369 / 498
尋常一様
ロイヤルフラッシュと貢ぎ癖・前
しおりを挟む
尋常一様2
花街を抜けて裏通り、陰気臭い路地を歩く。ゴロゴロ転がる薬物中毒者を踏まないように避けながら更に奥へ。
大興楼は崩れかけたボロいビル。建築法など完全無視の九龍城、中流階級以下の区画では建物が大抵うっすら傾いている──前に大地が【東風】の床で‘ビー玉迷路’やってました──が、それにしても大興楼は一際酷い。今にもペシャンコになりそうな外観に、ドアやら窓やらがかろうじてくっついている。
裏カジノの入り口は一見それとはわからないような何の変哲もない扉。カモフラージュ、なんつうオシャレなもんじゃなくて、カネをかけてないだけ。押して開けると錆びた蝶番が断末魔みたいにヘンテコな悲鳴をあげた。
店内は割と普通。大小がひとつ、ルーレットがひとつ、カードゲームの卓がいくつか、スロット台がいくつか。客はボチボチいて案外賑わっていた。閉店が近いせい?なんにせよ混んでいるのは良い傾向、こちとら目立ちたくない。キャップの鍔を深めに下げてポケットの札束を取り出す東、匠はニット帽の下からそれを見た。
「いくら持ってきてんの」
「1万香港ドルくらい。10倍にしちゃおうかしら」
「テンション高ぇな」
小声で交わしながらルーレットの卓に着くと店員に飲み物を訊かれ、燈瑩は瓶ビールを3本オーダー。グラスは要らない、開栓もこっちでやるからそのまま持ってきちゃってと、重ために降ろした前髪の隙間から営業用スマイル。店員の手間を慮った発言ではない。繁華街の比較的しっかりした店舗ならばまだしも、こういった場所の飲み屋で提供されるカクテル及び開封済みの酒は、残り物のチャンポンに次ぐチャンポンで安全性が低い為である。なんなら酒以外のものも混ざってるかも。瓶ビールの値段は完全にボッタクリだったが、別にいい。こっちもこれからボるつもりなので。
ついでに燈瑩は現金とチップを交換、1万香港ドル。スタッフが紙幣を数える隣で、東も‘俺も同じだけヨロシク♪’と、持っていた偽札をカウントして見せた。数字を口にしながらゆっくりめに1枚ずつテーブルへ置き、終わると揃えてスタッフへ渡す。受け取った店員は確認し直すことはしなかった。丁寧に数えているのを目視したばかりだ、枚数を誤魔化した素振りはない。金はそのままスルリとバックヤードへ引っ込む。誤魔化したかったのは額ではなかったが…涼しい顔の東。表情が無駄に凛々しい。燈瑩はダボついたウインドブレーカー──東のやつを借りました、チャックが口際まであがるので──の袖で目元を押さえて笑いを隠した。
戻ってきたチップを3人で分け、暫く適当にゲームに興じる。赤だの黒だの賭けて、スロットを回して、ユルッとのんびり。それからポーカーに移動。ディーラーをまじえてのファイブカードドロー、ルールは少し変則。
ビールを何本か追加し卓の端に置く。1本を手に取り開ける匠が首を傾げた。
「てか眼鏡、あんま飲まないね」
「炭酸はお腹タプタプになるもん」
「理由それ?」
続いた‘シャンパンはすげぇ抜くじゃん’とのツッコミに困りつつ、東はさり気なくトランプを観察する。ノーマルとマークドデックのミックス。ディーラーは、こんな場末なのに意外と上手い。だったらマークドデック使わなくてもいいのに。楽だからかな…気付く客層でもねぇだろうし…酒を啜りながら手付きを注視。あっボトムディール!ポケットペア作ったな?
「でもお前、酒自体は強いんだろ」
「えぇ?誰が言ってたのぉ?」
「バケネコ閻魔なのですよ」
「ふふっ」
匠の口調に燈瑩が吹き出す。
「えっと…眼鏡は、バケネコ閻魔とトントンだよね。お酒の強さ。もしかしたら上回るんじゃない」
「どーだろ?飲み比べしたことないけどぉ。ってか、2人とも悪口言ってたのあとで閻魔にゆってやろ」
「可愛いじゃんバケネコ閻魔って名前」
どうでもいい会話を重ねつつ、のらりくらり遊ぶ。スタイルとしては匠はパッシブ、東はアグレッシブ、燈瑩はスロープレイが多め。自然な感じにバラけている。
それなりに時間が経ち、数十ゲームをこなして、東のチップは3万ドル。燈瑩は殆ど変わらず1万ドル弱、匠もさして増減は無し。客の雰囲気も概ねわかり、頃合いかと東が思った矢先───唐突に良い手が配られた。
いきなりフラッシュ。あと2枚でロイヤル。
他のメンツの動向を窺う。誰もドローしそうになかった。これは…勝負に出たな…どうしようか?いいタイミングではある。裏面のマークはついてたりついてなかったり、でもまぁ、予想は立つ。んー。大胆なことしちゃおうかしら。
東はチェンジするか迷う仕草をして、やめた。大きめにベット。手札を纏め、背もたれに腕をかけ、思案。合間に2人へ話を振る。
「そういえばフライヤーに使ってた絵あるじゃん。ウェイマンと仲間達だっけ。だよね」
「ウェイ、と…そうそう。評判良かったからまた使おっかな。今も…飾ってるし」
匠が自分のハンドから視線を離さず返事をし、聞いていた燈瑩が頬杖をついた。東は掌でカードの束をクルクル回転させる。
トランプを伏せた匠はビールを飲み干して、卓の隅っこに乗せてあった新しい瓶をひとつ取った。軽く振った。ライターの底で栓を抜いた。溢れた。
「うわ」
「あら、ダーリン酔ってらっしゃる?」
「かも」
泡がかかったトレーナーをはたく姿へ‘炭酸ですよ’と東が軽口。いい加減に返事をする匠を眺めつつ、燈瑩は卓をコンコン叩いてチップを積んだ。ほぼ全額。ディーラーとスタッフの視線が集まる。匠はビールが飛び出した拍子に床へ落としたライターをテーブルの下に潜って拾い、また椅子に座り直して場を眺め‘お前ずいぶん賭けたね’と言った。東はニンマリすると、目の前に聳える自分のチップを全て中央へ押し出す。
「俺もやっちゃお♪」
オールイン。
プレイヤーの強気なベットにも攻めの姿勢を崩さないディーラー、向こうもハンドにかなり自信があるとみえる…間を置かずショーダウン。ストレートフラッシュ。やはり、ほぼ勝ちが確定しているような手札。
次いでオープンした匠の役───デュース。そこでディーラーが些か変な表情をした。東は腰を浮かせるとテーブル中央に腕を伸ばし、自分のカードを裏のままフィールドへ扇形に広げ、端を人差し指で持ち上げてひっくり返す。パタパタと反転フラップさながら捲れるトランプ。ハンドは─────
ロイヤルフラッシュ。
花街を抜けて裏通り、陰気臭い路地を歩く。ゴロゴロ転がる薬物中毒者を踏まないように避けながら更に奥へ。
大興楼は崩れかけたボロいビル。建築法など完全無視の九龍城、中流階級以下の区画では建物が大抵うっすら傾いている──前に大地が【東風】の床で‘ビー玉迷路’やってました──が、それにしても大興楼は一際酷い。今にもペシャンコになりそうな外観に、ドアやら窓やらがかろうじてくっついている。
裏カジノの入り口は一見それとはわからないような何の変哲もない扉。カモフラージュ、なんつうオシャレなもんじゃなくて、カネをかけてないだけ。押して開けると錆びた蝶番が断末魔みたいにヘンテコな悲鳴をあげた。
店内は割と普通。大小がひとつ、ルーレットがひとつ、カードゲームの卓がいくつか、スロット台がいくつか。客はボチボチいて案外賑わっていた。閉店が近いせい?なんにせよ混んでいるのは良い傾向、こちとら目立ちたくない。キャップの鍔を深めに下げてポケットの札束を取り出す東、匠はニット帽の下からそれを見た。
「いくら持ってきてんの」
「1万香港ドルくらい。10倍にしちゃおうかしら」
「テンション高ぇな」
小声で交わしながらルーレットの卓に着くと店員に飲み物を訊かれ、燈瑩は瓶ビールを3本オーダー。グラスは要らない、開栓もこっちでやるからそのまま持ってきちゃってと、重ために降ろした前髪の隙間から営業用スマイル。店員の手間を慮った発言ではない。繁華街の比較的しっかりした店舗ならばまだしも、こういった場所の飲み屋で提供されるカクテル及び開封済みの酒は、残り物のチャンポンに次ぐチャンポンで安全性が低い為である。なんなら酒以外のものも混ざってるかも。瓶ビールの値段は完全にボッタクリだったが、別にいい。こっちもこれからボるつもりなので。
ついでに燈瑩は現金とチップを交換、1万香港ドル。スタッフが紙幣を数える隣で、東も‘俺も同じだけヨロシク♪’と、持っていた偽札をカウントして見せた。数字を口にしながらゆっくりめに1枚ずつテーブルへ置き、終わると揃えてスタッフへ渡す。受け取った店員は確認し直すことはしなかった。丁寧に数えているのを目視したばかりだ、枚数を誤魔化した素振りはない。金はそのままスルリとバックヤードへ引っ込む。誤魔化したかったのは額ではなかったが…涼しい顔の東。表情が無駄に凛々しい。燈瑩はダボついたウインドブレーカー──東のやつを借りました、チャックが口際まであがるので──の袖で目元を押さえて笑いを隠した。
戻ってきたチップを3人で分け、暫く適当にゲームに興じる。赤だの黒だの賭けて、スロットを回して、ユルッとのんびり。それからポーカーに移動。ディーラーをまじえてのファイブカードドロー、ルールは少し変則。
ビールを何本か追加し卓の端に置く。1本を手に取り開ける匠が首を傾げた。
「てか眼鏡、あんま飲まないね」
「炭酸はお腹タプタプになるもん」
「理由それ?」
続いた‘シャンパンはすげぇ抜くじゃん’とのツッコミに困りつつ、東はさり気なくトランプを観察する。ノーマルとマークドデックのミックス。ディーラーは、こんな場末なのに意外と上手い。だったらマークドデック使わなくてもいいのに。楽だからかな…気付く客層でもねぇだろうし…酒を啜りながら手付きを注視。あっボトムディール!ポケットペア作ったな?
「でもお前、酒自体は強いんだろ」
「えぇ?誰が言ってたのぉ?」
「バケネコ閻魔なのですよ」
「ふふっ」
匠の口調に燈瑩が吹き出す。
「えっと…眼鏡は、バケネコ閻魔とトントンだよね。お酒の強さ。もしかしたら上回るんじゃない」
「どーだろ?飲み比べしたことないけどぉ。ってか、2人とも悪口言ってたのあとで閻魔にゆってやろ」
「可愛いじゃんバケネコ閻魔って名前」
どうでもいい会話を重ねつつ、のらりくらり遊ぶ。スタイルとしては匠はパッシブ、東はアグレッシブ、燈瑩はスロープレイが多め。自然な感じにバラけている。
それなりに時間が経ち、数十ゲームをこなして、東のチップは3万ドル。燈瑩は殆ど変わらず1万ドル弱、匠もさして増減は無し。客の雰囲気も概ねわかり、頃合いかと東が思った矢先───唐突に良い手が配られた。
いきなりフラッシュ。あと2枚でロイヤル。
他のメンツの動向を窺う。誰もドローしそうになかった。これは…勝負に出たな…どうしようか?いいタイミングではある。裏面のマークはついてたりついてなかったり、でもまぁ、予想は立つ。んー。大胆なことしちゃおうかしら。
東はチェンジするか迷う仕草をして、やめた。大きめにベット。手札を纏め、背もたれに腕をかけ、思案。合間に2人へ話を振る。
「そういえばフライヤーに使ってた絵あるじゃん。ウェイマンと仲間達だっけ。だよね」
「ウェイ、と…そうそう。評判良かったからまた使おっかな。今も…飾ってるし」
匠が自分のハンドから視線を離さず返事をし、聞いていた燈瑩が頬杖をついた。東は掌でカードの束をクルクル回転させる。
トランプを伏せた匠はビールを飲み干して、卓の隅っこに乗せてあった新しい瓶をひとつ取った。軽く振った。ライターの底で栓を抜いた。溢れた。
「うわ」
「あら、ダーリン酔ってらっしゃる?」
「かも」
泡がかかったトレーナーをはたく姿へ‘炭酸ですよ’と東が軽口。いい加減に返事をする匠を眺めつつ、燈瑩は卓をコンコン叩いてチップを積んだ。ほぼ全額。ディーラーとスタッフの視線が集まる。匠はビールが飛び出した拍子に床へ落としたライターをテーブルの下に潜って拾い、また椅子に座り直して場を眺め‘お前ずいぶん賭けたね’と言った。東はニンマリすると、目の前に聳える自分のチップを全て中央へ押し出す。
「俺もやっちゃお♪」
オールイン。
プレイヤーの強気なベットにも攻めの姿勢を崩さないディーラー、向こうもハンドにかなり自信があるとみえる…間を置かずショーダウン。ストレートフラッシュ。やはり、ほぼ勝ちが確定しているような手札。
次いでオープンした匠の役───デュース。そこでディーラーが些か変な表情をした。東は腰を浮かせるとテーブル中央に腕を伸ばし、自分のカードを裏のままフィールドへ扇形に広げ、端を人差し指で持ち上げてひっくり返す。パタパタと反転フラップさながら捲れるトランプ。ハンドは─────
ロイヤルフラッシュ。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―
くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。
「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」
「それは……しょうがありません」
だって私は――
「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」
相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。
「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」
この身で願ってもかまわないの?
呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる
2025.12.6
盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる