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十日伊予

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1568 箱庭

夜明け

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 夜明けとともに、都には国王の崩御を知らせる鐘が響く。関係者以外には、国王は心臓発作で急死したと伝えられた。その日のうちに新しい王が決まり、即位の式典の場には国祖神ではなく最高神が列席し、新王に王位を与えることとなる。国祖神の封印は、城の一部の人間のみ以外は誰も知らない。目撃者である神殿の情婦たちは皆捕まり、監禁されている。
「先代からよく言い聞かされております。お父上……我らの始祖のことも、納得の上です」
 式典の前、新しいテレス王は雷神と話す場をもうけた。彼は崩御した国王の兄で、国王より十歳ほど年上の柔和な男だ。
「私は息子の報復ができて気が済んだが、お前たちはあれでよかったのか?」
 雷神は国祖神の封印について、テレス王にそう尋ねる。
「確かに奴は私にとってはひどく目障りだったが、お前たちには大切な存在だったのだろう? 奴は国を守っていたし、この国に雨を恵んでいたし、何より王族や貴族は奴がいないと存続できない。二十年ほど前か、前のテレスは奴を完全にぶちのめそうとした私を止めたじゃないか」
「二十年前とは状況が違います。始祖さまは戦争を望まれ、一線を越えようとされました」
 厳しい顔つきで、テレス王が雷神に答える。
「おっしゃる通り、古来より、我らが父は厄災であられると同時に、この国の根幹で恵みの神でもあられます。その御方を封じる代償と、先の大戦のような混沌の時代とを天秤にかけ、我々は前者を選びました。先代は、我が国や他国に対する平和という責任を負い、身を捧げました。残った我々がすべきことは、先代が理想に掲げた善い時代を紡ぐことです」
 テレス王は雷神の前にひざまずくと、目を閉じ、彼の手の甲に額をつけた。
「その時代は、あなたさまとともに……」
 それは、これからは雷神が国祖神に代わり、国の守護神になることを表している。雷神はたじろいだ。
「確かに前のテレスには頼まれたが、私は雷しか鳴らせない。この国はこれから、天候に恵まれなくなるかもしれん。奴を封じたから、この先は貴族に血の補充もできず、王族だって今の代限りになる。この国はどうなっていくのだ」
 自信なさげに言い、雷神は目を泳がせる。テレス王は首を横に振った。
「民のため、国を変えるしかありません」
 そう言い、テレス王は立ち上がる。
「あなたさまが式典の場に立たれることで、貴族たちは変革を感じ取るでしょう。そこが始まりです」
 彼は背筋を伸ばし、これからのことについて話し始める。そこには、ラスとシンシアの結婚についての話もあった。


 国祖神が封じられたことは極秘中の極秘だったが、即位の儀に国祖神でなく雷神が立ったことで、国の頭が変わったことは皆の知るところとなった。儀式には国賓以外では城の人間と貴族の当主たちしか立ち会えず、飛行船に積んだスピーカーで音声だけが国民に届く。国の守護の交代には、最高神である雷神がつくことを喜ぶ者もいれば、国を興し守ってきた国祖神が退くことに悲しみ憤る者、新しい時代に不安を覚える者と、さまざまな反応がある。特に貴族はその交代にひどくショックを受け、自分たちがどうなってしまうのかに怯えた。これからは新しい守護である雷神が貴族の血筋を作っていくのかと考え、どうにか家を存続させようと雷神の一人息子に娘を嫁がせるリルぺ家に擦り寄ったり、自分たちの家の若い娘を雷神に差し出そうと画策したりする。反雷神派の保守的な家の中には、血族をすげ替えるくらいなら都落ちするほうがましだとぼやく者も少なくない。貴族の解体に備えて一族や抱えている十使族の今後を検討し始める当主もいた。
 国祖神の引退は国を揺るがす事態だが、幸いなことに雷神は国祖神より強大で、周辺国は彼を警戒しておりその混乱に攻め入ることはない。同盟や貿易などにも影響はあるが、国民の生活が大きく変わるほどではない。
 人々は困惑しながらも、新しい王に祝福を捧げる。それはこれからの時代が穏やかであることへの祈りでもある。


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