【更新終了】Bro.

十日伊予

文字の大きさ
225 / 271
1568 箱庭

両家の憂い

しおりを挟む


 ラスとシンシアの結婚式が近づいた頃、アルバはようやく意識を取り戻す。しかしはっきりと覚醒しているわけではなく、喋ったり文字を書いたりと意思表示をすることはまだ難しい容体だ。彼が今できるのは、時折目を動かしたり、何か言おうとしてうめいたりするだけだ。
 ラスはとっくに退院しており、シンシアとの結婚準備もあったが、それでも毎日アルバを訪ねて長時間居座った。アルバが目を覚ましてからは彼に喋りかけるようになり、シンシアにも語ったアルバとの夢物語を何時間でも話す。アルバがそれを聞き取って理解できているかは定かではなかったが、ラスはアルバがそれを全て受け入れてくれていると信じていた。何度も彼に愛をささやいて、抵抗できない彼の頬や額にキスをする。アルバの世話も、周りがなんと言おうが続けている。
 そんなラスに、ザラス家もリルぺ家もほとほと困っていた。アルバを自分のものにできると信じ込んでいるラスの言動で、リザモンドは精神的に参ってお腹の子にも影響しそうなほどだし、アンジャンドも婿を奪われてしまっては今後の社交界での立場に響くと悶々としている。ジーグリッドは次期当主として父と同じ悩みを抱えていたが、それ以上に、愛する自分の家族としてリザモンドとアルバにはラスの介入しない穏やかな暮らしをさせたかった。エルディムはリルぺ家の当主として、ラスがアルバを愛人として迎えて好き放題するのは到底認められない。ただの性欲処理のための愛人ならともかく、ラスはおかしくなるほどアルバに入れ上げている。彼の存在はシンシアとの閨に響く可能性があるし、ラスがアルバに権力を持たせて、彼の籍があるザラス家とのパワーバランスが崩れてしまうかもしれない。
「お互いの立場も、リザモンド嬢のこともある。ここは一つ、協力してラスさまからアルバ殿を引き離そうではないですか、アンジャンド殿」
 両家は悩んだ結果、当主同士で話し合いの場を設けた。
「エルディム殿の案に賛成します。いやはや、我が家の婿養子がご迷惑をおかけします」
「いえ、とんでもない。不敬ではあるが、御子息さまといえど私の義理の息子だ。こちらこそ、とんだ災難をふりかけてしまい、申し訳ない」
 アンジャンドとエルディムはすぐに合意し、ラスからアルバを離す計画を立てる。意識が戻りきっていないとはいえ、アルバはかなり回復し、設備を整えたら都の病院でなくとも療養できる容体だ。両家はザラス家の抱える十使族の集落に設備を準備し、そこにアルバを匿うことにする。リルぺ家はラスがアルバから離れるタイミングを作り、その隙にザラス家がアルバを移送することになり、そのタイミングはラスたちの結婚式の日に決まる。ラスがアルバを取り戻すために父親の権力を濫用しようとすることに備え、雷神にも計画を伝えた。息子をおかしくしたアルバを好ましく思っていない雷神は、二人の関わりを断つことに協力的だ。ラスにアルバのことで権力を使わせないよう約束し、そしてアンジャンドに「息子にもうアルバを近づけないでくれ」と求める。
「仰せのままに」
 アンジャンドは雷神の要求に応え、ひざまずく。エルディムもリルぺ家でラスを見張ることを約束し、雷神に服従を示した。
 彼らがそうしている間も、ラスはアルバの傍で妄想に耽溺している。アルバは睨むこともできず、ただ力無く彼に向けるしかできない青い目はまるで禍根なく彼を見つめているようだ。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...