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衝撃の報酬……ボディーガードの初仕事……

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 とてつもなく広い敷地に建った豪邸。その一室に僕らは今まで居たことが判明する。
 自動運転で走る自動車に乗り込み下町へと向かう。……それはいいのだが、気になることがある。

「なあ……佳奈。着替えないのか?」

 佳奈の格好はあまりに豪華で目立ちすぎる。トラブルに巻き込まれるのは明白だ。
 呼び捨てにされたことを気にする様子もなく佳奈は応える。

「なんで? 着替えたら意味ないじゃない?」
「おま、おまえ……まさかと思うけど……」
「ボディーガードの試運転と行きましょうか?」
「やっぱ、わざとなのかよ……」
「あなたが私を暴漢から守ることができることを、確信しておりますわ」
「……ねぇ? やっぱ着替えない?」
「イヤよ。私庶民の娘と同じように、普段着で出かけたいの。だって面倒じゃない」
「それ……普段着じゃないから……」
「わたくしにとっては、普段着です」

 佳奈はきっぱりと言った。その態度には僕のために着替えてくれる配慮をする様子はみじんも感じられない。……あきらめるか……。しかし……。

「僕はボディーガードの仕事をしているわけだろ? 報酬はなにかあるのかよ?」

 僕の知っている佳奈ならともかく、コイツのためにただ働きはごめんだ。

「そうね……。そうだ! 私を守れたら、暴漢に襲われたのと同じ運命にたどらせてもいいわよ? ……それでもともとなんだから」
「はぁ? それどういうことだよ」

 彼女は僕の瞳を鋭い目つきでみつめて言う。

「私を好きにしていい……って言っているのよ。このポンコツ……」

 ……僕が知っている佳奈と全く同じ顔に、そんなに真剣なまなざしで言われて、どう反応しろっていうんだ。……くそ。

「……いい。もういい。ただ働きでいいです……」
「あら? いいんだ? ふーん……使えないヤツめ……」
「タダでおまえをまもってやる」
「ほぉ……ああ怖い。無料ほど怖いものはないってお父様がおっしゃっていたわ」
「……わかったよ。じゃ、おまえを守り切ったら。おまえの大事なものは僕がいただく」
「わかればよろしい!」

 佳奈は満足そうにクスクスと笑うと僕に問いかける。

「大事なモノってなに……? ねぇ」
「知るかよ!」
「教えてよ? たぶん、それ私どうでもいいと想っているよ? 君相手なら……」
「くそが……。からかうな!」
 
 そうこうしているうちに車は駅近くに建つホテルの地下駐車場に入っていく。
 車を降りる。

「じゃ、いきましょう。私の鉄火場に!」
「鉄火場って何だよ?」
「鉄火巻きって知らないの?」
「マグロの巻物のお寿司だよな?」
「そう。賭博場でかつてよく食べられていたと言われているわ。簡単に食べれるから」
「で?」
「つまり、これから賭けをしようって言っているのよ……私の大事なものをいただくのが暴漢なのか? それとも……」

 佳奈は僕の方をじーっと見つめて、あざとく恥ずかしい雰囲気をかもしだして言う。

「晴人くん……が私を暴漢から助けてくれたら……私を好きにしていいんだよ……」
「……誰もおそってこなかったら?」
「わたし自分の運命を信じていますの……」
「……はぁ」
 
 ダウンタウンを歩く。颯爽と風をきってあるく。……いいのかよ? こんな治安悪そうなところを歩く身代金状態で……。
 
 早速だ。目つきの悪い。ついでにガラと頭も悪そうな兄ちゃんが絡んできた。

「おいおい、嬢ちゃんみたいな子はこんな街にきちゃだめだよ……」

 猫ナデ声で佳奈に話しかけるが……佳奈は

「私の勝手でしょ?」

 とそっけなく言う。

「忠告してやってんだよぉ。こんな弱そうな男連れてくるとこじゃないぜ」
「あら? あなたの方が私の彼氏より弱そうだけど」
「くっくっく。それはどうかなぁ。なぁ、じゃあ、試しにコイツ殴っていい?」

 というと男は、僕に問答無用で拳を突き出す。
 簡単に避ける。人間の拳など、今の僕にはどうということのないモノだ。

「お、やるじゃねぇか……。ちっ……いいぜ。認めるわ……」

 男は僕に顔を向けたまま後ずさりすると、背を向けた。そして、走り去った。

「なんか、逃げられた……」
「晴人が強すぎんのよ」
「……こんなんで、おまえの大事なモノもらっていいわけ?」
「いいわよ? ハイ。これ」

 そう言うと佳奈はネックレスを外して僕にくれた。

「記念品にしてもいいけど。売ればそこそこ値は張るとおもうわ」
「あ、ああ……。まあ、僕は金持ってないから……ありがたいけど」
「でしょ? 良かったね。それとも私にハグされるほうが良い? その場合、それはあげないけど……」
「……無銭飲食するわけにもいかないからな……。いいよ。これで手を打つ」
「両方……欲しいでしょ?」
「とりあえず。金かな……」

 ちょっと期待はずれだが、やはりからかわれていたって事なんだよな。

「そんな顔しないの……」

 そういうと佳奈は僕の方をまっすぐ向いて見つめると、あろうことか……瞳を閉じた。
 わざとらしく軽く口をとんがらす。

「おい……」
「おいじゃねぇよ? 早くしろや……」

 目を閉じたまま佳奈が言う。
 沈黙がおとずれた。長い沈黙のように思えたが、おそらくは十秒ほどだったかもしれない。佳奈は目をうっすらと開けると。

「……やっぱ無理ぃ? ねぇ?」
「なんだよ?」
「……わたしのお父様が怖くてキスできないんでしょ?」
「ちがう……」
「私って不幸だよね……」
「そうか?」
「うそうそ。すっごい幸せだと思っているよ。贅沢な悩みだよね」
「なにが?」
「……幸せかどうか。わたしが幸運の星のもとに生まれたかどうかは、私の解釈次第だよね……」
「すくなくとも僕は、今の佳奈は幸運だと思う」
「君は?」
「僕は……昔の佳奈を守るためなら不幸でも良かった……」
「昔の佳奈ねぇ? 君の素敵な人……のことだね?」
「そう。おまえとは別人だから」
「今の晴人はちょと冷たいね。あーあ。早く私を想い出してほしいなぁ……」
「なんだそれ? いや、仕事だから……冷たいもなにもないだろう……」

 全くからかうのもいい加減にして欲しいぜ。

「ま、いいよ。今はそれで」

 僕たちはそのあと車に乗り込むと、ずっと無言のまま屋敷に帰った。
 不思議な気持ちだった。佳奈は、あの佳奈じゃないのに、なぜか僕にはそう思えないことが。結局、僕は人ではなく、ボディーガードとしてトレーニングされたAIってことなのかな。僕に純粋な意思なんてないのかもしれない。それでも、佳奈への想いは僕にとって、とても大事なものとしか思えない。

「僕……現実を知りたくなかったな……」

 僕はそう一人ごとを言うと、あてがわれた豪華な個室で眠りについた。何でも明日早朝にも佳奈は思い出を探す旅に出たいのだと……。早く寝ないと……。
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