転生者殺しの眠り姫

星屑ぽんぽん

文字の大きさ
9 / 34

8話 転生者による知識チートの災い

しおりを挟む
「お待ちしておりました、我が君」

 改めて人型になった【録神王ろくしんおう】を引き連れ、玉座の間へと向かえば……別の大広間で祝賀会の準備をしていたはずのニコラ・テスラは、こうなる事を先読みしていたかのようにきっちりと待機していた。

 うーん……気が利き過ぎて気味が悪い。


「よう、命神王。我らが光輝あるじの身辺はしっかりしてるんだろうな」

 顔を合わせ一番にニコラ・テスラに突っかかったのは炎神王だ。

「もちろんですとも。【録神王ろくしんおう】の皆様方が心配なさる事は一つもありませんよ」
「どうかしらねぇ……」

 疑念の目を向ける水神王に続き、地神王までもが小言を呟く。

「ふぉっふぉっ、おぬしが少しでも神祖さまに不満を抱かすようであれば、この【録神王】のうちの誰かが、次は目覚めの番をやらせてもらうとするかのぉ」

 この発言に雷神王は極彩色の羽をパタリとはためかせ、色めきだった。

「あー! それはいいね! うちだったら姫様が目覚めた瞬間、盛大に竜巻ブォ-ンって打ちあげてさ、空模様の芸術アートをお披露目して楽しくするもん!」

「それはやめておけ、雷神王。しかし、地神王の意見には賛成だな」

 風神王は静かに雷神王へ苦言を呈する。唯一、戦神王だけは沈黙を保った。
 私はといえば、臣下の会話を聞きながらそそくさと玉座へちょこんと座り、みんなの様子を窺っている。どうやらニコラ・テスラは他の【録神王ろくしんおう】からよく思われていないようだった。

 実はそれ、私も同じだ。
 目覚めてから衣食住に関する全てを彼が手配してくれているのは感謝をしている。しかし、彼は私に何か重大な案件を隠しているように思えてならなかった。
 そもそも私が転生者を殺すべきだとか、『神々と秩序の番人オブリス・ルクス』の王たちを招致するべきだとか、一切の説明をしてくれたのは彼だ。
 私の掲げる目的と彼の言動が一致しているから、彼の勧める通りに今まで行動してきたが……どうにも怪しい点が尽きない。
 だから私は、【録神王】たちがニコラ・テスラに不満らしきものをぶつける会話が終わるのを見計らって、とある質問を浴びせてみた。


「なぜ私が転生者どもを滅ぼすべきだと? お前の見解を述べてみて、ニコラ・テスラ」

 ロザリアとしての記憶がないという点は伏せておき、いかにも臣下の思惑を聞き、その内容が的を得ているか判断テストする王のように振舞う。
 私が口を開けば、【録神王】たちは石像のように動かなくなり、私語をするのを一斉にやめた。


「以前の、我が君のお言葉をお借りするようで心苦しいのですが……地球アーセからの転生者や転移者が存命でありますと、歴史の改変・・・・・が起きる可能性があるからでございます」

「ほう、歴史の改変……続けて」

「はい。例えば現在ですと、【アメリア合衆王国】より西にある、【奴隷王国】生誕問題です」


 アストラ歴1019年といえば、私達が祖国【魔導制アストラ合衆国】のひな型と言われる、【アメリア合衆王国】が栄えていた時代だ。そして西方では、しいたげられた奴隷たちの人権を保護し、奴隷たちを集め、既存の王権を否定した新たな国家【奴隷王国】が誕生した時代でもある。

 変態ドM執事が何故、史実を知っているかはこの際脇に置いておき、私は話の続きを促す。


「おそらくですが、このままですと【奴隷王国】は樹立されません」
「なんだと? なぜだ」

「【奴隷王国】の礎となった【ケネディア黒宝都市群シュバルス】が、【白輝主義国家ヴァイストヘイティス】の【白輝魔法至上主義アパルティズム】のもと、侵略を受けています」

 黒宝ブラックを嫌う白輝ホワイトが侵略戦争をしかける。
 それは史実通りだろうに。


「順調ではないか? 黒宝魔法シュバルツを蔑視していた【白輝魔法至上主義者アパルティズム】たちが戦争を仕掛け、逆に手痛い反撃を受ける。それに加え、アルバート黒宝卿こくほうきょうが【白輝主義国家ヴァイストヘイティス】にいる奴隷の受け入れと、奴隷たちへ自由に生きる権利を与えると発表する流れだろう?」
 

 すると【白輝主義国家ヴァイストヘイティス】の奴隷たちは【ケネディア黒宝都市群シュバルス】をうらやむ。
 奴隷の私達でも人権が、自由な生活を送れるのかと。
【ケネディア国宝都市群シュバルツ】にさえ行けば、人として生きられると。

 しかし、これにヘイティスは強固な手段で奴隷たちをより厳しく弾圧するようになる。奴隷は労働力のかなめであったから、他の国に行かれては困るといった寸法だ。

 そしてこれが奴隷たちの大きな反発を招く結果になる。アルバート黒宝卿の奴隷解放運動に呼応し、各地で奴隷たちが立ち上がったのだ。
 そこから悲劇は権力者の怒りによって招かれ、救われずに、罰せられて大量の奴隷たちが死んでいった。奴隷たちは痛感する、自分たちは所詮、奴隷なのだと絶望にまみれる。
 

「奴隷の死、すなわち多くの労働力を失った【白輝主義国家ヴァイストヘイティス】は国力を低下させ、【ケネディア黒宝都市群シュバルス】との戦いで劣勢に立たされる。和平条約の内容には、アルバート黒宝卿を王と冠す【奴隷王国】の樹立を認める項目が入り、戦争は終結となる」


 それが、私が知るアストラ歴1029年の史実、つまり10年後の情勢となる。
 あと10年もすればこのようになるはず。

 奴隷のための、奴隷に正当な報酬と権利を保証し、奴隷を派遣する国家【奴隷王国】。
白輝主義国家ヴァイストヘイティス】からすれば、すぐ隣に【ケネディア黒宝都市群シュバルス】に属する国家が生まれるわけで、しかもそこが貴重な労働力を握るという事態だ。
 自国が衰退する未来はハッキリと予測できたろう。目の上のたんこぶ以上に目障りな国だが、承認する以外の選択肢を取る事ができなかった。

 そうして【奴隷国家】が誕生し、【奴隷王アルバート・アインスタイン】の元、武力や労働力を他国へ売る【傭兵国家アインスタイン】となるのだ。


「僭越ながら具申させていただきますと、そのような流れにはならないでしょう……」

 そんな私の脳内で広がった未来図を打ち砕くが如く、目の前の執事は朗々と現状を語った。

「【ケネディア黒宝都市群シュバルス】は先の戦で大敗を立て続けにし、現在三都市が落とされています。今もなお、【白輝主義国家ヴァイストヘイティス】の快進撃は続いています」

「ありえない……」

 こんな事態は歴史になかったはず。
 七つある都市群のうち、三つも落とされただって?


「それとアルバート黒宝卿が……いえ、今はまだロドリコ・アインスタイン黒宝卿のご子息ですが。将来のアルバート黒宝卿となる人物が囚われ、【白輝主義国家ヴァイストヘイティス】の奴隷として扱われております」

「なぜだ……」

「【白輝主義国家ヴァイストヘイティス】が扱う新兵器の活躍が、原因かと存じます」

「新兵器? どのような?」

 この時代で強力な兵器が登場した記録はないはず。
 そんな疑念を浮かべていれば、ニコラ・テスラはどこから取り出したのか、いつの間にか長い筒状の武器を手にしていた。
 
「こちらでございます」

 ゴトリ、と重厚な音が響き、それが私の目の前に置かれる。


「そんな……馬鹿な……」

 そんな感想が思わず口から漏れ出てしまうほどに、それは衝撃的なものだった。


「銃が……この時代にあるはずがない……」


「周辺国家からは『見えない悪魔』などと呼ばれ、恐れられております。これは明らかに銃ですね。鉄の鉛玉を火薬で飛ばし、敵を簡単に殺す武器です」

「バカな……銃が開発され、普及するのは早くても500年後だ」

 500年も早く、近代兵器に酷似した物が流通したら世界はどうなる?
 銃を持つ勢力による一方的な侵略行為もまかり通るだろう。

「単発式であっても……歴史がひっくり返ってしまう……」
「情報によりますと、極わずかでありますが連射式の銃を所持している者もいるだとか」

「……ありえない……1900年代の一般兵の標準装備をしている者がいるなんて……」

 500年どころか900年も先の兵器技術を運用しているだと?

 まだこの時代は、個の力……【英雄】と呼ばれた者が戦争の行く末を左右する原始的な状態であるはず。
 アストラ歴3024年にもなってしまえば、個の力など数の暴力の前ではひとたまりもない。【魔導213式銃剣カストルム】が戦場の兵士達の主武器になってからというもの、強者であっても複数人から集中砲火されたら【魔導56式防具アーチザンシールド】を持っていない限り、素の状態であれば20秒と持たないだろう。

 まあ、転生者はこの理屈の範疇外的な存在だが……。
 とにかく、この時代から銃が存在してしまっては、世界は大いに変わってしまう。


「仕入れた情報によりますと、最近になって両陣営・・・に銃が普及されるようになったそうです。まだ互いが持つ近代兵器の数は少ないものの、他にもいくつかの科学兵器が導入されているだとか」

白輝主義国家ヴァイストヘイティス】側だけでなく、【ケネディア黒宝都市群シュバルス】の方にも武器に対する技術が流用されている?

「銃の保有量は圧倒的に【白輝主義国家ヘイティス】が多いようですが」

「さすがは発案国……で、開発者の心当たりは?」

「【白輝主義国家ヴァイストヘイティス】の【総統】に就任した人物による影響が大きいようです。新兵器もその【新総統】が考案したものだとか」

 その新総統とやらが転生者である可能性が高いな。
 また転生者・転移者による、異世界知識チートか。


「その者の名は?」

「稀代の天才にして最高の指導者、と噂に名高い【アルベルト・アインシュタイン】総統です」

「アルベルト・アインシュタイン……」


 私の標的がいよいよ定まった瞬間だった。
 さて、転生者よ。どう殺してくれようか。






【転生者・転移者 人物録】

Albert Einstein (アルベルト・アインシュタイン)

20世紀最高の物理学者。
相対性そうたいせい理論など、数々の偉大な理論をいくつも提唱した現代物理学の父。
彼の生み出した技術の一部が活用され、『核兵器』が開発された。

彼は第一次世界大戦中、『戦争反対』の意を表明していた。しかし第二次世界大戦に突入すると、人が変わったかのように『戦争賛美』を仄めかす。
ドイツのアドルフ・ヒトラーを脅威に感じ、危機を覚えたのかもしれない。
やられる前にやれ。

しかし、彼は平和をこよなく愛した人間でもあった。
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに

試運転中
ファンタジー
山を割るほどに剣を極めたおとん「ケン」と、ケガなど何でも治してしまうおかん「セイ」。 そんな二人に山で育てられた息子「ケイ」は、15歳の大人の仲間入りを機に、王都の学園へと入学する。 両親の素性すらも知らず、その血を受け継いだ自分が、どれほど常軌を逸しているかもわからず。 気心の知れた仲間と、困ったり楽しんだりする学園生活のはずが…… 主人公最強だけど、何かがおかしい!? ちょっぴり異色な異世界学園ファンタジー。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...