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第49話 心が痛いのは自分のせいです
中間試験の最終日の最終科目。
試験開始から約10分で試験問題を解いてしまった。
『マスター、ズルはダメだって言いましたよね?』
(仕方ないだろ。勝手に言語翻訳が働いたんだから)
そう、試験科目は英語。
長文問題もスラスラと翻訳されてしまったし、逆に日本語を英語で書く問題も翻訳されて楽々解いてしまったのだ。
(便利過ぎて自分の実力がわからない)
『贅沢な悩みですね。それより少し良いですか?』
エイシスとの脳内会話にもすっかり慣れた。
(どうしたんだ?)
『まだ余裕があると計算していましたが、どうやら時期が早まりそうです。マスター、眼を閉じて下さい」
何かイヤな予感がする……
『賢者の石の能力を一部解放しました。術式起動、魔力充填、オールクリア。世界線P307846M 座標N298 S618、時刻2021、5、28。10:4327秒、座標固定、時刻固定。実行します』
(待て!エイシス、これって……)
目の前には、ポカンと口を開いているエルフ達が俺を見つめていた。
◇
「ケン、何で髪が黒くなったの?それに服も変わってる。早着替えの手品かなんか?」
「え!?」
目の前にいたエルフのララからそう言われたが、意味がわからない。
「俺、何でここに?それにこの光景はこの前みたばかりだ」
エイシスによって異世界に転移させられたのは理解している。
でも、何でこの場所なんだ?
『マスター、異世界を渡るのに時間と位置の固定は必須です。それをしないで転移した場合、次元の波に呑み込まれて転移先が1000年後とか1000年前とかになる可能性があります。ちゃんと勉強して下さいネ』
(そうなんだ、わかっ……、おい!エイシス。可愛く言ってもダメだからな。何でいつも突然転移するんだよ!)
『マスター、異世界に転移しますよ、と事前に言っていたらここにきましたか?』
(絶対来ない。試験中だったし、来るとしても高校卒業した後だろうな)
『そういうことです』
(それ、答えになってないだろう!)
『理由は今は話せません。それより良いのですか?転移した時間を固定したということは「俺帰りましゅ」と言った直ぐ後のことなのですが……ぷぷ』
(あーーっ、そうだったあ!あの噛んだ後だったのかーーっ!)
悶えているとルルが近寄ってきて「どっか痛いの?」と、心配そうな顔で俺を見上げている。
「違いんだ。どこも痛くはない、イヤ心がね、少し」
《ここってあの女がいる場所よね。あんた、さっさとどっかに行くわよ》
ペロが出て来て首に巻きついた。
そうだった。
ここにはペロのストーカーのウンディーネもいる。
「じゃあ、さらばゃ」
エルフ達が見守る中、そう言って影移動を発動して、当初、大森林に来た時に拠点にしようと考えていた河原の側に逃げるように移動したのだった。
『ぷぷ……「じゃあ、さらばゃ」』
「やめてくれーー!」
ここに新たな黒歴史を刻んだのであった。
◆
魔力過多症を患っているユリア・ストレートが王都を出れたのは偶然が重なったからだ。
大森林から昇る光の柱を見て、王都住民の一部の人達が魔王が復活したんだと騒ぎ、王都をいち早く出ようと門に押しかけていた。
騒ぎの中、衛兵達は許可無しに門を開けれないと突っぱね、その押し問答は夜中まで続いた。
そして、暴動が起きそうになり慌てた衛兵達は、王城に使いを走らせた。
そして、出て行くものに関しては何もしないが、王都に入ろうとする者には正規の手続きが必要だと許可がおりた。
夜中に出て行く危険を犯してまで、王都から出ようとする者達は、放っておけば良いという判断である。
地方から来た商人や出稼ぎの労働者達の中に紛れてユリアは誰にも引き留められることなく、王都を出れたのであった。
彼女が向かうのはみんなとは逆方向の大森林。
彼女は、夜の闇に紛れてその集団から離れて行った。
しかし、彼女は長い間病に侵されていたので大森林に入ることなく体力の限界がきた。
目の前に広がる暗い影に身を包んだ森を眺めながら、その場に倒れ込んでしまった。
「あの森に行けばお母様に会えるのに……」
彼女の意識が朦朧とする中、森から出てきた緑色の肌をさらけだした者達がユリアに迫っていた。
「ゴ、ゴブリン……」
見るのは初めてだが、その恐ろしさはお母様から聞いている。
男達は容赦なく殺し、若い女は慰れものになると。
辛うじて意識を保っていたユリアは、這ってその場から逃げようと考えた。
だが、身体が動かない。
迫り来るゴブリン達。
「ギィーギィーー」と唸り声がそばで聞こえてきた。
「あー私はお母様と同じように魔物に襲われて死ぬんだわ。せめて、お母様が亡くなられた森の中で死にたかった……」
元々ユリアは、死んだ母親に会えないことはわかっていたのだが、大森林に行けば会えると思わないとあの屋敷から出て行くこが出来なかった。
ゴブリンの魔の手がユリアに襲いかかるその時、空から白い髪を靡かせ天使のような羽根の生えた少年が舞い降りた。
「……天使さまが迎えに来てくれた」
そして、ユリアは意識を失ったのだった。
◆
少し時は遡る。
諸点にについた俺は落ち込んでいた。
膝を抱えて、まるでその場所にあった石のごとく動かずにいた。
『マスター、いつまで落ち込んでるのですか?ここはミストラル、魔法打ち放題ですよ』
「そうは言っても2度も失態を曝け出してしまったんだ。もうエルフの里には行かない」
《わたしもその方がいいわ。あそこは危険地帯よ》
ペロも賛同したので、俺たちの勝ちだ。
何の勝ち負けかわからないが……
『まあ、良いですけど亜空間では狭くて試せなかったマスターイチオシの飛行魔法でも試してみればどうですか?』
「飛行魔法ねえ、影に潜るより気分が晴れるかな?よしっ!やるか」
《ねえ、お空飛ぶの?私落ちたら怖いから引きこもってるね。夕飯ができたら呼んでね》
現金なペロは、そう言って亜空間に引きこもってしまった。
「では、気分を変えてやっみるか」
飛行魔法と言えば、風魔法で空を飛ぶのが一般的だ。
俺が呼んだラノベにそう書いてあったし。
だがあえて俺は念力をつかう。
自分自身を念力で浮かせる作戦だ。
「よし、【念力】」
「あれ?全然動かないぞ。念力発動してるよな?」
『マスター、あえて言いますが念力は神力を使います。マスターの神力はすっからかんなので今は使えませんよ』
「えっ、そうなの?ペロから得た力だから?じゃあ何で変化は使えるのさ」
『それは、今までペロの神力を借りてたからです。ペロの神力はマスターの100倍ありますので』
「は!?ペロってそんなに神力持ってるの?それって神じゃん」
『確かに最下神に届きそうな神力ですがまだまだ上級神の足下にもおよびませんよ。それに、ペロの神力も無限ではありません。マスターが使うだけペロの神力が減っていきます。
信仰が落ち目になったペロの神力を回復する手段は今のところ皆無です。
それでもペロの神力を借りますか?』
「それ聞いて借りたら鬼畜だわ。でも、髪の毛の時、なぜそのことを言ってくれなかったんだ?」
『それはマスターがあまりにも嬉しそうだったので、それにカツラを被っていれば20代後半でハゲると試算しましたので』
「うわーっ!なんて恐ろしい試算したんだよ!」
それを聞いて風魔法を使って何度も空を飛ぶ練習をしたのだが、上手くいかない。
なので休憩して夕食の準備に取り掛かった。
《おいしわね。これ何の肉?》
「確か、ロックタートルだよ。つまりデカい亀だな」
《あーあいつの肉なのね。食べたことないわ。こんなに美味しいのなら引っ込んだ顔を引っ張り出して食べれば良かった》
ペロの体格じゃ逆に噛まれてたんじゃないのか?
《ご飯食べた後も空飛ぶ練習するの?》
「ああ、しようと思ってる。暗いけど、その方が目立たないしね」
《落ちて怪我しても知らないわよ》
「ペロ君、俺は気づいてしまったのだよ。飛行機は何故飛ぶ。鳥も何故飛ぶ。そう、翼があるからだ。だから、ペロ様少しだけ神力貸して下さい。翼を生やしたいので」
『まるで、妻にお小遣いをねだる旦那のようですね。ペロ、マスターの言うことは聞かなくてもいいですよ』
エイシスが余計な口を挟んできた。
蛇のヒモになっても一度空を飛んでみたいんだよ。
《別に良いわよ。また美味しいご飯くれるなら》
「ペロ様、神様、お蛇様、ありがたやー」
『おや、今のでペロの神力が1だけ回復しました。やりましたね。でもマスターは相変わらず0のままですね』
一言多いんだよ!
「さて、ご飯も食べたしペロ様のお力で翼のある姿に【変化】」
すると、背中から真っ白な翼が生えた。
『マスター、今のでペロの神力が3減りました。マイナス2の借金ですね』
「借金違うわ!それに後でまとめて返すし」
『それ、絶対返さない人の言い訳ですよね?』
《私寝るから戻ってるわ》
お腹いっぱいになったペロは亜空間に戻って行った。
「さて、さっきまでは少しだけ風魔法で浮かせて慣れてから高く跳ぼうと思っていたのが間違いだった。今回は全力の風魔法で空高く飛んでからグライダーのように風に乗れば飛べるはず」
翼もあるしね。
「さて、いくぞ。10.9.8………0、発射!!」
この時、俺は鳥になったのだった。
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