復讐

従者メル

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 細々とした話が終わると、アルバは返り血を落とすために浴室へ連れて行かれる。入浴の世話にと、使用人の他にも従者のメルをつけられた。亜麻色の髪をオールバックにまとめ、髭も眉も綺麗に手入れして、メルはいかにも生真面目そうな面立ちだ。アルバと並ぶと小さく見えるが、ただの人にしてはとても背が高い。ジーグリッドとそう背丈が変わらず、リザモンドを抜かすほどだ。
「お初にお目にかかります、メルと申します。何なりと──」
「いいよ。そう言うの聞く気ない」
 挨拶をしようとしたメルをアルバは遮る。ただでさえ最悪の気分なのに、大嫌いな風呂に入らされることで彼の機嫌はこの上なく悪い。
 風呂を終えると、夕食が用意されている。食事の前にメルから散々作法について説明され、アルバはうんざりしながら料理に口をつける。夜もゆっくりすることはなく、アンジャンドと今後についての話し合いをさせられた。アルバがラスたちを破滅させたいと話すと、アンジャンドは渋い顔をする。力を貸してというアルバをはぐらかし、彼は違う話に誘導しようとする。アルバはがっかりして、ため息をついた。協力するつもりはないと、彼の態度からひしひしと感じる。話は遅くまで続き、アルバがようやく寝床に入れたのは日付が変わってからのことだった。
 翌朝、朝早くからメルに起こされる。使用人たちが夜の間にジーグリッドの服を材料に急拵えした、丈の足りない貴族風の服に着替えさせられる。襟飾りが邪魔だと文句を言う間もなく、家族での朝食へと連れて行かれた。朝食の後は部屋に押し込められ、貴族についてをメルから叩き込まれる。こんなことのためにここに来たんじゃないと、アルバはいらだちを溜め込んだ。
「ねえ、ぼくはやることがあるんだけど」
「いけません、アルバさま。高貴なお方がそのような言葉遣い。まずは、ご自分のことは『私』とお呼びください」
 いらいらして足を揺するアルバに、メルは厳しく指摘する。仮面でも被っているかのように表情を表に出さないメルに、アルバはむかついた。ジーグリッドの耳打ちで漏れ聞こえた秘密で、嫌味を言ってやろうとする。
「お前、リザモンドが好きなんだって?」
 アルバの言葉に、メルはぴくりと目を引きつらせた。
「かわいそうにね、こんなぽっと出の男に」
「私はザラス家の使用人です。お嬢さまとその婿殿にそのような感情を抱くなど、決してありません」
 一瞬の動揺を見せたが、彼はすぐに落ち着いて冷淡に言い放つ。アルバが何か言おうと口を開くと、ちょうどその時、アンジャンドが部屋に入ってきた。
「城から呼び出しがかかった。国王が拝謁せよとのことだ」
 そう話すアンジャンドは少し緊張した様子だ。すぐに、アルバは正装に着替えさせられる。正装も昨晩の間に用意されていたが、こちらも丈は足りない。
「国王ってどんな人?」
 メルに髪を直されながら、アルバが尋ねる。メルはクリームをつけた手でアルバの癖毛を撫で付けながら、淡々と答える。
「今のテレスパタカさまはお若い王であられます。思慮深い、まさに賢王と呼ぶに相応しい御方だと伺っております」
「今の?」
 メルの話に、アルバは首を傾げた。メルは表情を変えず口にも出さないが、内心で「そんなことも知らないのか」とつぶやいた。
「国王さまは皆同じ御名を持たれます。古来より国祖神さまは御子息さまには必ずテレスパタカの名を授けられ、また、この国で王座の継承権を持つのはその御名を冠するお方のみと決まっております。アルバさまも生まれだけで言えば国王さまと変わりはございませんが、テレスの名を持たぬので継承権はございません」
「ふーん……」
 国のことをほとんどわかっていないアルバにはその話はピンとこない。国王が腹違いの兄弟で、自分は王にはならないということだけ理解する。腹違いの兄弟、そんなことを考えると、ラスのことが思い出されて胸がむかむかする。吐きそうな気分だ。それと同時に、ラスとは違う境遇の兄弟の存在に、少し浮ついた気持ちも覚える。別れる前は異父妹のトパを可愛がっていた彼は、元来、きょうだいという関係を大切にしている。アルバはどこか、王をフランクに考えている。



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