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第70話 達人と狂人は紙一重
しおりを挟む「ああ、こんなにも空は青かったんだなぁ……」
『マスター、ここは亜空間です。空は今のところ創りものですよ』
(え!?今のところってことは、本物の空を創れるの?)
『マスターの頑張り次第ですね』
神力が増えた俺は亜空間の中を充実させるべく、境を広げ休憩所として寝泊まりができる広さのログハウスを創造した。
勿論、ログハウスの中は地球仕様だ。
だから、少なくない神力を使ってしまった。
そして、ここを訪れた剣聖爺さんは、時間を固定できることを知ると、目を見開き、みんなの訓練をこの場所ですることになった。
そして、始まってしまったのだ。
訓練というしごきが……
(俺、剣術はさわりだけでよかったのにー)
『あの爺さんは剣術の達人です。中途半端な剣術を教えるわけないじゃないですか』
そう、俺の考えが甘かったのだ。
既に俺を含めたみんなが剣術のスキルが生えている。
ここまでくるのに10年ほどかかったけど!
もう一度言っておく、10年間この亜空間で特訓していたのだ。
「まだまだ、寝るのは早いぞ」
倒れているのは俺だけではない。
爺さんを除いたみんなが疲れ切って倒れたのだ。
「せめて、あと100年……それでは身につかんか…‥300年は訓練するぞ」
(ヒーーっ!あの爺さん、頭おかしいと思う)
今、どうやってこの場から逃げるか考えている。
『マスター小娘たちが、挫けないで頑張っているのに、マスターそれでいいのですか?』
(そうだ!児童虐待で通報するか。そうすれば、児童相談所とか警察とか衛兵が来て助けてくれるかも……)
『マスター疲れすぎて、思考が日本とこっちがごちゃ混ぜになってますよ。ほら、来ましたよ、剣の狂人……達人が』
「若、そろそろ再開しますぞ。休んでる暇はありません」
(ヒーーっ、勘弁してーーっ!)
亜空間では、剣術だけではなく、魔法の練習もしている。
既に、少女三人は上級魔法を使いこなせるようになっている。
俺たちが魔法の訓練をしている間、ダークエルフの爺さんは、自分の剣術を磨いている。
だが、空間は固定できてもお腹は減る感覚はあるし、流した汗の分の水分補給も必要だ。
「なあ、爺さんよー、食材が少ないんだ。出来れば狩に行きたいんだだが?」
カナドが半身を起こして、そう話す。
そうなのだ。食事が必要となるってことは食材を調達しなければならない。
持ち込んだ食材は、とうの昔になくなっている。
「では、これから皆で食材を調達しに行くぞい」
"ぞい"じゃねーよ!!
このジジイは無謀にも大森林の奥に平気で入って行く。
もちろん、移動するのは俺の役目だったが、ヒカリが闇魔法を覚えて、影収納や影渡が使えるようになったので、今はヒカリが担当している。
そうなのだ。
みんなが、上級魔法を使えると言っても得意、不得意がある。
ちなみにみんなの得意な魔法は、
ユリア……雷魔法
ユメカ……風魔法
ヒカリ……闇魔法
エイシスの指示通り、みんなに魔法を教えたら、詠唱は技名だけで発動するし、初級魔法に至っては無詠唱で発動できる。
きっと、この子たちは天才なんだろう。
エイシスに魔法を組み込んで発動できた俺とは、まるで違う。
「若、ほら、行きますぞい」
(だから、ぞいじゃねーよ!)
大森林には、カナドのギフトである虫たちがあちこち待機している。
そう、カナドもギフトが成長してたくさんの虫を使役できるようになっていた。
蜘蛛とカナブンの2匹で四苦八苦してた頃が懐かしい。
「あ、いたぜ。美味そうなやつが」
カナドは、そう言うとヒカリのそばに近寄って場所を教えている。
そして、ヒカリの影にみんなが潜って獲物のそばに移動するのが、今では普通になっている。
影に潜って着いた場所は、崖が聳え立つ場所で、空にはたくさんのグリフォンが飛んでいた。
「グリフォンですか……歯応えがありませんね」
「アレの唐揚げ美味いんだよなー」
「空飛ぶ卑怯者は、みな殺し」
そして、蹂躙が始まった。
【サンダー・レイン】
【ウインド・バースト】
ユリアとユメカの魔法で地上に叩きつけられたグリフォンをとどめをかさしていくいく。
二人の魔法攻撃で、ことキレてるグリフォンもいるが、カナドとヒカリは、目についたグリフォンの首を落とし回っていた。
それを見ていた俺は……
(俺、来なくてもよかったよね?)
『みんなのレベルが爆上がりしてますので、マスターがいなくても問題ありません。ですが、現場で指示だけ出して、自分は働かない上司をどう思いますか?』
(……わかったよ。俺も参戦してくる)
俺も剣を抜き、近場にいたグリフォンの首を落とした。
首が落ちたグリフォンは、恨めしそうに俺を見 睨んで息を引き取った。
(死んでいく者の目を見ない方が良いって聞くけど、これ精神値が低ければ、毎晩夢でうなされるわ、絶対に)
(そう思うと、この世界の人たちは逞しいよな。同じ精神値でも、きっと桁が違うんだ、絶対に)
『マスター、"絶対"ってことば好きなんですか?聞いててうんざりするんですけど、絶対に』
「よし、それでは収納して撤退じゃ」
爺さんがそう話しかけた。
(いたぞ!何もしない上司が……)
そうして、行きと同じように影に潜って帰還する。
それは、僅か15分程度の作業だった。
◆
「そんなわけで、日本に帰ろうと思う」
誰もいない狭い個室で呟いた。
ここは、亜空間にあるログハウスの超プライベートな個室だ。
『マスター、はっきりトイレと言ったらどうなんですか』
「そうだけど、食事中の人もいるだろうし」
『誰のことですか?確かにみんなは、グリフォンの唐揚げを食べてますけど」
夕食の最中、ある考えが浮かんでこの個室に来ていた。
その考えとは、日本に帰ってテストを受けることだ。学生は勉強しなければならない。
『マスターの考えは底が浅すぎて、本音が丸わかりなんですよ。修行がつらくて日本に逃げたいんでしょ?』
(エイシスさんや、それを言っちゃあ、おしまいよ。ただ、癒しがほしいだけなんだ。縁側で猫のトラさんを撫でていたいだけなんだ)
『時間を固定しますから、こちらに来た時は、また修行の最中ですよ。それでも、よいなら今のマスターなら構いませんが』
(それでいい!とにかく、休みがほしい。あの頭のおかしな爺さん、夕食時になんて言ってたと思う?
『1,000年くらいここで修行すれば、わしの技術の三分の一くらいは習得できるであろう、わははは』って笑って言ってたんだぞ。
1,000年もこんなことしてられるか!
普通に、頭おかしくなるわ!!)
『私としては、マスターが強くなるのでその方がいいのですが……そうですね。ゲートを教会に固定しておけば、日本に帰っても構いませんよ』
時間を固定するためにゲートは閉じている。だが、ゲートを教会に設置しておけば、俺がいなくなってもみんなは自由に出入りできるが時間は固定されない。
そう判断した俺は、すぐに影に潜ってログハウスを出た。そして、ゲートを開いて教会にもどり、それを固定した。
ストレージから制服を取り出し、着替えをする。
そして、変化を使って髪を黒くさせた。
『マスター、トイレに行かないと辻褄が合いませんよ』
そして、再びゲートを潜って影に潜りログハウスのトイレに戻る。
(これで、大丈夫だよな)
『ええ、こちらに来た時と同じ姿ですね』
(なら、エイシスさん、頼む)
『わかりました。既に準備はできてます。今のマスターならワイバーンくらい楽勝でしょうし……ご武運を』
(まて!なんでワイバーンが出てくるんだ!)
エイシスの返答はなかったが、俺は日本に戻ったのだった。
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