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30話 かつて神々を滅ぼした者
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「トマス様! ロザリオ傭兵団の突撃部隊が帰還したようです!」
『北の黒玉都市』、中央城壁の最奥。
ロザリオ傭兵団が城壁に張りついているその後方で、伝令の声が響く。
「ほうっ! あのバカ共がッ! 1万以上の軍を相手にまさか生きて帰れるとはなッ!」
伝令へ不敵の笑みで答えたのは、中央城壁の後方待機を任された『武装部隊』の長官、政務官トマスである。
「そ、それが……団長のロザリオが負傷したとのことで、一旦帰還したようです」
「ふん、生きているだけ恩の字ってところだろう。奴め、存外にしぶといな。しかし敵は何をしている? たかだか300人の兵を万の軍勢が大人しく帰すなどとは。ロザリオ傭兵団の突撃隊の被害はどれぐらいだ? 団長を必死に守って命からがら逃げれて、10人前後ってところか?」
「そ、それが……」
「報告ぐらい早くしろ!」
「はっ、申し訳ありません! ロザリオ傭兵団は300人、全員が無事に帰還した模様です」
「なに?」
政務官トマスはとても信じられない内容を耳にし、眉をひそめる。しかし、それも一瞬のことで彼は納得顔で言った。
「奴ら、この私に大言を吐いておきながら、戦わずに戻って来たのか? これは傑作だ」
「い、いえ。敵兵2000を殲滅し、敵本陣まで突入に成功したそうです」
「は……?」
今度こそ政務官トマスの動きは静止する。
彼は自らが率いる2000の『武装部隊』に絶対の自信を持っていた。
自身と副官2名が扱える『見えぬ悪魔』を主軸にした戦い方、それと完璧な連携を取るまでに鍛え上げた部下たちは頼もしい。『見えぬ悪魔』の殺傷力と、狙った方角の敵隊を必ず崩せる破壊力。その突破性に合わせ臨機応変に動けるこの部隊は、守りも攻めも『黒玉都市最強』の異名を持つ。
そんな『武装部隊』でも万を超える軍勢を相手に、この短時間で2000人も倒せるという自信はない。そんな思いを自分に持たせた、たかだか傭兵団ごときにトマスは激しい憎しみを覚える。
「おい、貴様! たった300人で1万2000の軍勢を相手に無傷で、しかも2000人もの戦力を削っただと!? そんなこと信じられるはずがないだろう!」
これが事実であれば、自らが誇る部隊が否定されたような気分になってしまう。
だから政務官トマスは怒りの形相で伝令に確認を取る。
「物見も確認しております。状況はほぼ真実かと」
「馬鹿なッ!」
激昂する政務官トマスは、伝令に対し八つ当たりのような態度で唸る。
「ロザリオなどと小物を気にするより、さっきの現象を気にしろ! 都市全体を覆うほどの壁を、黒い何かが空すらも覆い隠したのだぞ!」
「トマス様、落ち着きくださいませ」
「ユーカリの言う通りですぞ、トマス様。所詮は傭兵団、良いではないですか。敵の数を減らしてくれたのなら」
トマスの怒りを鎮めたのは、今まで伝令の報告を黙って聞いていた副官のユーカリとガリルである。
いずれも最近になってトマスの副官として仕えるようになった身ではあるが、同じ『見えぬ悪魔』を召喚できる者同士、敵対するには危険が多すぎる。ならば手元に置いた方が得策だと判断し、自分の下に招き入れた部下であるから、トマスも二人の意見には耳を傾けるようにしていた。
「すまないな。長官である私が冷静を欠くとは……」
「いえいえ。たかが傭兵団に先を越される悔しさは我々も同じですから」
「しかし、どこまでいってもたかが傭兵団ですよ、トマス様。如何に戦功を立てようとも、この戦が終われば……遠くからドカンと一発かましてやれば終わりでしょう?」
ユーカリとガリルは下卑た笑みをトマスに向ける。
ユーカリは常に部隊の前線に立ち、味方を鼓舞することが多い。なぜなら彼は同時に2丁の『見えぬ悪魔』を召喚することができ、それは白輝の兵が持つ単発式の長銃と比べ小さい。片手で持てるタイプで、小回りが利くのだ。ようは短銃使いである。
だから前線という最も混戦するフィールドで彼の長所は活かされる。
ユーカリが前ならガリルは部隊の最も後方で戦う。ガリルが召喚できる『見えぬ悪魔』は通常の単発式長銃より大きく、長く、ごつい。一発一発の間隔は長いが、その威力はユーカリの持つ短銃を遥かに上回る。
さらに遠方を見渡せるスコープもついており、長距離からの殺戮を可能とする。
つまりは狙撃銃である。
「ガリルの『見えぬ悪魔』なら、それも可能か」
「お気に召さないようでしたら、トマス様ご自身がバラバラにしてやれば良いではないですか」
政務官トマスが召喚できる『見えぬ悪魔』は、同時に幾つもの小さな破壊をもたらすもの。一発放てば、小さな弾丸が飛び散り、目の前の敵を吹き飛ばす。
味方が傍にいるとなにぶん、仲間を巻き込んでしまう恐れがあるため扱いが難しい。しかし近接戦においてその破壊力は抜群だ。
彼は自らの散弾銃を褒められ、自信を取り戻す。
「あのような奴ら眼中にないわ。私はいずれ、この【北の黒玉都市】の代表、黒宝卿になる男だ! フハハハッ! その時はお前たちにもたっぷりと甘い汁を吸わせてやるからなぁ!」
「さすがトマス様! 下賤な輩など相手ではないと」
「下に存在する者には目をくれず、ただ上を目指すお姿はなんと気高きことか!」
戦時中でありながら、彼ら3人は不謹慎にも高笑いを響かせる。
今もなお、戦いに散って死にゆく兵士がいるかもしれないというのに、まるで他人事のようだ。
命をかけている誰もが、そんな3人を不快に思うだろう。こんな指揮官は嫌だと。それを代弁するように、彼らを咎める声が唐突にこぼれた。
「眼中にないか。ご自分の足元をしっかりと見ないからこうなるのですよ」
政務官トマスの下――
影からぬるりと現れたのは白銀の髪をなびかせた美少女、ロザリアである。
「貴様はッ! どこからッ」
突然の闖入者に激しく動揺するも、政務官トマスの声は続かなかった。
なぜなら声を発するはずの顔が胴体を離れ、宙を舞っていたからである。
「ぐぎぃ」
「ぎゃッ」
同じく2人の副官も声を上げる間もなく、長官と同じ末路を辿った。
◇
黒宝軍と白輝軍、両軍の激突からおよそ5分。
次々と報告が来る中、私はアインシュタインに擬態したまま白輝軍の本営で1人訝しんでいた。
「アインシュタインと比べたら、ひどく歯ごたえのない連中ばかりだった……」
戦神王よりもらう報告は全て即殺。私も暇を見つけて先程、政務官トマスと他2名を暗殺してきたが……黒宝に巣食う、『見えぬ悪魔』を扱えるという人物達は、転生者にしては弱過ぎた。
「これで本当に転生者なの……?」
「我が君、それも当然の事かと」
そんな私の疑念に答えようと、影よりニコラ・テスラが出てくる。
この変態執事にすぐ傍から登場されると、ちょっと一歩引いてしまうものがある。
「何かわかったのか?」
「はい……どうやら権能【異世界通信】でアルベルト・アインシュタインなる人物を詳しく調査したのですが――」
ニコラ・テスラの見解によれば、アルベルト・アインシュタインという物理学者は2人で1人の人物を演じていたようだ。彼ら一卵性双生児で外見は全く同じ、天才的頭脳も同一、その特性を活かして周囲を騙していたと。
しかし何らかの事故で弟の方が先に死に、それからは残った兄が1人でアルベルト・アインシュタインを全うしたとか。
「あちらの文字を少々解析させてもらったのですが、かの人物の名はこのように表記されます」
執事は指先に光を灯し、それを空中で描く。
光りの軌跡は霧散することなく、宙に残った。
そこに書かれている模様は『Albert Einstein』というものだ。
「これをアメリカ、イギリスという国で読むと【アルベルト・アインシュタイン】に……ドイツという国で読むと、【アルバート・アインスタイン】と読むそうです」
「まさか……」
未来の奴隷王であるアルバート少年は、前世はアインシュタインの弟だったのか。
「それにこんな逸話もまことしやかに囁かれているようで。アインシュタインの死後、その天才的な脳を切り分けてバラバラにし、各国の研究者の手によって天才のメカニズムの研究がなされていたとか」
「実はその分割された脳の正体が……弟である、アルバート少年の前世の脳……?」
十分にありえる。
アルバート少年が前世の記憶を大きく欠いていたのはこれが原因か。
そして、バラバラに細かくなった脳の一部のみを継承して転生した者であれば、この歯ごたえのなさは納得がいく。発揮できる力はごく一部のみとなってしまっているだろう。
これに該当するのが、黒宝に点在する政務官トマスを含めた『見えぬ悪魔』を扱える者たちか。
「だからか……他の転生者の匂いが全て同一なのは、引き継いだ能力、脳が同一人物であるから……」
しかし妙なのは弟アルバートの分割された脳の全てが黒宝勢力に点在していた事。綺麗すぎる決別だ。
兄であるアルベルトは白輝に、片や弟アルバートの分裂者たちは黒宝に。これでは兄弟で争えと、何者かの作為を感じずにはいられない。
その目的は歴史を壊すほどの大戦……?
「まぁ、良い。現存する転生者にさして脅威がないとわかれば、他の録神王たちにも処理を任せてしまおう」
「御意」
「ただし歴史的に重要な人物となる者、未来の黒宝卿にして奴隷王、アルバート少年だけは生かすように」
「もちろんでございます」
粛々と影の中へと下がってゆくニコラ・テスラを見つめ……私はこの事態を裏で操っているであろう、大いなる存在について考える。
別世界からの人間を転生・転移させ、あまつさえ世界を壊せるほどの強大な能力を付与できる存在を放置するわけにはいかない。
そもそもそんな存在がいれば、転生者に苦しめられた家族の、戦友たちの仇でもある。
真の意味で、直接的な原因を作り出している存在。
「……そんなものは、神しかいないのだろうな……」
滅び漏らしたか、ロザリアよ。
うっすらと――
自分の記憶の片隅に残った何かが、そう囁いたように感じた。
▽
【転生者録】アルベルト・アイシュタイン
彼の死後、トマス・ハーヴェイによってアインシュタインの天才的脳は摘出される。その後、家族の許可なく脳は分割され、複数の研究者たちの手に渡った。
『北の黒玉都市』、中央城壁の最奥。
ロザリオ傭兵団が城壁に張りついているその後方で、伝令の声が響く。
「ほうっ! あのバカ共がッ! 1万以上の軍を相手にまさか生きて帰れるとはなッ!」
伝令へ不敵の笑みで答えたのは、中央城壁の後方待機を任された『武装部隊』の長官、政務官トマスである。
「そ、それが……団長のロザリオが負傷したとのことで、一旦帰還したようです」
「ふん、生きているだけ恩の字ってところだろう。奴め、存外にしぶといな。しかし敵は何をしている? たかだか300人の兵を万の軍勢が大人しく帰すなどとは。ロザリオ傭兵団の突撃隊の被害はどれぐらいだ? 団長を必死に守って命からがら逃げれて、10人前後ってところか?」
「そ、それが……」
「報告ぐらい早くしろ!」
「はっ、申し訳ありません! ロザリオ傭兵団は300人、全員が無事に帰還した模様です」
「なに?」
政務官トマスはとても信じられない内容を耳にし、眉をひそめる。しかし、それも一瞬のことで彼は納得顔で言った。
「奴ら、この私に大言を吐いておきながら、戦わずに戻って来たのか? これは傑作だ」
「い、いえ。敵兵2000を殲滅し、敵本陣まで突入に成功したそうです」
「は……?」
今度こそ政務官トマスの動きは静止する。
彼は自らが率いる2000の『武装部隊』に絶対の自信を持っていた。
自身と副官2名が扱える『見えぬ悪魔』を主軸にした戦い方、それと完璧な連携を取るまでに鍛え上げた部下たちは頼もしい。『見えぬ悪魔』の殺傷力と、狙った方角の敵隊を必ず崩せる破壊力。その突破性に合わせ臨機応変に動けるこの部隊は、守りも攻めも『黒玉都市最強』の異名を持つ。
そんな『武装部隊』でも万を超える軍勢を相手に、この短時間で2000人も倒せるという自信はない。そんな思いを自分に持たせた、たかだか傭兵団ごときにトマスは激しい憎しみを覚える。
「おい、貴様! たった300人で1万2000の軍勢を相手に無傷で、しかも2000人もの戦力を削っただと!? そんなこと信じられるはずがないだろう!」
これが事実であれば、自らが誇る部隊が否定されたような気分になってしまう。
だから政務官トマスは怒りの形相で伝令に確認を取る。
「物見も確認しております。状況はほぼ真実かと」
「馬鹿なッ!」
激昂する政務官トマスは、伝令に対し八つ当たりのような態度で唸る。
「ロザリオなどと小物を気にするより、さっきの現象を気にしろ! 都市全体を覆うほどの壁を、黒い何かが空すらも覆い隠したのだぞ!」
「トマス様、落ち着きくださいませ」
「ユーカリの言う通りですぞ、トマス様。所詮は傭兵団、良いではないですか。敵の数を減らしてくれたのなら」
トマスの怒りを鎮めたのは、今まで伝令の報告を黙って聞いていた副官のユーカリとガリルである。
いずれも最近になってトマスの副官として仕えるようになった身ではあるが、同じ『見えぬ悪魔』を召喚できる者同士、敵対するには危険が多すぎる。ならば手元に置いた方が得策だと判断し、自分の下に招き入れた部下であるから、トマスも二人の意見には耳を傾けるようにしていた。
「すまないな。長官である私が冷静を欠くとは……」
「いえいえ。たかが傭兵団に先を越される悔しさは我々も同じですから」
「しかし、どこまでいってもたかが傭兵団ですよ、トマス様。如何に戦功を立てようとも、この戦が終われば……遠くからドカンと一発かましてやれば終わりでしょう?」
ユーカリとガリルは下卑た笑みをトマスに向ける。
ユーカリは常に部隊の前線に立ち、味方を鼓舞することが多い。なぜなら彼は同時に2丁の『見えぬ悪魔』を召喚することができ、それは白輝の兵が持つ単発式の長銃と比べ小さい。片手で持てるタイプで、小回りが利くのだ。ようは短銃使いである。
だから前線という最も混戦するフィールドで彼の長所は活かされる。
ユーカリが前ならガリルは部隊の最も後方で戦う。ガリルが召喚できる『見えぬ悪魔』は通常の単発式長銃より大きく、長く、ごつい。一発一発の間隔は長いが、その威力はユーカリの持つ短銃を遥かに上回る。
さらに遠方を見渡せるスコープもついており、長距離からの殺戮を可能とする。
つまりは狙撃銃である。
「ガリルの『見えぬ悪魔』なら、それも可能か」
「お気に召さないようでしたら、トマス様ご自身がバラバラにしてやれば良いではないですか」
政務官トマスが召喚できる『見えぬ悪魔』は、同時に幾つもの小さな破壊をもたらすもの。一発放てば、小さな弾丸が飛び散り、目の前の敵を吹き飛ばす。
味方が傍にいるとなにぶん、仲間を巻き込んでしまう恐れがあるため扱いが難しい。しかし近接戦においてその破壊力は抜群だ。
彼は自らの散弾銃を褒められ、自信を取り戻す。
「あのような奴ら眼中にないわ。私はいずれ、この【北の黒玉都市】の代表、黒宝卿になる男だ! フハハハッ! その時はお前たちにもたっぷりと甘い汁を吸わせてやるからなぁ!」
「さすがトマス様! 下賤な輩など相手ではないと」
「下に存在する者には目をくれず、ただ上を目指すお姿はなんと気高きことか!」
戦時中でありながら、彼ら3人は不謹慎にも高笑いを響かせる。
今もなお、戦いに散って死にゆく兵士がいるかもしれないというのに、まるで他人事のようだ。
命をかけている誰もが、そんな3人を不快に思うだろう。こんな指揮官は嫌だと。それを代弁するように、彼らを咎める声が唐突にこぼれた。
「眼中にないか。ご自分の足元をしっかりと見ないからこうなるのですよ」
政務官トマスの下――
影からぬるりと現れたのは白銀の髪をなびかせた美少女、ロザリアである。
「貴様はッ! どこからッ」
突然の闖入者に激しく動揺するも、政務官トマスの声は続かなかった。
なぜなら声を発するはずの顔が胴体を離れ、宙を舞っていたからである。
「ぐぎぃ」
「ぎゃッ」
同じく2人の副官も声を上げる間もなく、長官と同じ末路を辿った。
◇
黒宝軍と白輝軍、両軍の激突からおよそ5分。
次々と報告が来る中、私はアインシュタインに擬態したまま白輝軍の本営で1人訝しんでいた。
「アインシュタインと比べたら、ひどく歯ごたえのない連中ばかりだった……」
戦神王よりもらう報告は全て即殺。私も暇を見つけて先程、政務官トマスと他2名を暗殺してきたが……黒宝に巣食う、『見えぬ悪魔』を扱えるという人物達は、転生者にしては弱過ぎた。
「これで本当に転生者なの……?」
「我が君、それも当然の事かと」
そんな私の疑念に答えようと、影よりニコラ・テスラが出てくる。
この変態執事にすぐ傍から登場されると、ちょっと一歩引いてしまうものがある。
「何かわかったのか?」
「はい……どうやら権能【異世界通信】でアルベルト・アインシュタインなる人物を詳しく調査したのですが――」
ニコラ・テスラの見解によれば、アルベルト・アインシュタインという物理学者は2人で1人の人物を演じていたようだ。彼ら一卵性双生児で外見は全く同じ、天才的頭脳も同一、その特性を活かして周囲を騙していたと。
しかし何らかの事故で弟の方が先に死に、それからは残った兄が1人でアルベルト・アインシュタインを全うしたとか。
「あちらの文字を少々解析させてもらったのですが、かの人物の名はこのように表記されます」
執事は指先に光を灯し、それを空中で描く。
光りの軌跡は霧散することなく、宙に残った。
そこに書かれている模様は『Albert Einstein』というものだ。
「これをアメリカ、イギリスという国で読むと【アルベルト・アインシュタイン】に……ドイツという国で読むと、【アルバート・アインスタイン】と読むそうです」
「まさか……」
未来の奴隷王であるアルバート少年は、前世はアインシュタインの弟だったのか。
「それにこんな逸話もまことしやかに囁かれているようで。アインシュタインの死後、その天才的な脳を切り分けてバラバラにし、各国の研究者の手によって天才のメカニズムの研究がなされていたとか」
「実はその分割された脳の正体が……弟である、アルバート少年の前世の脳……?」
十分にありえる。
アルバート少年が前世の記憶を大きく欠いていたのはこれが原因か。
そして、バラバラに細かくなった脳の一部のみを継承して転生した者であれば、この歯ごたえのなさは納得がいく。発揮できる力はごく一部のみとなってしまっているだろう。
これに該当するのが、黒宝に点在する政務官トマスを含めた『見えぬ悪魔』を扱える者たちか。
「だからか……他の転生者の匂いが全て同一なのは、引き継いだ能力、脳が同一人物であるから……」
しかし妙なのは弟アルバートの分割された脳の全てが黒宝勢力に点在していた事。綺麗すぎる決別だ。
兄であるアルベルトは白輝に、片や弟アルバートの分裂者たちは黒宝に。これでは兄弟で争えと、何者かの作為を感じずにはいられない。
その目的は歴史を壊すほどの大戦……?
「まぁ、良い。現存する転生者にさして脅威がないとわかれば、他の録神王たちにも処理を任せてしまおう」
「御意」
「ただし歴史的に重要な人物となる者、未来の黒宝卿にして奴隷王、アルバート少年だけは生かすように」
「もちろんでございます」
粛々と影の中へと下がってゆくニコラ・テスラを見つめ……私はこの事態を裏で操っているであろう、大いなる存在について考える。
別世界からの人間を転生・転移させ、あまつさえ世界を壊せるほどの強大な能力を付与できる存在を放置するわけにはいかない。
そもそもそんな存在がいれば、転生者に苦しめられた家族の、戦友たちの仇でもある。
真の意味で、直接的な原因を作り出している存在。
「……そんなものは、神しかいないのだろうな……」
滅び漏らしたか、ロザリアよ。
うっすらと――
自分の記憶の片隅に残った何かが、そう囁いたように感じた。
▽
【転生者録】アルベルト・アイシュタイン
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