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1567 復讐
初夜
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それからしばらくして、リザモンドとの閨が執り行われることが、メルづてにアルバに知らされた。寝る前に、翌日の夜にそれが予定されていることを知らされ、アルバはちょっと暗い気持ちになる。好きになれない相手を抱くことに嫌悪と不安を覚え、しかしこの一家に留まるためには必要な対価だと自分に言い聞かせた。メルは閨を知らせた時も、閨での立ち振る舞いを説明している間もすました顔のままだ。
当日の朝、一家の皆が集まる朝食の席では、アンジャンドは上機嫌だ。彼の妻は娘の様子を気にかけている。リザモンドははにかみながらアルバに視線をやり、マリートルトはいつもと違う雰囲気に怪訝そうだ。ジーグリッドはアルバがマリートルトの前でいらぬことを口走らないよう、彼を軽く睨みつけている。
食事を終えて食堂を出るのは、家族の中で順番が決まっている。末の娘から順に娘が出て、当主の妻、跡取り以外の息子たち、跡取り息子、当主の順番だ。マリートルトが退室すると、アンジャンドはアルバに今夜はしっかりやるように軽く声をかける。リザモンドは少し赤くなってうつむくも、その口元は緩んでいた。
当主の妻であるリリアンナが出てからしばらくして、アルバはメルに促されて食堂を出る。すると、食堂を出てすぐでリザモンドがメイドを連れて彼を待っていた。
「ごめんなさい、はしたないことを」
リザモンドは頬をばら色に染めて、恥じらいを含んだ控えめな笑みをアルバに向ける。
「私、嬉しいです」
そう言い、期待を込めたまなざしでアルバを見やった。その目が恋をしていると痛いほどわかってしまい、アルバの胸に申し訳なさが込み上げてくる。情がわき、好意はなくともせめて優しくしてやろうと、アルバはラスにしていたように彼女の頭を撫でてやった。リザモンドは予想していなかったことに顔を真っ赤にして、目を見開く。アルバには自分と同じ言葉のみを望み、それ以上が返ってくるとは思っていなかった。
「い、いやだわ。アルバさま、こんなところで、恥ずかしい。貴族になられたのだから、慎みをお持ちになって」
照れ隠しにそんなことを言い、リザモンドは自分の頬を両手で包む。彼女のメイドが、微笑ましいものだとにこにこしている。
「メル、今宵はしっかりやるのよ。私とアルバさまの大切な初夜なのだから」
不意に、リザモンドはメルに声をかけた。その途端、すまし顔で立っていたメルが唇をきっと結んで耳まで真っ赤になる。傍の彼の表情を見ずとも、その動揺はアルバにすら伝わる。リザモンドのメイドが、咎めるような目つきになった。その視線に気がつき、すぐにメルは取り繕った。「仰せのままに」と答え、頭を下げる。
「お嬢様。次のご予定が」
リザモンドのメイドが気を利かせ、彼女に耳打ちをする。リザモンドはアルバに礼をしてから、その場を立ち去った。
「なんか、ごめん」
気まずい空気の中、メルと二人で残され、アルバは思わずそうつぶやく。メルは一瞬だけいら立ったような表情になったが、アルバが気がつく間もなくすぐにいつもの鉄面皮に戻る。
「使用人に易く謝られないよう。お立場を自覚なさってください」
彼は淡々と答える。アルバはため息をついた。
当日の朝、一家の皆が集まる朝食の席では、アンジャンドは上機嫌だ。彼の妻は娘の様子を気にかけている。リザモンドははにかみながらアルバに視線をやり、マリートルトはいつもと違う雰囲気に怪訝そうだ。ジーグリッドはアルバがマリートルトの前でいらぬことを口走らないよう、彼を軽く睨みつけている。
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「ごめんなさい、はしたないことを」
リザモンドは頬をばら色に染めて、恥じらいを含んだ控えめな笑みをアルバに向ける。
「私、嬉しいです」
そう言い、期待を込めたまなざしでアルバを見やった。その目が恋をしていると痛いほどわかってしまい、アルバの胸に申し訳なさが込み上げてくる。情がわき、好意はなくともせめて優しくしてやろうと、アルバはラスにしていたように彼女の頭を撫でてやった。リザモンドは予想していなかったことに顔を真っ赤にして、目を見開く。アルバには自分と同じ言葉のみを望み、それ以上が返ってくるとは思っていなかった。
「い、いやだわ。アルバさま、こんなところで、恥ずかしい。貴族になられたのだから、慎みをお持ちになって」
照れ隠しにそんなことを言い、リザモンドは自分の頬を両手で包む。彼女のメイドが、微笑ましいものだとにこにこしている。
「メル、今宵はしっかりやるのよ。私とアルバさまの大切な初夜なのだから」
不意に、リザモンドはメルに声をかけた。その途端、すまし顔で立っていたメルが唇をきっと結んで耳まで真っ赤になる。傍の彼の表情を見ずとも、その動揺はアルバにすら伝わる。リザモンドのメイドが、咎めるような目つきになった。その視線に気がつき、すぐにメルは取り繕った。「仰せのままに」と答え、頭を下げる。
「お嬢様。次のご予定が」
リザモンドのメイドが気を利かせ、彼女に耳打ちをする。リザモンドはアルバに礼をしてから、その場を立ち去った。
「なんか、ごめん」
気まずい空気の中、メルと二人で残され、アルバは思わずそうつぶやく。メルは一瞬だけいら立ったような表情になったが、アルバが気がつく間もなくすぐにいつもの鉄面皮に戻る。
「使用人に易く謝られないよう。お立場を自覚なさってください」
彼は淡々と答える。アルバはため息をついた。
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