【更新終了】Bro.

十日伊予

文字の大きさ
199 / 271
1567 復讐

現実逃避

しおりを挟む



 アルバはラスに手紙を送る。義理の妹がリルぺ家に嫁ぐので、彼女がいじめられないようにリルぺ家に釘を刺してほしい、何かあったら力になってほしい、そんな内容だ。ラスは「もちろんだよ」と返事を書き、アトリエまで手紙を取りに来たシンシアに珍しく顔を見せる。普段は使用人のネッドを通して手紙を渡してくるのに、今日はラスが出てきたことにシンシアは驚く。彼の顔の、アルバに殴られて今は治りかけの怪我を見るとさらに目を丸くした。
「顔、気にしないで。これ、アルバに持って行ってほしいんだ」
 ラスは悲しげに顔のあざをなぞり、シンシアに手紙を差し出す。アルバに殴られたことを思い出すと、不意に不安がこみ上げてくる。
「アルバは私の手紙を受け取るとき、どんな顔をしてる?」
 嬉しそうに顔をほころばせていてほしい。そう願い、ラスはシンシアに尋ねた。シンシアは困った顔をする。
「さあ、私は使用人に手紙を届けさせているので、彼に直接は会っておらず……」
「そっか……」
 彼女の返事に、ラスがちょっと肩を落とす。シンシアは彼が気の毒になり、せめてもと声をかけてやった。
「リザモンドさんとは、うまくいっていないようですよ。ご懐妊のきざしもまったくないようで」
 社交会の噂を教えてやると、ラスの顔はぱっと明るくなる。しかし、妻との不仲を喜んだことをは人として恥ずかしく思え、すぐに赤くなった。もじもじと手をもてあそび、「そうなんだ、大変だね」と小声でつぶやく。
「そうだ、アルバから聞いたよ。マリーちゃんが君のお兄さんと結婚するんだね。彼女を大事にしてあげてね。絶対にいじめちゃだめだよ」
 ほてった顔を手で押さえ、ラスはシンシアにそう言いつける。シンシアは頷いた。
「……私をあなたさまの妻にするよう、父とザラス家の者が動いています」
 彼女はちょっとためらってから、そんなことをラスに伝える。ラスは楽観的に、「ああ」と答え、頭をかいた。
「アルバが手紙でちょっと触れてたね。私たちの関係を、アンジャンドたちが利用しようとしているって。アルバは私が女性と結婚するのは嫌だけど、自分も結婚しちゃったし、私たちのことに理解のあるシンシアなら許せるって言ってた」
「そうですか……」
 二人が納得しているのなら、そうつぶやいて頷くシンシアの顔は暗い。気づかず、ラスは続けた。
「私は彼を愛しているから、もし君を奥さんにもらっても、そういうことはしたくないな」
 シンシアのことなど考えず、そんなことを言う。シンシアの顔はさらに暗くなって、しかし彼女は再度頷く。
「いつもありがとうね、シンシア」
 ラスは彼女に、屈託のない笑顔を見せる。まるで自分のことばかりだ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...