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9話 異世界通信
しおりを挟む「アルベルト・アインシュタイン……」
どことなく、未来の奴隷王であるアルバート・アインスタインと名が似ているな……。
「そのアルベルト・アインシュタインが持つ戦力は、現在どれほどのものか」
「それはわかりかねます」
都市群を三つも落とした元凶であるのに、兵力に関する情報を一つも手にしてない事に私は不信の目をニコラ・テスラに向ける。しかし、彼は至って平然としており、続きの報告をしてくるのみ。
「しかし、その者が地球からの転生者あることは間違いないかと」
「何を根拠に?」
「私めの記憶と、権能がそうだと言っております」
権能……能力か。
見た目は人族に見えるものの、ニコラ・テスラからは妙な気配を感じる。
「証明してみせよ」
「はっ。偉大なる【不死姫】様の御膳で、我が権能を発動する事をお許しください」
傅き、許しを請うので私は君主として鷹揚に頷く。
「よい」
「では――――無限の地を繋げ、その者の運命をめくり、示せ――【異世界通信】」
ドM執事はいつになく神妙な表情で権能を発動する。
すると彼を囲むようにして、四本の鉄柱がにょきにょきと並び立つ。そこから青い電流が幾筋も走り、まるで彼を閉じ込めてしまったかのようにそれぞれの柱を結び始める。
さらに、彼の背後より小さな箱型の機械が出現し、それは次々と均整のとれた順序と積み重なってく。気付けば、数秒にしてその不思議な箱で作られた巨大な塔が玉座の間に鎮座する形となる。
「我が【運命の辞塔】よ、アルベルト・アインシュタインのラディオを示せ」
彼は青い電流を自在に操り、とある一つの小さな箱へと光の道を伸ばす。
選ばれた小さな箱は電気の川に流されるようにして、ニコラ・テスラの手へと落とされる。
そこから『ザザザーッ!』と妙な電子音が響き、理解に及ばぬ言語が流れ出て来た。それらを彼はしばらく聞き続けた。その間、他の【録神王】と私は一切の言葉を発することなく、彼の聞きいる未知の言語に耳を傾けていた。
「なるほど……やはり。彼の者、アルベルト・アインシュタインは物理学者です」
小箱とやらから謎の言語を聞き終えたニコラ・テスラは、開口一番に渋い顔で私にそう伝える。
「学者、か。何かを発明したのか?」
「様々なものに転用できるエネルギーの法則性を発見した人物です」
「様々なもの、とは?」
「大量殺戮兵器、核弾頭とやらにもその技術は応用されているだとか……」
「核兵器……3024年には転生者どもが開発した【核融合魔法】のひな型か」
あれは放った地域ごと環境汚染を引き起こす、残虐にして不完全な魔法だ。その原型となる物を生みだしかねない転生者が、アストラ歴1019年の時点で存在するとは……。
「早急に対処しなければ」
「御意に」
恭しく頭を下げるニコラ・テスラだが……私の不信感はつのる。
なぜ歴史が改変されそうな状況で、今まで何も手を打たなかったのか疑問に思う。彼の態度から推察するに、彼も歴史に歪を残す転生者を狩る事に賛同しているように思えるので、余計におかしい。
優秀な部下であれば……これほど気の利く人物であれば、主人たる私の望みを把握し、【白輝主義国家ヘイティス】の暴挙に何かしらの対策を講じる事ができたのでは?
もしくは【アルベルト・アインシュタイン】総統に関する情報や戦略、戦況を詳しく調べることぐらいは可能なはず。
「ニコラ・テスラ。なぜお前は歴史が変わりつつあるのに、転生者である【アルベルト・アインシュタイン】総統を放逐していた?」
「恐れながら我が君。【高貴なる血族】はみな、我が君が施した【血の盟約】がございます」
【血の命約】……そう言われた私は、自身の奥にあった権能を意識下で呼び覚ます。
転生者に対する怒りで頭に血が上り過ぎていたようだ。
こんな項目を見逃す、把握しこぼすなどとは……。
【血の命約】という権能は、私に備わる力の系譜を与える代償として、私の出した条件に逆らえない呪縛を植え付けられる、といったものだ。
ようするに眷族化だ。
しかもこの権能の恐ろしい所は、眷族にした者が得た力すらも私自身が自在に扱えるようになる点。
「【血の命約】が、何か?」
まるで奴隷契約みたいなものだと、自身の権能に吐き気を覚える。
つい、転生者どもが武力で多くの種族に服従を強要した姿を思い浮かべてしまうのだ。
「我らが一族はみな……自領や自国、自身やその家族が、転生者や転移者によって攻撃されぬ限りは手出しをしてはいけないと。我が君が命ずるまでは一切の関与を禁ずると、我が君が命約を施されましたので」
……なるほど。
強敵である転生者とはなるべく争うなと。
保身的な措置だが、歴史の変動をより大きなものにするよりかは賢い判断だ。双方が争って被害が甚大になり、修正できないレベルにまで世界が荒れてしまったら元も子もない。また臣下の暴走を防ぐ、と言った側面もあるのだろう。転生者に対する処遇は自分自身が下すと。
ロザリアという人物は、私と同じく転生者に対する執念じみた思いを感じる。
となると、『転生者には私が命を下すまで手出しはするな』と言ったロザリアである私が、『なぜ、転生者である【アルベルト・アインシュタイン】総統を放逐していた?』と臣下を咎めるのは不自然極まりない、な。
「……そんな事を尋ねているのではない」
さてさて、困ったぞ。どうしようかな。
何と言い訳をするか。
「申し訳ございません。この浅慮なニコラ・テスラでは、我が君の海よりも深い思惑を推し量ることができませんでした。不敬に値するこの大罪、命を以って償います」
俺の気持ちが読み取れないだけで自害とか……。
「必要ない」
「で、ではっ、先程の真意は……」
ほんとにどうしよう。
なぜかニコラ・テスラ含め、他の【録神王】たちは期待に満ちたような顔でこちらを凝視してくるので、かなりのプレッシャーだ。
正直、この場を上手く乗り切るアイディアはない。けれど、自分の権能に嫌気がさしたのは事実。
この辺の本音を上手く伝えれば、丸くおさまるかもしれない。
「友は……」
ポツリとこぼす。
たった一人で、急に2000年前に来てしまった現実へ寂しさを覚えたのか、私は自然に『友』という単語を口にしていた。
「友は……私にとって真の友と呼べる者は、未だに現れてないのだな」
ロザリアが施した隷属関係を打ち破れるような、そんな対等な存在。
私が完全に臣下たちを信用していれば、このような呪縛を施す必要もなかったはず。臣下に転生者を任せられるのなら、縛る事無くその意思と判断を尊重し、自由にさせていた。
それができるのは、私の呪縛を壊せるほどの力を持った友であると。
『どうして転生者を放置していた? = 呪縛を壊せるほどの友はまだ現れていないのか?』と遠回しな質問を浴びせたという真意を、ニコラ・テスラは察した。
「誠に、誠に力及ばず……申し訳ごさいません。我が君は孤高にして完璧なる存在です、が……いずれ、いずれは、【高貴なる血族】のみなが恐れ多くも貴方様の友になるべく、日々、邁進しております」
闇夜のごとき冷たい美貌を崩し、ドM執事は苦渋に満ちた表情へ豹変する。
ついには涙を流し始めるニコラ・テスラ。
悲哀に満ちた顔へと歪んだのは彼だけではなかった。
【録神王】たちの全員が、沈痛な面持ちで下を向いていた。特に戦神王にいたっては「何度も、ロザリア様と戦っているボクが……一番、己を磨き、近付けるはずなのに……未だ足元にも及ばす……」と漢泣きしている。
「その努力を……忘れてないのなら、よい」
どの口が言えるのか。
私はニコラ・テスラや、その仲間、その全てを知らないのに。
彼らがロザリアを慕う思いを知らない……。
少しだけ、心の奥がチクリと痛む。私は彼らの望む君主たりえているのか……この絶対的な忠義に応えることはできるのか……いや、してみせる。この武力たちを従え、転生者を倒すためなら何だってするべきなのだ。
「では、早急に転生者アルベルト・アインシュタインへの対策を講じるための情報収集を行う」
「御意! しかし恐れながらロザリア様! 情報収集などと言わず、即座に鎮圧してしまえば良いのでは? 第一陣の誉は炎神王たる炎軍80万によこしてほしいぞ!」
鬼人族の姿で炎神王は自身満々に私へと提言してきた。
確かに武力介入をしてすぐに滅ぼせるなら、話は早い。だけど、そうなると死者は大量に発生するだろうし、文化が崩壊する可能性もある。何より私の目的は歴史の守護であって破壊ではない。
三都市も既に攻め落としたという現状を、正確に把握して最善の一手を打つ必要がある。
その一手目が武力行使というのは、ありえない。
「炎神王の勇ましさに溢れた忠義深い進言、嬉しく思う。しかし、武力介入は最終手段とする」
「アルベルトなんちゃらってのが、俺らの世界を荒らしてるんだろ? そんなの俺らの大軍で押し潰せば一瞬だろうぜ」
私の静止に、炎神王は交戦的な態度と主張を崩さない。
「落ちつくのだ、炎神王。銃を甘く見てはならない。特にこの時代の生物からすれば、かなり殺傷能力の高い武器であることに変わりはないのだ」
「俺らの軍に鉛玉は通用しないぜ、ロザリア様」
こちらを射ぬくかのように鋭い眼光を飛ばす炎神王。
しかし、ここは絶対に譲れない。なので、最大限の威厳を込めてゆったりと言葉を吐いていく。
決して威圧するような調子ではなく、仲間を諭すように、語りかけるのだ。
「大きすぎる武力衝突は、世界にそれだけ歪な傷痕を残す。控えよ、炎神王」
「ガハハハッ、やっぱり俺らのロザリア様は相変わらずだな! 我が光輝の仰せの通りに!」
大人しく引いてくれたようだ。
内心でホッと息を吐き、一同を見つめる。
さて、まずは現状を把握するためにも、私は自身でこの世界を確認したいと思っている。
そもそも転生者相手に、臣下任せにする気は毛頭ない。
「実際に何が起きているのか、この目で確認する必要がある」
「わ、我らを束ねるロザリア様が直々に? 我が君、御自身で、ですか?」
彼の質問には無言で以って肯定と返す。
「そのような事は…………いえ……」
そのような事は必要ないと、口では咎めているが、ニコラ・テスラの泣き顔はやけに嬉しそうだった。なんというか、苦しんだり、泣いたり、笑ったりと忙しい人だな。
きっと原因は全部、自分にあるのだろうけど……。
「我が君にならば、そう仰るかと存じまして、既に【白輝主義国家ヘイティス】への転移門は準備を完了しております」
またまた私が『自分で見て回りたい』と言いだすのが当然だと、予測していたような対応ぶりだ。
「この時代であれば、冒険者に身を扮して行かれるのがよろしいかと進言致します」
「冒険者……」
「はい。かなり自由度の高い職業で、ギルドと呼ばれる場所を通して様々なクエストを受注しては金銭を稼ぐ者を総称してそう呼んでいるのだとか。他国から来た冒険者として潜入すれば怪しまれず、不自然さはないかと存じます」
傭兵のようなものか。
「冒険者として……白輝主義国家と直に肌で触れ、人々の声を聞き、どのように対処するのが最善なのか考え、決断を下す。良案かもかもしれない」
それと忘れてはならないのは転生者だけではない。
「囚われの身である現ロドリコ・アインスタイン黒宝卿の子息、アルバートの救出を最優先事項とする。未来の【奴隷王】を救出する準備も並行して進めるとしよう」
捕えられ、奴隷と化している未来の【奴隷王】を放っておくわけにはいかない。彼には【奴隷王国】樹立のために奮闘してもらわなければ、歴史が大きく変わってしまう。
今なら、まだ間に合うはずだ。
「決まりだ。私は冒険者として【白輝主義国家ヘイティス】へもぐりこむ」
さて。
このロザリア・ブラッディドール・ヴァルディエ・ロ・オブリス・ルクスとしての私が。
自分の力が、この時代ではどれほど通用するのか、少しずつ試してゆくとしよう。
◇
望む未来を築くため、彼女は頂点に座す者を演じ続けなければならない。
そんな自分の姿はまるで、血と運命を紡ぐ糸に操られる人形のようだと、彼女は自嘲した。
名が体を表す。
だから彼女は自身に【血の傀儡人形】の名を刻んだ。
己が宿命を忘れぬようにと。
神祖伝承記 『千血の銀姫』より
著者 ニコラ・テスラ
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