転生者殺しの眠り姫

星屑ぽんぽん

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22話 月下に咲く花

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「こ、これは……本当に傭兵団なのか……?」

 モースン黒宝卿は【戦神王レオニダス・スパルタ】が率いる300の精鋭を前に、腰を抜かす勢いで驚愕していた。
 会議室を出て南の回廊を進めば、外に繋がる大広間がある。そちらにびっしりと臣下を呼び込む手配となったのだ。

「これほどの……装備を一体どうやって……?」

 実はレオニダスの配下たちの装備は幻想を具現化・・・・・・したものである。つまりは戦神王が創造しうる、現存しうる・・・・・最強の装備を配下たちにつけさせている。しかし、それは本来、煌びやかな見た目を重視するものではなく質実剛健なものとなっているはずだ。
 今回はモースン卿らに、どうやら私の心象を良くさせるためにいつもより少々派手目のデザインの物ばかりを装備させているようだ。
 銃弾をも弾くと言われる、【絶剛黒鉄アダマンティス】で鍛えられた漆黒の鎧に身を包む300の精鋭兵たちの姿は壮観の一言。さらに魔法と物理の両面で著しく防御力を底上げする【獄法を課す闇石ダーティ・ラピス】で作られた鉄面皮の兜から黒い霧がでており、まるで闇より生じた軍団のごとき威圧感を誇っている。
そして極めつけは真っ赤に染まった深紅のマント。

 まるで自分達の通った後には血の道しか残らない、そう語っているようにも見えるだろう。

 もちろん、これもただの布で縫われているはずがない。魔神王が治める妖精族が創る【糸を紡ぐ妖精布フェアント・クロース】に竜神王の領域に生息する【紅蓮の竜レッド・ドラゴン】の【咆哮魔法ドラグ・ブレス】……いや、あれはその上位魔法【竜鳴魔法ドラグマジカ】を織り込まれた逸品物だろう。

 しかし、彼らの持つ装備の中で最も目を引くのは大きな円形の盾と鋭利な槍だ。
 盾の分厚さ、重厚さは人1人が持てるような代物ではない。槍の柄も太く、刃の矛先は暗い輝きに包まれている。まさに絶対の矛盾ほこたてであり、これらは地神王の腹の中で何十年もかけて生成される【金剛暗鉱ダイアシャドウ】から鍛錬されて創られた物だ。

 一目でわかる、尋常じゃないほどの強力な武具が揃えられただと。


「黒宝卿……装備だけでなく練度も相当なものかと……」
「鎧越しからわかる鍛え抜かれた体躯……」
「この広間に入って来る時の速度や、一糸乱れぬ隊列……」

 モースン黒宝卿やその側近たち、政務官やミルコらが圧倒される中、部隊の長が前に一歩出てくる。もちろん戦神王レオニダス・スパルタである。
 彼がその場で膝をつき、忠義熱き動作で兜を取る。
 同時に背後でザッと一瞬のズレもなく、配下の300人も同じ礼を取る。
 戦神王は少年姿ではなく、精悍な青年のそれで大地を揺るがすほどの大声を上げた。


「このレオニダス! この300の戦友! 遅ればせながら、ロザリオ様の命により馳せ参じた! 我ら、どのような戦であろうと、敵の命を屠り尽くすまで! 一兵たりともその進撃を止めぬと誓います!」

 それはまさに臣下の礼であり、絶対的な君主に忠誠を誓う者を体現した姿であった。
 戦神王の咆哮が鳴り響けば、後に続くは覇気に満ちた兵らの咆哮である。
 モースン黒宝卿らは彼らのみなぎる戦意に打ちのめされたのか、しばらくは茫然と立ち尽くしていた。しかし、そこから一早く脱却できたのは、やはりこの都市の主だ。

「き、君は一体……何者なのだ?」

 モースン黒宝卿は先程までの慇懃な態度ではなく、恐る恐るといった具合で私に質問を投げてくる。

「ただの傭兵団長ですよ?」

 私はあくまでにっこりとそう答える。

「その若さで……いや、詮索はよそう。ロザリオ殿、どうか良き契約相手として、先程までの無礼を許してくれないだろうか」
「気にしていませんよ」

 背後、というかエリザベスとジャンヌから『ビキビキビキッ』と怖いひび割れ音が聞こえてくるけど、今はスルー! 内心で冷や汗をかきながら作り笑顔を浮かべる私。
 お願いだから暴れてくれるなよー!


「この【黒玉都市】の現状から、敵勢力に落ちた……投資する意味のない都市のために、無駄な出費は避けたいと思うのは統治者として当たり前の心境ですから」

「統治者としての視点を一介の傭兵団長が……君は……いや、あいわかった。貴殿のその広い心に感謝する」

「それで、うちの傭兵団はどうです?」

「これほど心強い味方の勇壮な姿を見れて、我らが【北の黒玉都市】はこの上なく奮い立たされたぞ。なぁ、君たち」

「は、はい……」

「そ、それはもう……」

 戦意が沸いた、というよりはビクビクしている様子を見せる政務官。
 きっと、さっきまでの私に対する態度を気にしているだろう。


「ではロザリオ殿。契約報酬の話なのだが、これほどの精鋭を見せられてしまえば……値段を渋るわけにもいくまい。この都市が持つ財産の払える限りを尽くして――」

「その、報酬の件なのですがモースン黒宝卿、少々お話があります」

 さて、ここからが正念場だ。
 この交渉が後の歴史に大きく響くと考え、私は全身全霊を賭して言葉を撃ちこむ。
 誰の手にも決して折られぬ気迫をぶつけるのだ。





 傭兵団なんてのはお金に汚く、正義のない粗暴な輩。
 お金次第で簡単に味方を裏切り、敵側につくこともある。
 そんな風に父様やミルコじいやからは聞いてきた。

 だけどボクは、その教えに当てはまらない傭兵団がいるって知った。
 それどころか『戦になれば傭兵団など信用に足る仲間ではないですよ』と昔から口癖のように言っていたミルコじいや本人が『あのロザリオという少年、彼は聖人だ。彼が率いる傭兵団も聖貴せいき軍だ』と感動しているほどだった。
 
 ミルコ爺がそんな風に彼……ロザリオという子に感謝を捧げる気持ちもわかる。

 だって彼はあの地獄から、あの奴隷施設からボクを救いだしてくれただけでなく……この戦いに参加する報酬はいらない・・・・・・・と言ってくれたんだ。

 その代わりに『現在、敵勢力に落とされた【南の黒鉄都市】の復興支援をしてほしい』と言ったんだ。
 それはつまり、ボクの父さんが、ボクらの家があった場所も取り返すってこと。そして、その暁には【北の黒玉都市】から積極的な物資支援をしてくれって約束を取り付けてくれた。


 そして最後にミルコ爺やモースン卿に向かって、ボクを見つめながら『この少年、未来のアルバート黒宝卿に……弱きを守る王としての教育をすると約束をしてください。それが私達、私にとっての報酬です』なんて言ったんだ。

 多分、いつもの貴族のおべっかだったりとか。
 大義名分だとか。
 綺麗事だとかを被せた言葉じゃなかった。

 そんなのでは到底推し測れない、何かをその場の誰もが感じていたと思う。
 ボクを助けてくれたロザリオさん。
 彼の目はどこまでも本気で、どこまでも澄んでいて、鬼気迫る勢いでモースン卿たちに発言していたと思う。

 そもそもいくら大義名分のためと言っても、窮地に追い込まれた【北の黒玉都市】と一緒に戦って、そんな陳腐な報酬だけでは納得いくわけがない。それでも一切のお金を求めず、【ケネディア黒宝都市群シュバルツ】の未来を考えるその姿に、きっと全員が胸をうたれたと思う。それはボクも同じだ。
 あんな人のようになりたいって。
 
 だけどロザリオさんと比べて、ボクはなんと無力な存在か……。

 家族を家を、人としての尊厳を、全てを奪われておきながら、ボクは何一つできない。
 感謝と同時に、すごく、すごく悔しい。
 ボクよりほんのちょっと歳上にしか見えないのに……。


「ロザリオさん……」

 今のボクの心は感謝と羨望……そして情けないことに恐怖でいっぱいなんだ。
 ボクの家を、ボクらの街を攻め落としたアインシュタイン新総統が率いる軍が、もうここ【北の黒玉都市】の前に布陣したってミルコ爺は言ってた。
 ロザリオさんの傭兵団の本隊3000人の部隊が、敵軍が到着するより早く入城できたのはよかったって思う。でもやっぱり不安と恐怖は消えない。

 相手は2万と、援軍でさらに合計4万人。
 こっちは防壁があるけど、1万3000人しかいない。
 5万人の兵がいた【西の黒城都市】をたった3万人で、しかも1日で攻め落としたアインシュタイン新総統軍に勝ち目があるなんて思えない。
 また、妹を救えなかったあの地獄に……戻るかもしれないと思うと夜も眠れない。

「……寝れないや」

 嫌な事を考えて、すっかり目が覚めてしまったボクは少しだけ夜風に当たってから寝ようとバルコニーに出た。
 夜空を見上げれば、綺麗な満月が出ている。

「あれ?」

 ふと下を見れば、中庭に人影があった。
 

「あれはロザリオ、さん?」
 
 彼はこんな状況でありながら、いつも堂々としていた。
 恐怖を跳ねのけるその姿に、ボクはいつも憧れと嫉妬を抱いている。だけど、そんな彼も今夜はいつもと違って見えたんだ。
 なんだか、どこか寂しそうな……そんな気配に釣られてボクは寝室から飛び出した。
 決戦前夜だから、彼も寝れなかったのかな?
 でも、ロザリオさんに限ってそんなことはない気がする。

 聞きたい。
 どうしてそんなに強くなれるのかって。
 どうすれば、もう大事な者を失わないように、守れるようになれるのかって。

 必死になって中庭へと駆ける。
 そうしてロザリオさんを見つけたボクは、つい出来心で彼が何をしているのか気になってしまい、足を止めてしまった。そっと、壁に背を寄せて盗見をするように彼を観察する。

 彼はそっといつも被っているフードを外し、その美しい銀の髪と可愛らしい顔を月下に現した。
 ほんとうに、強さも美しさも兼ね備えたロザリオさんに……ボクは溜息をつくことしかできない。
 同時に、やっぱり同じ男としての誇りを刺激されてしまう。
 ボクもあんな風になれればと……。

 あんな……ふう、に……あれ?

 ボクの目はおかしくなってしまったのかな? それほど、現実味のない景色が広がり始めたんだ。
 ロザリオさんの髪がすごく伸びて……顔も、もともと女の子みたいな造りだったけど、さらに神々しく可愛いものへと、変わっていく……?


「ふぅ……やっぱり月明かりのもとでは、真の姿でいる方が楽だ……」

 声も完全に少女のソレへと変わってしまったじゃないか!
 そりゃ、前から声高いなぁとか思っていたけど、でもこんな事って……真の姿……?

 ロザリオさんが、本当は男の子じゃなくて女の子?

 彼女の放つ圧倒的な美、月光にさらされた彼女の姿は……昔よく父様に読んでもらった本に出てくる月の女神さま、いや、それ以上の可憐さと尊さを持っていた。
 そんな彼女の姿にしどろもどろ、胸がこれほどにない高鳴りでドキドキしてしまう。

 彼女を見てボクは、父様が『月の女神さまが、いずれお前の元にも現れるかもしれない』と言っていたのをなぜか思い出した。『父さんが小さい頃にな、彼女めがみが言ったんだ。お前は大物になるとな』なんて、おとぎ話みたいな内容を、いつも厳めしい顔ばかりしている父様が子供みたいに目をキラキラさせて語るものだから、すごく印象に残っている。
『父さんの初恋の相手だ』と母様に内緒にしろ、と悪い秘密も教えてくれたっけ。
 彼女がその、月の女神さま……?
 そんな突拍子もない考えが浮かんでしまう。


「……いるんでしょう?」

 ロザリオさんはまるでボクの居場所を見透かすようにして振り返った。


「転生者、アルバート・アインスタイン君。どうかな、少し月を眺めながらお喋りでもしよう」

 月光が降り注ぐ中庭で、彼女はゾッとするほど美しい笑顔を咲かせ、ボクを見つめていた。

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