朗読回想録

こががが

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桜の手料理

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 ガスコンロの下の引き出しから、砂糖とみりんを手に取って、キッチンの左端に置いてから「油はまだ残っていたかな」と私は少し焦せる。
「まだ、半分くらいは残っているよ」
 彼女がボトルを上下に軽く振った。
 たぷたぷと液体の表面が揺れる。

「味付けは得意になったかな?」
 彼女が悪戯いたずらっぽく聞いてくるので「まあまあかな」と私は思わず答えてしまう。
 包丁、まな板、何個かのボール。
 それと買ったばかりのキッチンペーパーが定位置に揃えてあるのを見て、彼女は「手慣れたものね」と笑う。

 不意に彼女が小さなお皿を手に取り、肉じゃがの汁を味見する。
「やっぱり、味付けは、まだまだ修行が必要ね」
 彼女は砂糖をひとつまみ。
「うん、これで大丈夫」
 彼女の嬉しそうな顔を、私は直視できない。

 もし、君が今日、現れると知っていたのなら、ちゃんと二人分の肉じゃがを用意したのに。
 祭壇さいだんの上の、彼女の写真に目を伏せる。
「気にしないで」
 彼女の声が遠いところから、聞こえてきたように感じた。

 ありがとう。美味しいよ。

 それでも、やっぱり、もう一度、君の手料理が食べたいな。
 桜の季節の、あの甘くて優しい手料理を。
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