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7話 語り継がれし神々が・・・部下?
しおりを挟む「余の祝賀会はやらぬ。それよりも戦の準備を進めよ。軍議を開く」
そう言った瞬間――
やはり静寂が支配した。だけどそれは先程の嫌な沈黙とは別種のものであった。
【録神王】たちは歓喜の情動が表に漏れぬよう、必死に抑えている様子だったのだ。
「やはりロザリア様よ。毎度、その胸に燃えたぎる熱さを持っておいでだ!」
最初に変化が起きたのは炎神王だ。
その巨体は一瞬にして小さな者に、人間大の大きさへと縮小した。頭部に小さな角を二本生やし、紅褐色の肌は鬼人族のそれで、炎髪を揺らめかす美丈夫へと変貌を遂げた。
うん……?
確かあの姿は、東方歴史帳に描かれた鬼人族に信仰されていた炎神にそっくり?
「毎回、不死さまのぉ祝宴のためにぃ、極上水のお酒を準備してるのにぃ……いつも通り無駄になりましたわねぇ」
次に変化したのは水神王。
都市部より噴き出た水流がこちらへと飛び、一つの人型に凝縮されていく。
青く長い、清水のような髪の毛を無造作に垂れ流し、耳は魚のヒレのようにピクピクと動いている。あれは水人族の特徴が顕著に出ている。深窓の麗人を思わす怪しい美しさを持つ彼女は、眠たげなぼんやり眼で私を見つめた。
むむ……海底神話史の挿絵にあった水人族が信奉する女神と瓜二つじゃないか?
「ふぉっふぉっふぉっ、また神祖さまと酒を飲み交わす日がくるぞぃ」
三番目に変化を起こしたのは地神王。
蛇の体躯がギュルンっと一気に小さな丸になったかと思えば、ヒゲもじゃの太いおじさんが出現した。鷲鼻に低身長、しかし全身に盛り上がる程の筋肉が備わっている。岩窟人とよく似ている容貌で、私に優しく微笑みかけてくれる。
あれは確かに岩窟人の間で語り継がれてきた岩神様のそれだ……。
「我らが主さまは永遠不滅であるからな。いつでも酒宴など開けよう」
四番目は風神王。
大天使としての翼を消し、地に足をつければ、翡翠の長髪を優雅になびかす美形な若者へと変化していた。耳は鋭く長い、風と森の声を聞くために特化したという風緑人に酷似している。
彼は恭しく私へと一礼し、ニコリと決め顔を作っていた。
もうまさしく風緑人の信仰の源である、緑と風の王そのものじゃないか……。
「うちも姫様とぜぇーったい飲むからね!」
最後は雷神王。
彼女の翼は消えなかった。しかし、漆黒の翼は羽毛のやわらかいものへと変わり、それは体毛の一部へとも伸びる。さらに四肢は鋭いかぎ爪を持った鳥類のそれで、極彩色に輝く美しき翼人種になった。
コロコロと表情が変わるも、彼女は無邪気に私を見つめ続けている。
天候詩史という絵巻に記されていた……翼人種が信じる神、争嵐の姫君とまったく同一の外見……?
「ロザリア様と酒を飲み交わすなどと、ボクと炎神王以外はあと千年は早いですよ」
戦神王はよほど、私が昨日言ったことを気に入ってくれたのか、屈強な英傑姿のままだ。
そして戦神王だけは……私の歴史の知識にはない見た目だと気付く。
「ガハハハッ! わかってんじゃねえか、戦神王!」
「いつまでぇ、古参ばかりが大きな顔をしていられるかしらねぇ……?」
「フォッフォッ、忠義の熱さを競うのであれば、命神王も入れねば埒が明かぬぞ?」
「主の傍にちょっといられるからと、調子づいていたな。あんなのはいなくてよい」
「あー、風神王は大っきらいだけど、その意見にだけは賛成~!」
何やら盛り上がりを見せ始める【録神王】に、ひとまずはホッと胸をなでおろす。
どうやら、君主として正解を引いたようだ。
自分の臣下が2000年後にも語り継がれる、大種族が信奉していた神々だと知って驚きはしたものの……ひとまずは安堵できる状態だ。そう思えば、自由で和気あいあいとしている彼ら彼女らの姿は、私が学友たちと過ごした日々を思い出させる。
あの頃はみなが高い志に燃え、互いの意見をぶつけ合いながら、平和という名の幸せを享受していた。転生者との戦争が始まってからも、平和という単語は抜け落ちてしまったけれど、学友が戦友となっただけだ。辛く苦しい戦いではあったけれど、それでも仲間がいたから、友がいたから、乗り越えられると信じていた。
「忠義心を競うなら、それぞれの領地で統治ゲームに興じている他の四神王にも来てもらわないとですよ」
「【人神王】はいらんな! 若過ぎて本当の忠義がなんたるかを理解してねえ!」
「それを言うならぁ、【獣神王】なんかも臭すぎて叶わないわぁ。聖水をがぶ飲みするばかりだしぃ」
「なんじゃなんじゃ、お主らちっとは仲良くせんといかんぞ」
「【魔人王】は……強敵だろうな。デュランのやつ、忠義心が関わると知れば、張り切りすぎて大陸を半壊しかねないだろうよ」
「あー、わかるかも! でもさ、やっぱり収集が一番つかないのは【竜神王】じゃない? 一度思い込んだら頑固過ぎるし、うちは一番苦手~! 老害って言葉がぴったり!」
私を目の前にして、お喋りに興じる【録神王】たち。
本当に敬まわれている君主であれば、臣下はこのようなラフな態度は取らないだろう。
しかし、私はその光景がひどく懐かしく思えてしまい、しばらくは【録神王】らを微笑ましいとさえ思いながら見つめていた。
「みな、そろそろお喋りに興じるのはやめましょう。ロザリア様が退屈しかねませんよ?」
戦神王が私の代わりにみんなを窘めれば、それぞれは朗らかに笑った。
「ったく、ロザリア様は変わらずに度量が広いと来たもんだ」
「お喋りがすぎましたねぇ」
「カッカッカッ、すっかり神祖さまに拝謁できた喜びで舞い上がってしもたわ。この老骨の非礼をお許しくだされ」
「ふっ……この私とした事が。主よ、我が罪をお許したまえ」
「お詫びに、姫さまの願いは何でも叶えてあげる~! で、何をするんだっけ?」
【録神王】からの視線が私に集中した事で、私は再び緊張してしまう。
それでも彼ら彼女らの君臨者然とした態度で、今一度自分の目的をハッキリと口にする。
「転生者・転移者を殺すための軍議を開く――」
そして、みんなの真意を問うようにして、それぞれの瞳を順々に見ていく。
「そなたらの返事は如何に?」
【録神王】の全員がその場で片膝を突き、爛々と輝く瞳で私を見返す。
「「「「「「仰せのままに! 我らが誠の光輝よ!」」」」」」
この日、世界を揺るがす大音声が響き渡った。
それは――
途方も無く長い、戦の始まりを意味する。
この狼煙を上げたのは、他の誰でもない。
私なのだ。
もう、悔しさにまみれながら、恐怖に怯えて足を止めることはない。
◇
【転生者・転移者 人物録】
●レオニダス1世●
最高の武人にして最強の王。紀元前480年 アギス朝のスパルタ王。
200万人の軍を相手に、たった300人の親衛隊と共に戦い抜いた伝説を残す男。
クセルクス1世率いる30万人以上のペルシア軍がギリシアに侵攻。
対するレオニダス1世はわずか300人の親衛隊のみで出陣。ギリシア連合軍5000人と合流したレオニダス1世は、地理的に有利な戦術を駆使し、ペルシア軍30万と互角以上に渡り合う。
スパルタ兵は一騎当千であり、無敵のファランクス戦術で何度もペルシア軍を押し返す事に成功する。
最後まで降伏することなく、スパルタ兵は全員が戦死した。
レオニダス1世は壮絶な死を遂げ、その名声はギリシア随一の英雄として轟いた。
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