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十日伊予

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1568 箱庭

執着

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 予定されていた雨乞いの祭りは、雨が降り出したこともあり、即位と慈雨を喜ぶ祝祭となる。即位の儀を終えて、祭りの準備で浮足立っている都を、ラスは病室の窓から見ていた。
 心中未遂の際、重体のアルバはザラス家の医者だけでは対応しきれず、設備の良い都の病院に運び込まれた。ラスはその場で処置をした後はアトリエや実家の屋敷でも療養できる容体だったが、彼が望んでアルバと同じ病院に入院した。縫い合わせた傷も経過が良く、ラスはこの数日で体調はかなり良くなっている。アルバは峠は越えたものの、まだ目を覚まさないようだ。
 ラスはアルバの病室に通うことを日課にしている。アルバの隣に腰掛け、彼の世話をしたり、絵を描いたり、都の景色を眺めたりして過ごしている。アルバの容体が良く静かに過ごせる時は、彼を刺した瞬間の激情など嘘のように穏やかな気持ちでいられる。ラスは刃傷沙汰を起こした張本人だが、彼の入室を拒める者はいない。事件以来、ラスは都合が悪いと父親の名前を出して周りを脅すようになった。そうかと思えば、両親からの見舞いは頑なに拒絶しているので、彼の周囲はその様子に困惑するばかりだ。
 アルバの病室にはザラス家の者も貴族の居住地から見舞いに出張っており、ラスと鉢合わせることもある。
「もう夫に関わらないで!」
 はじめ、アルバの見舞いで鉢合わせたリザモンドは、ラスを見るなり金切り声を上げた。彼女に連れ添っていたジーグリッドも苦い顔をして、「罰は私が受けます、どうか義弟のことは放っておいてやってください」と深く頭を下げる。しかしそれらがラスを変えることはなかった。むしろ、彼らがアルバを家族の一員として守ろうとする姿は、ラスの執着心を煽ってしまう。アルバがザラス家を居場所としているなど認められない。アルバが目を覚ませば、その身の傷で自分の気持ちの重さを理解してくれる。自分を捨ててザラス家に婿入りしたことを後悔してくれる。自分の元に帰って来てくれる。そんなことばかりを考えて、アルバの病室に無遠慮に出入りする。リザモンドがどれだけ取り乱そうと、アルバの傍を離れることはない。
 シンシアとの結婚の話は着々と進んでいるようで、リルぺ家の使いがしょっちゅう訪ねてくる。シンシア本人はもちろん、当主のエルディムが自ら出向くこともある。
 国祖神の時代では雷神は政治への不介入を明言していたし、国祖神の血が薄まると貴族から除外されるため、シンシアの嫁入りは雷神の権威のおこぼれを賜れる僥倖に過ぎなかった。しかし今や、二人の結婚は雷神と特権階級の新しい結びつきを強烈に示す縁組だ。結婚自体は前からあった話とはいえ、雷神は息子を政治に使うことを嫌がる。しかしラスは父が嫌がっていることを知ると、彼への当てこすりとしてシンシアとの縁談に積極的になった。きっと彼女との子どもも望まれるだろうが、アルバだってリザモンドを孕ませたのだからと受け入れる。二ヶ月後に盛大に行われることが決まったシンシアとの結婚式は、父親と顔を合わせることは憂鬱だが、そこでも何か当てこすりをしてやろうと思うと耐えられる。
 シンシアは理解してくれるからと、アルバを迎え入れた上での結婚生活についてラスは彼女にしょっちゅう話している。
「私たちは同じ屋敷でも、別々に暮らそう」
 アルバの隣で、彼の顔を愛おしそうに見つめてラスは語る。訪ねてきたシンシアは、ラスとは少し距離を取った所で彼の妄想を黙って聞いてやる。
「私とアルバは、同じ部屋で生活するんだ。リルぺの屋敷で暮らさなくてもいいなら、アトリエに君のための離れを作って、母屋では私とアルバで暮らす。父さんたちはきっともうアルバと私の結婚を許さないだろうね。私も、そんな紙切れの繋がりはもういいや。愛し合ってずっと一緒にいたら、結婚したも同然だよ」
 ラスはアルバとの生活を夢見てうっとりと空を見つめるが、彼を見つめるシンシアの目は翳っていた。
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