明晰夢な恋をして【そして、明日を生きる君へ】

暗い灯り

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音のない祈り

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聴こえなくなったのは、雨の音だった。

季節外れの通り雨。
耳元でさざめいていたはずの水の音が、ある瞬間、ふっと、消えた。

喪失は、いつも予告なしにやってくる。

「──……?」

彼女の口元が動いている。
けれど、声は届かない。
世界が、ふわりと宙に浮かぶような、静寂に包まれた。

僕は、微笑んだふりをした。
彼女は泣きそうな目で、僕の手を取った。

ぬくもりだけが、真実だった。

感覚が少しずつ遠のいていく。
見えない、聴こえない、けれど、感じている。

キーボードはもう打てない。
読書も、映画も、彼女との会話もできない。

けれど、彼女はそばにいた。

ノートパソコンを立ち上げて、彼女は僕に語る。

「あなたがいたから、私は最後まで走れたの。身体が動かなくなっても、夢の中で自由になれたのは、あなたのおかげ」

「私ね、もう怖くないの。私たち、ちゃんと繋がってるから」

彼女は、そう言って僕の頬にキスをした。

その夜、彼女は夢の中で僕を探しに来た。
 
明晰夢の中、僕は野原に座っていた。目も耳も使えないはずなのに、そこでは彼女の声が届いた。

「あなたに……話したいことがあるの」

彼女は僕の手を取り、静かに目を見た。
そこには、神殿のような静謐な空気があった。

「あなたと、ひとつになりたいの。
 すべての言葉も、音も、光も超えて……」

そのとき、彼女が僕に跨った。

全てを受け入れるような、深く、やわらかな感触。
彼女は、痛みも、苦しみも、過去も未来も包み込むように、僕を迎え入れた。

それは「交わり」ではなく「祈り」だった。

生まれる前の記憶に触れるような、命の始まりに還るような。そこに欲望はなく、あるのはただ、命を繋ごうとする静かな「決意」だった。

彼女の鼓動が、僕の胸に届いた気がした。
そして、そのまま、僕の意識は、ふわりと深い眠りへと落ちていった。

それが、生の終わりであり──

そして、始まりでもあった。
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