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26話 転生者アルベルト・アインシュタイン
しおりを挟むいざ1万2000人という圧力を前方に感じると、それは数字で把握するよりも圧倒的な重みがあった。
相手はこちらが少数の300であっても、容赦なく踏みつぶす気満々らしい。まさかこちらから討って出るとは思っていなかっただろうに、軍の先頭が慌ただしい動きを見せている。
おそらくは、こちらを迎え討つために陣形に多少の変更を加えているのだろう。
「矢です!」
敵の迅速な対応に、戦神王レオニダスの部下が叫ぶ。
しかし、それは口に出さずともこの精鋭たちの誰もが把握している。
奴ら、銃は城攻めのために温存し、たった300人なら矢の雨を降らせれば十分とでも思っているのだろう。
弓兵1000あまりによる迎撃か。
上空を漆黒の点が埋めつくし、それらが降り注ぐ。
誰もが権能すら使わずに、何事もなかったかのように走り続ける。
あのようなノロマの攻撃に当たる輩は、この部隊には一人たりとていない。
いたとしても児戯に等しい殺傷力では、傷一つ負わせることはできない。彼らの強さは、ロザリアとして目覚めてすぐに【幻想神宮オメガ式】の中で何度も戦った私だからこそわかる。
人族最高峰の身体能力に加え、それぞれが戦神の加護を持っているため、彼らは間違いなく人族最強である。一人一人が歴代勇者に匹敵すると言っても過言ではないような気さえしてくる。
「みな、久々の戦ぞ! 嬉しいなぁ!」
戦神王レオニダス・スパルタが野太い声で部下たちへと笑みを飛ばす。
すると彼らは疾走しながら笑い声を上げる。
その嘲笑には『このような攻撃はぬるい』という気持ちが多大に含まれていることだろう。
「しかし、物足りぬな! 我らが真の戦、攻撃というものを見せてやろうぞ!」
我らの足は止まらず。
我らの矛は貫き尽くす。
我らの盾は如何なる攻撃も通さず。
瞬く間に矢の雨をやり過ごしたこちらを見て、敵は威容と悟ったのか。通常、この数の差であれば歩兵部隊を突撃させ、包囲し殲滅すればいい。しかし敵は大盾部隊を前面に展開し、その後方に歩兵と魔術師による混成部隊を配置したようだ。
こちらの突撃も奇怪ならば、相手の戦術も変わり種。
だが、これほどまでに細やかな動きを短い時間でできるのは、相当な訓練が施されている証。さらには指揮官も相当に状況把握能力に長けた人物なのだろう。
この速度で走り続ければ、接敵まで約20秒。
私はここで合図をする。
右手を上げ、そして前へと振りかざす。
するとスパルタ兵のスピードは格段と上昇し、その脚力はもはや人間のそれではない。
わずか3秒で敵と接敵、大盾もろともスパルタの槍が砕き、歩兵と魔術師の混成部隊を吹き飛ばす。
私は先頭で走らず、敵との衝突を避けて少しだけ後方へと下がる。
必ず転生者、アルベルト・アインシュタインが出張って来ると予測して、すぐにでも最高の権能で対応できる準備をするためだ。
今のところスパルタ兵の猛進を阻む者はなく、まるで柔い豆腐をグチャグチャと握りつぶす手のように敵の軍を木端微塵に破壊している。
順調ではあるが、しかし……稀に気になる詠唱を放つ者も散見されている。
「総統よ、我らに敵を撃つ力を与えたまえ――――武器召喚【鉄鎖の閃光】!」
敵兵の一人が声高らかに叫べば、その手には淡く光る――――
長銃を握っているのだ。
そしてこれは既に何度も見受けられたもので、敵軍のいたるところで発せられている。
あれが敵の主力の正体、銃。
これで白輝国内のどこにも銃を作っている工場が見つからなったのにも頷ける。
銃は魔法によって召喚されていたのだ。
実際に製造されていたわけではない。
そして、多くの敵が銃を扱えていることから、おそらく【第一界級魔法】を扱える全ての者が、何らかの権能を元にして武器を呼び出している。
そうでなければ、あれほど複雑な構造をしている武器を最下位の【第一界級魔法】で召喚できるはずがない。様々なプロセスを何らかの権能を持つ者を媒体にして省略し、アクセスできるようにしている。
簡単に言えば、大量の銃を準備してある武器庫を管理する者がいて、その武器庫から銃を取り出して使っているのが目の前の敵兵たちだろう。
その武器庫の主、権能の持ち主がおそらく――――転生者アルベルト・アインシュタインなのでは?
「また『見えぬ悪魔』か! しかし、そのような銃弾、我らが盾には通用せぬ!」
スパルタ兵は頑強である。
単発式の銃であれば易々と銃弾の軌道を読んで正確に盾で身を守る。しかし、中には被弾する者もいるが、皮膚が真っ赤に染まる程度。つまりは激しい打ち身程度で済んでいる。
ダメージはゼロではないけれど、致命傷を負うという程でもない。
もし被弾箇所が口内や目などであれば危険な一撃となりうるかもしれないが、今のところは銃を相手に後れを取ることはない。
「総統にいただいた武器が通用しない!?」
「こ、こっちにきたぁあ!」
「ぎゃあああああ!」
「こっ、こいつら化け物だぁああ!」
こうして敵陣深くへと抉り込み、盛大に敵の場をかき乱す。スパルタ兵たちは鬼神のごとき勢いで、敵兵を貫き殺し、引きちぎり、殴り飛ばし、蹴り潰す。
こうして私達の蹂躙という蹂躙が続くかに思えたその時――――
待ちに待った標的が現れた。
「我の掲げた平和思想と信念のために、死んでくれ」
転生者は常人にはあるまじき跳躍力で以って、スパルタ兵と敵兵が衝突し合う上空へと身を躍らせた。
手に持つは武骨で巨大な漆黒の鉄塊。
銃口が六つもあるそれはガトリング砲だろう。単発式の長銃に比べ、その殺傷力は遥かに上。
1発の銃弾の大きさはおそらく長銃から放たれるそれより大きく鋭い。そして1分で200発以上の弾丸を放つその化け物じみた武器が、スパルタ兵を狙って火を噴いた。
あの貫通力はさすがのスパルタ兵も無傷ではいられない。
そう判断した私はもちろん、銃弾が味方に届くより早く上に向かって権能を発動している。
「覆え、【天空神ウラノス】が権能――【漆黒に破曲する星雲】」
夜空に浮かぶ星々の輝きをあますことなく奪った、世界を多いし闇。
破壊の曲を奏でる暗黒の空を瞬時に広げれば、転生者がばらまいた銃弾のことごとくを奪い尽くす。
「現れたな……転生者、アルベルト・アインシュタイン」
敵の、私たちスパルタ兵のど真ん中に着地した男を睨む。
長身痩躯、灰髪の乱れた髪を無造作に流す姿に、人族の女性であったなら妙な色気を感じることだろう。美男の部類に入るその顔に慢心の色は一切なく、注意深く周囲を観察している。
スパルタ兵は一瞬だけ静止し、彼の着込むゆるやかな白衣が風に揺れる。
「ふむ? 常識外れの強さを誇る部隊を、一体どんな人物が率いていると思って来てみれば……いやはや、やはり常識というのは当てにならないな」
彼は白衣について土埃を手で払い、そして私を見ては心底楽しそうに笑った。
「まさか、こんなに幼く美しい少女が指揮官だとは。やはり想像の上を行くのが、創造の真骨頂であること、これは今世においても不変の真理であったか」
悠々と語りながら、彼の背後には白く先の尖った筒状の物体が三つほど浮遊し出す。
それらの後部から炎が吐きだし、こちらへと音速を超えるスピードで放たれる。
さきほど【北の黒玉都市】の東西壁を安々と破壊した――――
対艦ミサイルだ。
私はミサイル攻撃を防ぐための権能を発動すると共に、理解した。
「アインシュタイン、貴様の権能は――――」
お前の世界にあった……地球にあった兵器を召喚し、自在に行使するものか。
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