転生者殺しの眠り姫

星屑ぽんぽん

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10話 出陣は両手に花を

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 冒険者を装う準備をし、必要なものを整えた私はニコラ・テスラに案内されて転移門へと向かっていた。

「待ってくれ、我らが光輝あるじよ……必要な者もいるはずだ。どうか、いつもの如く・・・・・・、お付きの者をつけてほしい」

 そこへ鬼人族オーグル形態の炎神王と、水人族ケルピネ形態の水神王が頭を垂れて待ち構えていた。

「どうかぁ、神祖さまにおかれましてわぁ……万が一の事態に備えてぇ、私達の眷族けんぞくと共に行動をしていただきたくぅ」

 眷族……自らの血を分け与えた、子に等しい存在か。
録神王ろくしんおう】は私の【血の命約シュバリエ・ブラド】により、私の力の一部を引き継いでいる。その中には血を分け与えれば、自身の力の一部と不老の能力を付与するというものがある。要するに眷族化だ。


運命神ファトス、お前からもどうかロザリア様を説得してくれ」
「そうねぇ、神祖さまに何かありましたらぁ、貴方、わかってるのぉ?」

「ご両人が心配せずとも、戦神王レオニダスが周辺で潜伏しますゆえ、戦力的な問題はないかと。それに我が君は自由を好みます。お付きがいれば気疲れしてしまう可能性もございますよ」

 ニコラ・テスラは見事に私の内心を突いた返答で二人を黙らせてしまった。


「しかし……」
「あらあらぁ……」

 炎神王や水神王が進言内容にも頷ける。私としては自由に行動してみたいという欲求はあるものの、お付きの者がいた方が安心できるという面もある。
 女子1人旅というのは色々と危なそうだ。
 対策として権能によって、髪の毛を短くし、一見して少年に見えるよう簡単な変装は済ませてある。これに加えてフード付きのマントを被れば、私の容姿をわざわざ確認しようとしない限り、女子と露見するのは低いと思われる。
 まぁ、ロザリアの器量が良過ぎて、髪の毛を短くしたところでボブヘアーの美少女に見えなくもないのだけど。
 

「せめて至高血位の貴族ノブレスを二名だけでも警護役に」
「どうか、神祖さまぁ。こちらの二人は前にもぉ神祖さまのお付きとして、行動を共にしたものを選抜いたしまいたので……」

 以前にも私の付き人を?
 そう言われ、私は初めて【録神王】以外へと興味が移った。
 さっきから二神の背後には、二人の美女がそれぞれ顔を伏せては跪いている。

 1人は金髪紅眼で掘りが深く、非常に目立つ顔立ちの美女だ。豪奢に波打つであろう黄金の髪を今は結い上げて、邪魔にならないようにしている。それでも顔のパーツの一つ一つが活力にあふれていて、彼女の輝かしさを到底隠しきれていない。
 その美しさは社交界に来た男の視線を一人占めするだろうと容易に予測できる。
豪華絢爛なドレスが似合いそうな女王の風格すら匂わす彼女だったが、今は冒険者にふさわしく地味なロングコートに身を包んでいた。
 あまり目立たぬようにとの配慮なのだろうけど、見る者が見ればあれは相当な魔力が練り込まれた特殊な布でできた装備だとわかる。

 彼女が太陽ならば、隣でひざまずくもう一人の美女は月だろうか。

 どこかはかなげあり、憂いの帯びた表情が印象的で、薄幸はっこうの女神と表現したら良いだろうか。肩口で切り揃えられた白雪のように色のない髪の奥には、熱が一切感じられない瞳がたゆたっている。感情が欠如してしまっているのでは、と錯覚するほどに透明なままの彼女に、男達は目を離せないだろう。 

 どこまでも透き通る空色の彼女の瞳は、虚ろでありながら神秘的な光を宿しているのだ。まるで何かの神に祈る敬虔なる信徒のような清らかさを持っている。しかし、彼女が着込むは銀に煌めく分厚い甲冑。
 騎士さながらの恰好にギャップを激しく覚えるが、不思議と彼女は堂に入っていた。


 なぜか私はそんな二人を見て、胸の奥に温かみを覚えた。

 この感情がいったい何なのかはわからなかったけれど、とてもお世話になった先輩の歴史学者であるヨーティの事を思い出したのだ。
 彼女はよく『徒然つれづれ壊すの、旅は道連れ』と言って、私を遺跡研究へと連れだしていた。
 暇潰しに私を巻き込むのはやめて欲しい、迷惑だと文句を垂れていたけど……実は嬉しかったのだ。新米の歴史学者である私を強引にでも誘ってくれる、彼女の存在が……。
 そんなユーリわたしの思い出と、二人とは初対面でなんら関係ないのに……。

 
「良い」

 気付けばそんな一言が口から出てしまっていた。
 この旅に付いて来て良いと……数少ない言葉で、この場の全ての存在が私の意を理解したのか、一同に明るい空気が流れるのを感じた。


炎神王イグニスさまが眷族、第六血位の始祖シクサス・ツェペシュエリザベス・オブ・イングランド」

 唐突に声を上げたのは金髪紅眼の美女だ。
 
「この身が滅びぬ限り、永遠に神祖しんそ様の『孤独』に寄り添うと、今一度ここに誓いを重ねますわ」

 感極まって、今にも大きな瞳から大粒の涙があふれそうになるのを必死にこらえている様子だ。
 どこかニコラ・テスラに似る狂気的な忠誠心を覚える。
 そんな風に『やっぱり許可しなければ良かったかな』と内心で軽く後悔していると、エリザベスとやらの隣の彼女もおぼろげに口を開いた。


水神王アクシスさまが眷族、第十二血位の始祖トウェラ・ツェペシュジャンヌ・ダルク」

 甲冑の軋む音が鈍く響き、彼女の声は静かに続けられた。
 
「己が魂が尽きようとも、永久とわに神祖さまの『信』なる剣と盾となる事を、此度こたびもまた誓います」

 こちらは白い顔は無表情であるのに、形の良い瞳から頬へと流れる一筋を走らせている。
 なんで挨拶するだけでこんなに感動しているのか不思議でならないが…ン…ニコラ・テスラを筆頭にみんなが私に対してこのような態度を取る節があったので、これが普通なのかもしれないと納得しておく。

 改めて旅のお供となった二人を見つめれば、やっぱりすごい目立つ。
 とにかく美人で、装備も見た目は地味なものに抑えているが一級品である事は間違いようもない。
 ただの冒険者ではないと一目でわかるだろう。


 まぁその辺は私も人の事が言えない。

 まずは腰に差した直剣だが、これは【地神王ウロボロ・ヨルムンガルド】自ら鍛えて創り上げてくれた物だ。

『神剣アースガルド』。
 大地を飲み込んだとされる世界蛇ヨルムンガンドの牙、王輝石オリハルコンをも遥かに凌ぐ硬度の鉱物を鍛えに鍛え、『冥界級』の魔法が内包している代物だ。
 その伝説級の剣を包むは簡素なデザインの鞘。
 しかしその実は、無限の再生を可能とするウロボロスの鱗で作られた物だ。頑丈さはとてつもなく、どんなに刃がこぼれても、鞘に納めれば綺麗に再生する。
 
 これ一つで幾つもの城が買えてしまう代物だろう。
 しかも贈り物はこれだけではない。

『風衣ウェンティ』
 私が全身に身につけている服は【風神王ゼヒュロス・ミカエル】が懇切丁寧に『風の糸』で織ってくれた物だ。夕日と紅、世に夜を運ぶ西風の神ゼピュロスの『天界級』魔法がいくつも込められた逸品だ。
 さらに彼は皮の手袋と長靴ブーツもくれた。

『聖天の手袋グローブ
『聖天の長靴ブーツ

 これはいかなる邪も砕き、天罰を下す大天使ミカエルの祝福が濃厚に宿った物だ。

 そして最後は、【雷神王トールダン・ルシフェル】からもらった暗雲色のフード付きロングマント、『雷獄らいごくとどろかす大魔王サタン』。
 雷神トールの雷撃と、地獄の覇者ルシファーの闇が混じった世界に二つとない神遺物。彼女の極彩色の両翼、その羽毛より作ったと言っていたが……とてもつもなく禍々しい『冥界級』魔法が封じられた気配が漂っている。

 見た目は至って地味だけど、性能はもう天変地異以上の代物である。
 とにかく冒険者として、もぐりこむ準備は万端なのだ。
 あとはお供二人への挨拶を済ませば、【白輝主義国家ヴァイストヘイティス】へ出発だ。


「エリザベスにジャンヌ。お供をよろしく頼む」


「永遠に、神祖さま」
永久とわに、神祖さま」


 永遠って……これから先、いかなる時もずぅーっと私のお供をするつもりじゃない、よね?
 エリザベスにジャンヌ……どうにもこの二人は重たすぎる気がする……。






【転生者・転移者 人物録】

エリザベス1世

1559年~1603年 
イングランド(現イギリス)の女王。

最高の統治者にして、処女王。
戦争と外交に優れた手腕を発揮するも、宗教問題などで孤独を患う。
一生独身を貫いたとされ、世継ぎを生むことなく死去。
テューダー朝、最後の君主。
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