転生者殺しの眠り姫

星屑ぽんぽん

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29話 果てぬ願い

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「少女よ!」

 アインシュタインは悲痛な面持ちで叫ぶ。先程まで宿敵を睨み殺さんばかりの殺意を、その瞳に宿らせていたのに、その煮えたぎる思いはあっさりと霧散していた。
 代わりに浮かぶは絶望と、諦めの色。
 わたしに何かを請おうとするその気配に、それだけで事態がより深刻になったのを感じる。


「名を、教えてくれ」

 真っすぐに、あまりに真摯な目を向けられて無視をするわけにはいかなった。
 警戒は解かぬまま、彼に答えてやる。

「……ロザリアだ。アインシュタイン」

「ロザリア、ロザリアか……少女、ロザリアよ」

 彼は私の名を噛み締めるようにして呟き、そして必死に形相で見据えてくる。
 アインシュタインは頭を一度垂れ、それから一筋の涙を頬に流しながら笑った。
 
「私を、殺してくれ。さぁ、早く――」

 彼は予想通り懇願してきた。
 惨めに、無様に、誰よりも誇らしい笑みでって私に哀願したのだ。

 あがいてもがいて、苦しみ抜いて、それでも自分じゃ届かないと悟った敗者のように。
 転生者に敗れていった、殺され散っていった、かつての仲間や戦友たちのように。

 
「――早く、私を……殺してくれ!」

 その気概、気迫は本物だった。

「発射された2000発の核兵器と、充電中の50の超光線砲基地フォトン・レーザーはッ、すでに私の制御を離れた!」

 平和を真に望み、己が信念を貫くため――
 家族を失っても戦い続けた男の顔は、戦友たちと全く同じものだった。

「私を殺せば、私の権能は失われ、生みだされた兵器は霧散するはずだ!」

 自分の命を投げうってまでして、大多数を助けようとする姿勢は認めたくないが……。
 まぎれもなく本物……。
 転生者のくせに――

「それでも、もし兵器が消滅しなかったら、どうか――――」

 アインシュタインは悔しそうに全身を震わせながら吠える。

「どうか、頼む! こんな事を押し付けてしまって、すまない! どうにか世界を救ってくれ!」

「……貴様が、それを言う、か……」

 地球アーセから来た部外者である貴様が、侵略者である貴様が……。
 
「頼む、頼む、そしてどうか――――銃を、根絶させてくれ。まだ、この文明レベルでは早すぎる――いや人間には一生、手に余る物なのかもしれない――」


 貴様のような存在が、それほど気高く生きていようとはな……。
 私の価値感が、憎悪がひっくり返ってしまう。

 恨みの対象でしかない転生者の中にも、このような傑物がいると。
 ここで殺してしまうには惜しい人物だと――――殺すのを躊躇ちゅうちょしてしまう。

「20世紀最高の物理学者と言われた我がこのザマだ。所詮、人間とは欲望に惑わされ、兵器に踊らされる弱き生き物だ」

 切ない顔を浮かべるアインシュタインを、できれば救ってやりたいと心が大きく揺らぐ。
 だけど状況がそれを許してはくれない。
 彼を救って、空より無数に迫る核兵器を完全に防げる術が見つからない。把握できる物だけでも、着地点が近辺の物から、遥か遠くの地とバラバラ。その全てを正確に予測できたとしても……今からでは、全ての地域を守るのは不可能。


「人間とは弱き生き物と……そんな事はないぞ、アインシュタイン。貴様のように身を呈して、事態を終息しようとあがく者がいるではないか」

 だから私はそっと彼に触れた。
 敵である彼だが、彼の目指した未来は私の抱く世界と似通っていた。

「そういう人間がいるかぎり、人類の可能性は無限だ」

 私は最大限の敬意を込めて、やさしくでる。
 アインシュタインの腕が、足が、消し飛んでいく。

 ほころぶ身体はまるでちりのように流れてゆき――


「貴様の意思はが引き継ぐ。さらばだ、転生者」


 残った顔、その首筋に私は自身の牙を突き立てる。
 ズチャリ、と甘美な音色を奏でる。そうしてほんの少しだけ、彼の血を抜いてから見届ける。

 彼は最後に、笑ってった。






 アインシュタインの目論見通り、彼が死んだと同時に空から迫る無数の嫌な気配は消失した。
 無事、核兵器等の脅威はなくなったのだ。同時に、私達を覆うドームもなくなり、辺りの様子がしっかりと窺えるようになる。
 

 敵兵は後方にまだまだ健在で1万ほどは残っている。
 東西から攻め入ろうとしていた6000人の敵軍も消耗はない。しかし彼らは一様に浮き足だっていた。『北の黒玉都市』の東西城壁がボロボロな状態で、攻めるに好機なはずであるのにソレをしない理由は何か。
 おそらく、あの黒いドームは彼らを防護するためにも張り巡らされたのではないか、と推測できる。唐突に視界を暗闇に奪われたと思えば、数分のうちに自らを阻む謎の壁が消失した。
 彼らが混乱するのも無理はない。
 さらにアインシュタイン不在の本軍から、この状況に対する指令がないため……未知の現象は『北の黒玉都市』側が行ったものかもしれないと警戒し、攻めていいのか判断をしあぐねている、と言ったところか。
 
「このままでは、ダメだ」

 第一の標的、アルベルト・アインシュタインは無事に葬ることができた。しかし、ここで白輝の軍勢がアインシュタインの死を知った場合……軍を引きあげてしまう可能性がある。
 大将を失った兵達の士気が下がるのは古来よりの鉄則。しかも今回の白輝軍にいたっては『見えぬ悪魔』という最強の武器を供給してくれる者、すなわちアインシュタインがいなくなってしまったら白輝が城を攻め落とすのは非常に困難な話になってしまう。

 ひとまずの目標はクリアできたものの、ここで戦いが終わってしまってはまずい。
 なぜなら、転生者の匂いを纏った黒宝側の人物を抹殺し終えていないのだ。戦争のどさくさに紛れて、ここらで『黒玉都市』に潜む転生者は一網打尽にするべき。
 そう、あの銃を扱えると言っていた政務官のトマスという輩の処分もまだなのだから。

 さらに言えば、今後を見据えるのならこの戦いでは多数の死者が出てもらう必要がある。
 窮地を救ってこその英雄譚なのだ。
 残酷だが仕方ない。

 モースン黒宝卿にアルバート少年の保護と未来を約束させたとはいえ、100%信じることはできない。
 ならばこちらの要求を通すだけの力を手にする必要がある。描くシナリオの一つとして、私の傭兵団が『黒玉都市』の危機を救い、大活躍をすれば今後の発言権と影響力は民にも届く。名声を活かし、未来の奴隷王となるアルバート少年を助力させるよう黒宝勢力に働きかければ、少年が無碍むげに扱われる心配はなくなる。
 結局、考えることは政務官トマスと同じだ。


 なればこそ、私は権能を呼び覚ます。

擬態ぎたいせよ、全知全能なる神ゼウスが権能――――【不義の人ドッペル】」

 多くを愛した神ゼウスはかつて、多くの姿に変身し、愛する女性たちへと迫った。時に王妃が愛する夫の姿で、時に白牛になってさらったり、時に白鳥に変身しては寝取ったり。
 そんな不義なる神の権能をなるべくは駆使したくはなかったが、おかげで完全に私の姿形はアルベルト・アインシュタインそのものとなる。
 これで白輝と黒宝の両陣営に、被害の出にくい戦い方を誘導できる。

「戦神王とスパルタ兵は一旦、『北の黒玉都市』に戻れ。戦果は上々だが、私が負傷したため戻ったと報告でもすればいい」

 300のスパルタ兵のみで本隊まで喰い込み、おそらく2000強の敵兵をすりつぶした。この戦果を以って凱旋すれば、評価は上々だろう。

「かしこまりました。しかし私の分身をロザリア様の影に潜ませることをお許しいただけないでしょうか? 姿を模したとはいえ、敵陣のただなかに1人とは、万が一の事態に備えておきたいのです」

「許す。転生者が潜む戦場である以上、不測の事態に備えるのは上策だ」

 やはり一つ気がかりなのは、黒宝側に点在する転生者の匂いが全て同じだという事実だ。


「ありがたき、幸せ。では、御武運ごぶうんを!」
「そちらもな。転生者の匂いをまき散らす黒宝の輩を一人残らず暗殺せよ。もちろん私も隙があれば、そちらまで影で移動し、トマス共々殺して回る」
「御意」

 戦神王とスパルタ兵たちが『黒玉都市』の正面門へ疾駆するのを見送り、私は私の仕事に取り掛かる。
 まずはアインシュタインがやっていたように、高く跳躍する。
 そうして、いただいた・・・・・ばかりの権能を発動してみる。

「備えよ、夢を見果みはてぬ学者アインシュタインが権能――――【暴力と殺戮の武器庫】」


 倒した者の権能を、いただくことができる。
 それが吸血。

 奪える量や質、その精度に差異はあれど、これが【高貴なる血族ブラッディール】の特性。
 そうして数多の神々をほふり、力を奪ったが私。
 ロザリア・ブラッディドール・ヴァルディエ・ロ・オブリス・ルクス。

 この特性こそが私達を頂点とたらしめた根源なのだ。
 ほんの少しだけロザリアとしての記憶が、力が……私を私として理解させてくれる。
 そしてアインシュタインの権能を使ってみて、自分の憶測は間違っていなかったと判明する。


「アインシュタインの知る地球アーセの武器が、頭に流れ込んでくる……」
 
 このデータを元に、生成か。
 至極シンプルな権能であるが、かなり強力だ。
 何せ、何の素材も必要なく兵器を作りだせるどころか、自由自在にそれらを召喚できるのだから。
 さらに――

「自分が形成した亜空間に大量の武器を生成、それらを……特定の詠唱を口にした者に、譲渡できるか。便利極まりないな」

 しかも武器申請した者の簡易的な情報すら得られるとは、なかなかに有用な権能だ。
 すでにアインシュタインの死後から、突然消えてしまった『見えぬ悪魔』を求めて大量のアクセスがこの権能には届いている。その一つ一つを瞬時に精査し、許可を下すなんて……天才的な頭脳を持っている者でなければ処理が追いつかないだろうに。
 私は凡人であるがゆえに、ゆっくりと許可を出していく。もちろん黒宝の被害が大きくならないように、少なめだ。健在だった後方の白輝軍に近付きながら、そんな事をしていれば、ようやく『アインシュタイン総統が生きておられた!』とあちらからお迎えが来た。

「全軍、慎重に前進し城攻めを始めよ!」

 もちろん、【北の黒玉都市】にいる転生者をみな殺しにしたら、すぐさま本国へと帰還させこの戦争を終結させる。

「かしこまりました! 両翼の軍にも閣下のお言葉を通達いたします!」
「すぐに頼む」
「はっ!」

 こうして私は両陣営を駒として使い、転生者狩りに精を出すことにする。


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