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1567 復讐
ウェイドの出所
しおりを挟むマリートルトを嫁に出す話が出てからずっと腹を立てているようで、ジーグリッドはアンジャンドやアルバと必要以上に口を利かなくなった。アンジャンドは呆れるが咎めず、気の済むようにさせてやる。アルバはひとまず謝ろうとするが、ジーグリッドはその機会を与えない。困り果てるアルバに、リザモンドはここぞとばかりに慰めに来る。彼女は妹の嫁入りを知っており、かわいそうに思わないことはないが、アルバを取り合って喧嘩するよりはましだと思っているようだ。当のマリートルトは、嫁入りの話を聞かされると最初は嫌がっていたが、やがて受け入れたようでメイドたちと夫はどんな人だろうかと空想話をするようになった。
リルぺ家との交渉から数日すると、ウェイドの出所の日が来る。ジーグリッドの計らいで、ウェイドはザラスの屋敷に連れて来られた。彼を輸送する馬車は、深夜に屋敷の裏手に停まる。計画のこともあるが、アルバの愛人という設定もあり、ウェイドの存在はリリアンナやリザモンドにも隠している。
ウェイドとの密会は屋敷の納屋で行われる。アンジャンドはそこには同席しないが、ジーグリッドとともに密会に臨むアルバに「リザモンドをないがしろにはしないよう」と口酸っぱく言った。アルバはうんざりとした気持ちで、アンジャンドに気の抜けた返事をする。ジーグリッドは相変わらず、アルバにつんとした態度のままだ。
ジーグリッドと二人で納屋に入ると、中ではウェイドがうつむいて立っていた。彼はげっそりと痩せ細り、脂じみた赤毛は伸び放題で、うつろな目をしている。足には枷の跡が残り、手は今も縄で柱に繋がれていた。
「あ、あの」
彼の尋常ではない様子に、アルバはたじろいでうまく話せなくなる。その様子に、ジーグリッドは咳払いを一つすると自分が話し始めた。
「まず、貴族である私が直々に話してやることを光栄に思うがいい。次にウェイドとやら、貴様の所業は知っている。その上で、我々は貴様を解放した。よほどの恩知らずでないのなら、どうすべきかはわかるな?」
ジーグリッドの言葉に、ウェイドはピクリと反応する。ふふ、と、彼の唇から乾いた笑い声が漏れた。
「玩具にするんだったら、殺してくれよ……」
そう言い、ウェイドはがっくりとうなだれる。ジーグリッドはアルバをちらりと見やると、気まずそうにもう一度咳払いをしてみせる。
「何を勘違いしているかは知らんが、私もアルバも貴様の体になど興味はない。貴様には、我々の手駒となって働いてもらう。雷神さまに叩きのめされたとはいえ、打ちどころは良く、今はもうまともに動けるのだろう。我々の求める仕事はできるはずだ」
彼は声を落とし、計画について話し始める。ウェイドをルルトア村に送り込むこと、そこで発電所の技術者として学ぶこと、覚えた技術を使って発電所に事故を起こすこと。話が進むにつれ、ウェイドの顔が青くなる。
「なんで、こんなこと……」
彼は小さくつぶやき、体を震わせる。ジーグリッドは苦々しい顔をした。
「我々の目的は、最高神さまから地位を奪うことだ。成功すれば、貴様には望むものをやろう。それなりの地位につけてやってもいい。しかし従わなかったり、逃げたり、計画を外に漏らしたりしたら……。貴族には平民の法律は適用されず、貴族の規律にも貴様のような者を守るものはない。我々は貴様には何をしてもいいのだ。これ以上は言わせるな」
ジーグリッドの声が低くなる。ウェイドは怯え、冷や汗を垂らしてゆっくりと首を縦に振った。
「あの、ごめん」
ウェイドとの話を終えて納屋を出ると、アルバはジーグリッドに頭を下げる。それは話をほとんどジーグリッドにさせたことと、マリートルトの嫁入り、両方への謝罪だ。
屋内に戻ろうとしていたジーグリッドは立ち止まり、唇を噛んでしばらく黙ったままでいる。アルバがおろおろとしていると、やがて彼は口を開いた。
「……これでいいのだろうか」
落ち着いた声音だが、言葉の終わりには震えが滲んでいる。ジーグリッドがアルバに向ける顔は、怒りではなく恐れが浮かんでいる。
「私は家のため、家族のために貴様の計画に乗ったのだ。それにより妹を傷つけるのは、望むところではない。私はここで降りた方が──」
「嫌だよ!」
ジーグリッドのせりふに、アルバは思わず大きな声を上げた。離れたところで待機している従者たちが、何事かとこちらの様子を見ている。アルバは心臓がばくばくと鳴るのを感じながら、また口を開く。
「ぼくはあいつを破滅させないといけないんだ」
そう言うアルバの顔は、今にも泣き出しそうだ。ジーグリッドは悲しそうに目を伏せた。
「……過去のことは忘れ、リザモンドと幸せな家庭を築けばいいだろう。自分の子が生まれたら、きっと貴様も気が変わる」
ジーグリッドの言葉に、アルバは何度も首を横に振る。彼はジーグリッドに歩み寄って、彼の肩を掴んで必死ですがる。
「お願いだ、父さんのためなんだ。育ててくれた父さんは、あいつらのせいで死んだんだ。ぼくがやらなきゃ、父さんは救われない。マリーはラスでもなんでも使って、ぼくが絶対に守る。お前の助けがないと、ぼくはやり遂げられない。ジーグリッド、お願いだから一緒にやってくれ」
一生懸命話しているうちにとうとうアルバは泣き出して、ひっくひっくとしゃくりあげてしまう。彼の様子にジーグリッドは胸を痛め、本心では突き放さないといけないと思いながらも頷いてやった。
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