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1568 箱庭
両家の憂い
しおりを挟むラスとシンシアの結婚式が近づいた頃、アルバはようやく意識を取り戻す。しかしはっきりと覚醒しているわけではなく、喋ったり文字を書いたりと意思表示をすることはまだ難しい容体だ。彼が今できるのは、時折目を動かしたり、何か言おうとしてうめいたりするだけだ。
ラスはとっくに退院しており、シンシアとの結婚準備もあったが、それでも毎日アルバを訪ねて長時間居座った。アルバが目を覚ましてからは彼に喋りかけるようになり、シンシアにも語ったアルバとの夢物語を何時間でも話す。アルバがそれを聞き取って理解できているかは定かではなかったが、ラスはアルバがそれを全て受け入れてくれていると信じていた。何度も彼に愛をささやいて、抵抗できない彼の頬や額にキスをする。アルバの世話も、周りがなんと言おうが続けている。
そんなラスに、ザラス家もリルぺ家もほとほと困っていた。アルバを自分のものにできると信じ込んでいるラスの言動で、リザモンドは精神的に参ってお腹の子にも影響しそうなほどだし、アンジャンドも婿を奪われてしまっては今後の社交界での立場に響くと悶々としている。ジーグリッドは次期当主として父と同じ悩みを抱えていたが、それ以上に、愛する自分の家族としてリザモンドとアルバにはラスの介入しない穏やかな暮らしをさせたかった。エルディムはリルぺ家の当主として、ラスがアルバを愛人として迎えて好き放題するのは到底認められない。ただの性欲処理のための愛人ならともかく、ラスはおかしくなるほどアルバに入れ上げている。彼の存在はシンシアとの閨に響く可能性があるし、ラスがアルバに権力を持たせて、彼の籍があるザラス家とのパワーバランスが崩れてしまうかもしれない。
「お互いの立場も、リザモンド嬢のこともある。ここは一つ、協力してラスさまからアルバ殿を引き離そうではないですか、アンジャンド殿」
両家は悩んだ結果、当主同士で話し合いの場を設けた。
「エルディム殿の案に賛成します。いやはや、我が家の婿養子がご迷惑をおかけします」
「いえ、とんでもない。不敬ではあるが、御子息さまといえど私の義理の息子だ。こちらこそ、とんだ災難をふりかけてしまい、申し訳ない」
アンジャンドとエルディムはすぐに合意し、ラスからアルバを離す計画を立てる。意識が戻りきっていないとはいえ、アルバはかなり回復し、設備を整えたら都の病院でなくとも療養できる容体だ。両家はザラス家の抱える十使族の集落に設備を準備し、そこにアルバを匿うことにする。リルぺ家はラスがアルバから離れるタイミングを作り、その隙にザラス家がアルバを移送することになり、そのタイミングはラスたちの結婚式の日に決まる。ラスがアルバを取り戻すために父親の権力を濫用しようとすることに備え、雷神にも計画を伝えた。息子をおかしくしたアルバを好ましく思っていない雷神は、二人の関わりを断つことに協力的だ。ラスにアルバのことで権力を使わせないよう約束し、そしてアンジャンドに「息子にもうアルバを近づけないでくれ」と求める。
「仰せのままに」
アンジャンドは雷神の要求に応え、ひざまずく。エルディムもリルぺ家でラスを見張ることを約束し、雷神に服従を示した。
彼らがそうしている間も、ラスはアルバの傍で妄想に耽溺している。アルバは睨むこともできず、ただ力無く彼に向けるしかできない青い目はまるで禍根なく彼を見つめているようだ。
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