現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

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第90話 資金調達は犯罪?

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あれから、みんなのもとに戻り、買ってきたパンを渡す。
それから、ストレージにしまってあったお寿司を取り出し、みんなで食べた。

「そういえば、お祭りっていつなの?」

「すぐだよ。だいたい一ヶ月先かな」

ララが嬉しそうに話す。

……“すぐ”とは言わない気もするが、長寿種のエルフにとっては、それくらいが“すぐ”なのだろう。

ララとルルは、うちの子たちとすっかり打ち解け、楽しそうに会話している。
師匠と爺さんは、師匠が持ってきた酒を酌み交わしながら、昔話に花を咲かせていた。

一方、カナドはお寿司をつまみながら、何やら考え込んでいる。

「主人、この寿司ってやつ、白い粒は“米”って言うんだよな? なんか、酸っぱい味がしないか?」

どうやら味の解析をしていたらしい。

「お酢っていう調味料が混ぜてあるんだ。あと砂糖も少しね」

「なるほど……主人の世界の食べ物は奥が深そうだ。今度、食べ歩きに連れてってくれないか? いろいろ仕入れたいし」

「構わないよ。でも、資金を調達しないと、ろくに買えないから、少し待っててくれ」

……どうにかして、円を稼がないとな。

(よし、ポーションを売ろう!)

『マスター、初めから私はそう言ってましたよね? いまさらですか?』

(今なら変化を使って、バレずに売れる。それに、お金はたくさん持っている人から頂こう)

『別に構いませんが、誰に売るつもりですか?』

(お金はあるけど、病気で苦しんでいる人だよ。頼むぞ、エイシス)

俺はエイシスの調査能力に丸投げした。

『まあ、仕方ありませんね。ちょうど都合の良い人物がいます。今から行きますか?』

(ああ、善は急げだ)

亜空間から日本の自宅に戻る。

どこにでもいそうな中年男性に変化し、エイシスが言った“都合の良い相手”のもとへ向かった。



ここは、日本でも屈指の富豪が住む邸宅。
重厚な門をくぐった先に広がる庭園は、まるで小さな公園のようだった。

この家の主――不動 産一(ふどう さんいち)は、戦後の混乱期に不動産を買い占めて成り上がった男の息子であり、現在はその二代目だ。
年齢は六十三歳。まだまだ現役で働ける年齢ではあるが、数年前に糖尿病を発症し、今では合併症や感染症を併発して自宅療養を余儀なくされている。

そんな彼の寝室。
消毒薬と薬品の匂いが混じるその空間に、影がゆらりと揺れた。

「……誰だ! 貴様は!」

寝台の上から不動が怒声を上げる。

「お前を治しにきた者だ」

低く響く声を出して、如何にも怪しい雰囲気を出す努力をする。
一応、医者に見えるように、白衣を着用している。

「何をふざけたことを言ってる! 誰かいないか!? 誰かーっ!」

不動の怒声が屋敷に響く。
だが、返事はない。屋敷全体が、まるで時間を止めたかのように静まり返っていた。

「みんなには都合が悪いので、少し“寝てもらっている”」

男は淡々と告げた。
声に焦りも怒りもない。ただ事実を述べるように。

「さて――時間が惜しい。ここからは交渉の時間だ」

ゆっくりと白衣のポケットから、小瓶を取り出す。
淡い光を放つ液体が、月明かりを受けてきらりと輝いた。

「ここに、どんな病や怪我でも治せる薬がある。
貴方は、これをいくらで買う?」

「……そんな薬、あるわけないだろう」

不動は嗄れた声で笑い、首を横に振った。

「こっちだって、散々手を尽くしたんだ。ダンジョン産の万能薬も探した。だが、結果は――このざまだ」

寝台の上の身体は、骨ばり、痩せ細っていた。
目に宿る光も、もはや消えかけている。
それでも、どこかに誇りのようなものが残っていた。

この邸宅を離れずにいるのは、きっと、ここを“死に場所”と決めたからだ。

「ふふ……疑うのは当然だ。だが――もし本物だったら、どうする?」

「本物なら……有るだけの金を出そうじゃないか」

「決まりだな」

俺は微笑みながら、迷うことなく薬瓶の栓を抜いた。
次の瞬間、有無を言わせず、不動の口にその薬を流し込む。

「うぐっ……! な、何を――っ!」

咳き込み、喉を押さえる不動。
しかし、数秒も経たないうちに、その顔から苦痛の色が消えていった。
瓶を握る手が震えながらも、ゆっくりとそれを口から離す。

「……なんだ、これは……」

目を見開き、震える声で呟く。

「痛くない……足の感覚も……戻ってる……?
いや、それだけじゃない。視界が……はっきりしている……!」

彼は信じられないというように、自らの両手を見つめた。
節くれ立っていた指が、少しずつ張りを取り戻していく。
頬に赤みが差し、まるで数十年若返ったかのようだった。

「当たり前だ。お前が飲んだのはエリクサーだ。奇跡の薬と言われる代物だぞ」

「エリクサーだと!? なぜ、そんな貴重なものを……!」

「あまり長話は好まない。約束の報酬をもらおうか」

「待て。確かに、薬を飲んで回復した気がする。しかしこれがいつまで続くか分からない。そんな不確かな状態で金を渡すわけにはいかん」

(あちゃーっ……こいつ、結構したたかだな)

『マスターの詰めが甘いのですよ。そこはもっと強引にいかないと!』

「俺の嫌いなことは、約束を反故にされることだ。余程、早く死にたいらしいな」

「ち、違う。そういう意味じゃない。ちゃんと医者に見せて確認したいだけだ。払わないとは言っていない」

「そんな取り引きはしていない。世界に存在するかどうかも怪しい“奇跡の薬”を飲ませたんだ。そいつを手に入れられる俺が、どんな存在か分からないのか?」

俺は少し魔力を解放して、彼を威圧した。
空気がぴりりと冷たくなり、部屋の温度が一段と下がったように感じられる。

「わ、わかった。だが、現金は三億ほどしかここにはない。あとは金か証券だ」

(病気を治す薬が三億か……相場はどうなんだろう?)

『とりあえず、今はそれでいいじゃないですか? また作れば済む話ですし』

「仕方がない。三億で手を打とう」

彼は安心したように、自ら立ち上がった。

「凄い……痛めた腰も、若い時に負った右肘の痛みもない」

「だから、本物だと言っただろう? 早く約束を果たせ!」

「わかった。ついてきてくれ」

その後ろに従い、隣の書斎へ入る。
巨大な机の脇には、大きな金庫が置かれていた。

彼が金庫を開け、中の現金を机の上に並べる。
1億円の束が三つ、さらに百万円の束が二十ほど――壮観な光景だ。

「現金は、これだけだ」

「わかった。なら、それを報酬として受け取ろう」

俺はそのお金の束をストレージに収めた。
一瞬で消えた現金を目の当たりにして、彼は目を見張る。

「では、これでさらばだ。わかっていると思うが、このことを口外したらどうなるかぐらいは分かるな?」

再び、少しだけ魔力を開放する。
威圧を受けた彼は、尻餅をついた。

「わかった! 誰にも言わない。約束する」

「約束は守れよ」

そう言い残し、影の中に消えたのだった。



自宅に戻った俺は、目の前に積まれた札束の山を見て、思わずビビっていた。

「なあ、エイシス……あるところには、あるもんだな」

『これは、まだ序の口です。マスターは、いやでもこの紙切れが集まってくるでしょう。私には、これが価値あるものとは到底思えませんが……』

エイシスから見れば、ただの紙切れにしか見えないのだろう。
しかし価値を知っている俺にとっては、どう扱うか悩ましいところだ。

「税金とか、どうするんだろう?」

『裏取引ですから、心配はいらないのでは? いずれ、真っ当な商売をした時に払えば良いでしょう』

「まあ、いいか。でも、これ犯罪じゃないよな?」

『マスターが飲ませたのは上級ポーションですよね。そこに【ハイ・キュア】の魔法をかけましたし。“エリクサー”と言ったのは、詐欺にあたりますね』

(始めはエリクサーを出すつもりだったんだ。鑑定してみたら、上級ポーションとキュアだけで治ると表示された。だけど心配だったから【ハイ・キュア】を使ったんだ)

『犯罪かと問われれば、犯罪ですね。不法侵入や脅迫などいろいろありますが……結果的には相手の病が治り、こちらは貴重なポーションと魔法をかけた。WIN-WINではないですか?』

(エイシス的にはそれでいいのか……? 最初の頃はズルはダメって言ってたじゃん)

『あれは、マスターが若くて未熟だったからです。若い時にズルをしてお金を得ても、きっとろくでもないことにしか使わないでしょう。だから、あえて厳しくしたつもりです』

(俺はまだ16歳だけど……?)

『マスターは時間固定の亜空間で10年間過ごしました。
剣の修行と魔法の鍛錬をしていましたが、精神的には26歳相当と判断しました。
社会に揉まれた経験はありませんが、高校生のマスターとしてなら、許容範囲内です』

エイシスの判断基準は、相変わらずよく分からない。

……異世界では、人を殺したこともあるし、いまさらか。

……でも、俺ってこんな性格だったっけ!?

10年間の修行がつらくて、過去の自分がどうだったのか、いまいち記憶があやふやだ。

まあ、とにかくこれで貧乏から抜け出した。
みんなに、好きな物を買ってあげられる。

そう考えると、さっきのことはすぐに忘れられそうだった。
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