転生者殺しの眠り姫

星屑ぽんぽん

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6話 天変地異を呼び覚ます銀姫

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 闇を塗りたくったかのような真っ暗な夜空に、燦然さんぜんと星々が煌めいている。
 月はどこかに隠れてしまったのか、その光を地上に降ろしてはいない。

 何かが起こる前触れのように、全身にまとわりつく空気は重い。そのくせ、西に広がる巨大な海から、東にそびえる山々までが静寂に包まれている。

 今、夜空には私1人だけ。
 城より飛び出て上空で静止をしている私は、静かすぎる世界に、自分1人だけが取り残されてしまったかのような、そんな気持ちであたりの景色を眺める。
 この一帯は自分で創り出した空間なのに、不思議な話だ。

「私の権能、『原初の不死啓典オリジン・アタナシア』による【紅貴なる地城説】、か……他の三つの城に行っても、感じるものは同じかもしれない……」


 ロザリアとして創った時のことを覚えていないのだから、この地に込められた気持ちを理解するのが難しいのは当たり前だ。
 それにきっと、このような寂しさが押し寄せるのは、今宵が……信頼の置けない臣下、【録神王ろくしんおう】が集う日だからかもしれない。
 いや、正確には私が招集をかける日。
 
 私は城内え祝賀会の準備を進めているニコラ・テスラの浮かれた顔を思い出し、げんなりとする。
 臣下を呼びたくなくても、呼ばなければ始まらない。

 だから深呼吸をし、私はゆっくりと自身の中に眠る権能を呼び覚ます。


「『原初の不死啓典オリジン・アタナシア』――――第一説」

 遠くを見渡し、覚悟を決める。

「【血の命約シュバリエ・ブラド】のあるじが命ずる」

 心を乱さず、ゆったりと虚空へと左手を向ける。
 

「『神々と秩序の番人オブリス・ルクス』の王たちよ――――つどえ」

 発動した瞬間。
 ひどく懐かしい、どこか慣れ親しんだ感覚が全身を包む。
 高みを望む闘争心が、忠義に燃える熱き心が、慈愛に満ちた救済心が、不動を誇る守りの心が、自由を愛する正義心が、悪しきを吹き飛ばす破壊の心が――――
 
 六つの心との繋がりが、強く私に訴えかける。
 絶対服従の忠誠心を。万感を遥かに超える歓喜の産声を。

 この不思議な、行き場の失った感情がぶつけられるよう感覚に困惑しながらも、私は世界がうごめいた事に気付く。


 戦の昂ぶりを弾き鳴らすは、三百の勇猛果敢なる英霊。
 1人が万の軍に匹敵する強者ばかりで揃えられた、歴戦の幻想にして現実を喰い殺す伝説の軍。

「武、以外に語るものなし」

 それらを率いるは圧倒的な戦力差をものともしない誇り高き王。神滅武器の盾と矛を携え、私の眼下へと馳せ参じた。
 

「戦神王レオニダス・スパルタ――ここに」

 赤と黒のマントを閃かせ、鈍色の鎧に身を包む姿はまさに戦神。
 彼は忠義を示すべく、臣下の礼を取る。そんなレオニダスに続いて全員が片膝を突き、私に頭を垂れる姿はある種の神々しさを帯びていた。

 しかし私がその美しさに目を奪われることはなかった。なぜなら次に起きたのは天変地異にも等しい現象。
 遥か東に泰然とそびえ立つ山々の稜線に光が差したのだ。いや、あれは真っ赤な灼熱が爆発したに違いない。山頂より噴き出るは神々を焼き尽くす原初の炎。その噴火に呼応し、山々が割れ、動き出す。


「天空を持ちあげ続ける運命から解き放ち――」

 天を揺るがす轟音、低く籠った声が世界に震える。
 それは全知全能の神ゼウスより与えられた贖罪の運命に苦しむ巨神族ティタンの生き残り、アトラスの文言。
 砕けたはずの山々はやがて一つの形となって、意志を持って動き出す。

 それは天にも昇る程の巨人。
 一歩で山を通り越すその歩幅が世界に激震を及ぼす。


「炎を人間に与えた禁忌、それを嬉々として受け入れてくれた――」

 大きすぎる体躯に熱線が無数に宿る。
 それは人族に余計な力を与えたと神々よりそしりを受けた、原初の火の神プロメテウスの言葉。
 の二神が融合した臣下は、一歩一歩と近づいてくる。

 きっと城内にいたら、視界がぶれ過ぎて彼の存在を直視できなかっただろう。

「度量が世より広大な御身が――俺の光輝あるじが――」


 いや、視界がぶれてなくてもその全容を視認することはできない。
 それほどまでに巨体なのだ。

「呼んでいる――」

 燃え盛る巨神がゆっくりと近付き、そして膝を突いた、と思う。なにせここまで近付かれると、足しか見えないのだ。
 頭を垂れてもなお、その頭部が見えない程の巨躯に圧倒され兼ねない。
 しかし、豪炎が煌めき、全身に情熱が伝う姿は美しい。


「炎神王アートラ・プロメテオ――ここに」

 熱風と共に忠義をもたらす巨神に、私は上空を見上げるばかり。しかし、ソレも長くは続かなかった。
 なぜなら今度は西の広大な海より、大瀑布ばくふが生まれる激しいしぶき音を発せられたからだ。


「戦に敗北しぃ、その罰として神々に滅ぼされた私達を――救い上げてくださった――」

 清水のように流れ出る言葉は、海底に眠る皇極都市のものだと直感する。


「慈悲深き光輝あるじがお呼びであればぁ、極上の目覚めでしょう」

 円環、何重にも輪が広がるようにして湖から陸地が顔を出す。そこには立派な都市群が並び立ち、見た者に優美さと強大な文化を連想させるだろう。さらに円形の都市と都市の間には、透き通る水辺がある。その透明度もさることながら、底が暗く見えないほどの水深は、地獄の底へと導かれるのではと畏怖させる。

 しかし、やはり陸と水が交互に顔を見せる輝きは、美しいの一言に尽きる。
 そんな風に感嘆の吐息をもらしていれば、不意に滝が都市より上がる。その龍にも似た水流は天にも昇る勢いで霧散する。そして、この邂逅かいこうを祝福するかのように大きな虹が空へとかかった。
 

「水神王ユグ・アトランティス――――ここに」

 水しぶきと共に忠義を示す都市神に、私は呆けてしまう。
 しかし、それもまた長くは続かなかった。
 

「捨てられ、大地の杖と呼ばれたわしに――」
 
 いや、それは何よりも長大過ぎた。
 地の底より重く響くは、地中より出てきた声に他ならない。
 かつて雷神トールによって瀕された世界蛇が、地を這うようにして近付いてくる。
 その大きさは炎神王にも引けをとらない。

「朽ちゆくわしに、無限と不滅の恩恵をくださった光輝あるじよ」


 ぬらぬらと煌めく鱗の数々が、星々に反射して怪しく光る。地上に存在する全ての生き物を飲み込まんとするあぎと、獰猛に細められた両眼に怯えぬ者はいないだろう。
 だが、一枚が小山に匹敵する鱗の輝きはどんな宝石よりも美しい輝きを放っている。


「地神王ウロボロ・ヨルムンガルド――ここに」

 土煙りと共に忠義を宣言する毒神に、私は生唾を飲み込むのみ。
 しかし、そんな私を嘲笑うようにして事態はまたまた急変する。

 光と闇、白と黒が天空より舞い降りる。


「神の悪しき風習に楔を打った光輝あるじよ――」
「うちらの対立を吹き飛ばしてしまった光輝あるじよ――」

 白蒼の翼を広げた天使長と、漆黒の翼を伸ばす堕天使の王。

 それら二人は確かに手を取り合い、私の元へと舞い降りた。

 聖と邪が手を結べば、弱き者に待ち受けるは滅びの運命。かつての聖職者が見たら、嘆き苦しむだろう。かつての悪魔が見れば、憤死するかもしれない。そんな絶望的な風景だが――

 決して交わりえぬ命の共存ほど、美しいと感じるものはない。


「風神王ゼヒュロス・ミカエル――ここに」

「雷神王トールダン・ルシフェル――ここに」

 白黒びゃっこくと共に忠義を示す、西風の天神と百雷の獄神。

 私は総勢6名からなる臣下より流れてくる情報量に、目を回しそうになっていた。
 これはきっと【血の命約シュバリエ・ブラド】の効果で『録神王ろくしんおう』たちの強い思いが、私の心に響いているからなのかもしれない。
 もしくはロザリアとしての記憶がうっすらと蘇ったのか……?

 どちらにせよ、『録神王』がいかなる存在かは、表面上は理解したつもりだ。
 そう私の臣下が、如何に強大かが、嫌というほどにわかった。

 いや、冗談でしょう……。
 怖い。
 こんなの怖すぎます。

 間近で見れば迫力ありすぎて、失禁しそうな程です。
 それでも、私は……恐怖でぶるぶる震えている心に鉄面皮を被せ、それを顔にも被せる。

 そして言うのだ。
 祝賀会なんて面倒だって!

 作法なんかもよくわからないし、長時間をこんなの相手に、君臨者として演じなければいけない重圧に耐え切れない。


 く、口よ、開け。
 超生物たちの君主らしく、堂々と振る舞うのだ!

戦神王バトロス炎神王イグニス水神王アクシス地神王テラソス風神王ヴェントス雷神王トロヴァス……」

 声が震えぬように全身全霊を込める。


「久しぶりにそなたらの顔を見れて、は嬉しい」

 一同は私の次の言葉を待っているのか、無言を貫き通している。
 戦神王バトロス以外の臣下からは、肌を刺すような並々ならぬ緊張感が伝わってくる。【血の盟約シュバリエ・ブラド】を通したそれは、威圧とも失望とも取れる匂いで、私は思わずくらりと意識を離しそうになる。危険の孕んだ空気が、今にも決壊しそうな雰囲気なのだ。
 
 やはり私のお目覚め会とやらを盛大にやった方がいいのか?

 恐怖に引っ張られ、心がしぼむ。
 臣下の手綱をしっかりと握り、後顧の憂いを絶った方がいいのだろうか?
 しかし、そんなどんちゃん騒ぎに労力を費やすならば、もっと他にやるべき事がある。


 それは、不快な匂いを垂れ流す存在を、この手で潰すこと。

 転生者・転移者を狩ることだ。
 そう、私にはやるべき宿命がある。
 理不尽に殺された家族の、戦地で散った戦友の――
 最後まであきらめずに抵抗策を探した学友の無念に比べれば――――

 こんな恐怖をぎょしきれなくてどうする。


 昨日の、戦神王との戦いで覚悟は決めたはずだったろうに。
 転生者を殺すのが最優先事項だ。
 それに反対するような臣下であるならば、この場で滅する。

 だから私は決意をみなぎらせ、覇気を纏って私は言葉を紡ぐ。



の祝賀会はやらぬ。それよりもいくさの準備を進めよ。軍議を開く」


 そう言った瞬間――

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