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十日伊予

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1567 復讐

思いの丈

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 ラスはうみべのアトリエで、質素な暮らしを続けている。最近は新しい画家の名義でも名が売れてきて、報酬の良い仕事が入るようになってきた。しかしその報酬はアルバへの貢ぎでほとんど消え、使用人に給料を払ってしまうと生活費は雀の涙だ。
「都では今度、国祖神さまへの雨乞いの大きなお祭りをするそうです」
 食卓に黒パンとふかし芋の朝食を並べながら、使用人のアーチがラスにそんなことを言う。
「旦那さまも参加なされるんですって。今ある飛行船を全部お祭り仕様に塗って、数日かけて国中を飛ばして国民がみんな見れるようにするって聞きましたよ」
「父さんの話はやめて」
 アーチが楽しげに話すのを、ラスは苦い顔で止める。アーチは唇をへの字に曲げ、腰に手を当ててラスをしっかりと見やった。
「もう仲直りされたらいいじゃないですか。旦那さまは、お坊ちゃまのことを心から心配されていますよ?」
 彼女はそう言い、責めるようにラスを見る。アルバと別れた時、ラスは使用人には両親と縁を切るとだけ伝え、彼と両親の因縁を誰にも話さなかった。ネッドなどほとんどの使用人はラスの気持ちを尊重して何も聞かずに従ってくれるが、両親との付き合いが長いアーチは納得できないようで、今もたびたび家族の復縁を口にする。
「奥方さまも、お坊ちゃまが出ていかれてから塞ぎ込んでしまって、ずっと伏せているそうですよ」
「アーチ」
  ラスの声が低くなる。アーチは何か言いたげだが、ラスが本気で嫌がっていると察して黙った。
 その日の午後、ラスは仕事を一段落させると、アルバに手紙を書く。他愛もない近況と愛の言葉をつづっていたが、そうしていると会いたい気持ちが溢れてくる。ラスは長く伸びて、高いところで一つに結んでいる自分の髪の毛に触る。これがどこまで伸びたら、アルバに会えるだろうか。もう一年になるのに、いつまでも会える気配もないことがもどかしくてたまらない。
 一年間、アルバが送り続けた愛の言葉が、ラスの胸に傲慢な焦りを生む。紙の上の言葉をくれるより、目の前にいてほしいと願ってやまない。そこにリザモンドがいようがいまいが関係ない、アルバが愛してくれているのは自分だ。
 ──今度、雨乞いの祭りがあるって聞いたかな。
 彼は思わずそんなことをつづる。その先の言葉は止めようがない。アルバも祭りに参加するかな、君が来るなら私も行くよ、そこで会えたら嬉しい、愛しい君の顔をもう一度見たい……。思いの丈を手紙に書けば書くほど、ラスの気持ちは盛り上がってしまう。ずっと我慢していた「会いたい」という言葉を伝えてしまえば、アルバもわかってくれるはずだ。
 ラスは手紙に封をするとすぐにシンシアを呼び出し、紅潮した顔で彼女に手紙を託す。
「アルバは奥さんとどう?」
 手紙を受け取ったシンシアに、彼はそう尋ねる。それはすっかりお決まりになった質問で、シンシアはいつも同じような言葉を返す。
「あまり良い話は聞きません。アルバさまはジーグリッドさま主導の事業に夢中で、リザモンドさんを置いて出かけられることも多いそうですね」
「そっか。教えてくれてありがとう」
 ラスはシンシアの返事にうっすらと笑う。彼の胸に優越感が満ちた。それがはしたないことだとわかっているが、ラスはどうしてもその質問をやめられない。アルバがリザモンドをないがしろにしていると聞くと、自分に操を立ててくれるアルバの愛を感じられる。
「私たちの結婚の話が進んでいます」
 手紙をしまい、シンシアはそう言う。ラスは困ったように小首を傾げた。
「私は父さんと話す気はないから、君のお父上づてに色々と聞いてるよ。日照りがおさまったら結婚だって。パーティーは盛大にやるんだってね。父さんに会わなきゃいけないのかな……。それにリルペ家は私の子がどうしても欲しいみたいで、すごく嫌だよ」
 ラスは結婚には納得していて、彼の気がかりは父親と顔を合わせることや、彼女と子どもをもうけなければいけないことだ。シンシアはため息をつく。
「あ、ねえ、この結婚を機会に、アルバが会いたいって言ってくれるかもしれないよね」
 気づかず、ラスはちょっと顔を赤くしてそんなことを言い出す。
「だってアルバ、私が結婚するのは本当は嫌だもの。私が独身のうちに、一度は会いに来てくれるはずだよ」
 彼は手紙を書いて高ぶった気持ちのままに、うっとりとした目つきになる。シンシアは押し黙り、目を伏せてしまう。ラスにとって自分との結婚が些細なことは、彼女にはこの上なく不愉快だ。


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