現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

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第89話 パンを買いに

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ここは、ミストラル世界のライスパーク領にある領都『フルール』。
花の都としても知られている。

ライスパーク公爵家の先祖が花を愛していたことから、領民たちの間にも花を大切にする文化が根づいたらしい――と、昔、エイシスが話していた。

修行の十年間、この街には何度かパンを買いに来たことがある。

「今度は、どこのパン屋に行こうか……」

修行中は時間が固定されていたので、そのたびに店を変えていた。
有名店や大きな店は一通り回ってしまったので、今日は小さな庶民向けの店を探すことにした。

時刻は夕方。
そもそもパンを買いに来る人は朝が多いので、店が開いていても、もう品切れの可能性が高い。

「む……この匂いは……」

香ばしいパンの焼ける匂いが漂ってきた。

「できたてのパンが買えそうだ」

匂いを頼りに歩いていく。
だが、それらしいパン屋は見当たらず、代わりにあったのは、少し寂れた小さな花屋だった。

「匂いはここからだが……売り物じゃなさそうだな」

どうやら、家で食べる分のパンを焼いていたらしい。

「亜空間に花でも植えるか? 殺風景だし」

来たついでに、花の種か苗を買おうと店に入った。

店の中は所狭しと鉢植えが並び、切り花もそれなりに置かれている。どれも大切に育てられているようで、旬の花がきれいに咲いていた。

「すみませーん、花を買いたいのですが」

店に店主の姿は見えなかったので、少し大きめの声で呼ぶ。

「はーい、いらっしゃいませ」

出てきたのは、俺と同じくらいの女の子だった。エプロン姿がよく似合っている。

「花を買いたいんだ。育てやすいのはどれかな?」

「お庭に植えますか? それとも鉢のままですか?」

「できれば庭に植えたい。毎年咲く花がいいな」

「でしたら、そこのベロニカがおすすめです。あとは、あそこにあるミオソティスなんかもいいですよ」

確かに紫と青のきれいな花だ。亜空間に植えれば、少しは華やかになるだろう。

「じゃあ、その二つをもらうよ。それと花の種はあるかい?」

「これからの時期なら、コスモスやマリーゴールドが良いかもしれません」

日本で聞いたことのある花名だが、深くは気にしない。

「じゃあ、それもいただくよ。いくらになる?」

「全部で銀貨三枚でいいです。それと、よければこの花もおまけでつけます」

相場はわからないが、鑑定する必要もなさそうだ。

俺は財布を取り出し、銀貨三枚を差し出す。少女はどこか嬉しそうにそれを受け取った。

そのとき、店にガタイの良い、厳つい連中が入ってきた。

「さあ、今日は借金全額払ってもらうぞ!」
「こんな小せい店、早く畳んだ方がマシだろ?」

どうやら借金取りらしい。

「待ってください。約束は明後日のはずです」

「どうせ払えねーんだろ? いつ来たって同じだ!」

そう言うと、その男は今買ったばかりの俺の鉢植えを蹴り飛ばした。

『マスター、魔力が漏れてますよ』

(そうだった……冷静になれ……)

「なあ、お前ら。俺が買った鉢植えをなぜ蹴り飛ばした?」

「はあ! 何いきがってんだ、クソガキ!」
「誰にものを言ってんのかわかってんのかよー!」

怒鳴り散らしている連中を無視して、怯えているお店の女性に声をかけた。

「ねえ、君。借金っていくらなの?」

「借りたのは金貨一枚です。でも、利息って名目で明後日までに金貨三十枚払えって言われて……」

(完全にぼったくりだな……)

「利息がつくのは当たり前だろ! そんなことも知らねーのか、ガキが!」

「じゃあ、お前が台無しにしたその鉢植えの代金、金貨五十枚請求する。ほら、さっさと金貨五十枚払えよ」

「はあ!? 何言ってんだ、てめーは!」

【スタン!】

そう言って襲いかかってきた男を、俺は【スタン】で気絶させた。

「な、お前! 魔法使いか!」

「それがどうした? さっさと金貨五十枚払って弁償しろ」

そう言うと、もう一人がナイフを取り出して切りかかってきた。

【ダーク・ショット】

闇の弾丸を、そのナイフを持つ手めがけて撃ち込む。

「うわーっ! 俺の手がぁぁっ!」

ナイフを落とし、手を撃ち抜かれた男は情けない叫び声を上げた。

「てめーっ! 俺たちにこんなことして、ただで済むと思ってんのか! 俺たちのボスは、ここらへんを仕切る凄腕の剣士なんだぞ!」

どうやら、後ろに大物が控えているらしい。

「なら、そいつのところに案内しろ。金貨五十枚、そこで弁償してもらおうか」

気絶しているやつの襟元を引っ張って、連れて行く。

そして、薄暗い路地を抜けて、一軒の家の前にたどり着いた。

「ここか?」

「謝るなら今のうちだぞ。グンザさんは俺ほど優しくねーからな!」

すると、建物の中からいかにも悪党な顔つきの男がでてきた。 
すぐに鑑定をかけて、殺人や強盗など犯罪のオンパレードだったのを確認した。

【ウィンド・カッター】

取り敢えず、剣を持つ利き腕を落とす。

「うわーっ!俺の腕があ!てめー何しやがった!」

「うるさい。それよりお前の部下が俺の鉢植えを壊したんだ。賠償金50枚を早く払え!」

「グンザさん、確かにトロのやつがこの少年の鉢植えを蹴ったのは本当です。例の花屋の娘のところでさあ」

気絶してない男が震えながら説明した。

「ぼうず、そんなことで俺様の腕を……この腕どうしてくれるんだ?」

「うるさい【ウィンド・カッター】」

グンザと呼ばれる男のもうひとつの腕も落とす。

「うわーっ!腕がぁぁぁっ!」

あまりの痛さにその場に蹲ってしまった。

「早く弁償しろ!金貨100枚だ」

「うっ……貴様、さっきは50枚と言ってたぞ」

痛みを堪えて、グンザはそう言った。

「利息だ。違法な金貸しのくせに利息も知らないのか?」

「ガリ、早く金持って来い.金庫にしまってある」

ようやく払う気になったようだ。

「おい、お前、金貨150枚に今なった。それとあの花屋の証書も持って来い」

「何でそんな……」

【ウィンド・カッター】

グンザの片足を切り落とした。

「ひえーーっ!」

「早くしないと、利息がつくぞ。今は金貨200枚になったぞ。俺の利息は秒利だからな」

グンザが血を流しすぎて死にそうになっているので、【ヒール】をかけて、血を止めた。

その間に、ガリとか言う男が木箱を重そうに抱えて戻ってきた。

「こ、これが金庫です」

だが、鑑定で家の中に本物の金庫があるのを知っている。

「俺は嘘は嫌いだ。なぜ、家の中の金庫を持って来ないで、こっちの木箱を持ってきた?」

「嘘はついてねー!あるのはこれだけだ」

【ダーク・ショット】

ガリとか言う男の眉間に闇の弾丸を放つ。
ぐったりしたように、その場に崩れ去った。

俺はここにいる奴らを影に収納して、奴らのアジトに入る。
家の中は、乱雑に物が置かれ酒瓶が転がっていた。

「これか……」

汚いことして貯めたお金が、壁の奥に隠れている。
その壁を壊して、現れた金庫を無理やり開けて、金は勿論、中に入っていた証書や金目の物を全部頂く。

そして、影に入れてた連中を出してから、家に火をつけた。

「汚いものは、浄化しないとな」

家を出て、周りに火が燃え移らないように、水の壁で家を囲んだ。

しばらくすれば、魔法が解けるだろう。

そして、花屋に向かって歩いていると、エイシスから声がかかった。

『マスター』

(魔力は漏れて無かったろう?)

『……ええ、漏れてませんでした。それでひとこと言っていいですか?』

「なんだろう?」

『マスター、これから“白鬼畜”って呼ぼうと思います』

(白キツネなら可愛らしいが……あれはそんなにダメだったか?)

『マスターが鑑定をかけて、全員が殺人、強盗、人身売買などの重犯罪者である事を確認してましたし因果応報です。全く問題はありませんね。
それに、火を着けた後に、延焼を防ぐために水魔法の壁で囲んだのは、とても素晴らしいです』

エイシスが無茶苦茶褒めてくる。
このパターンは、今までなかったので逆に怖いんだけど?

『で、マスターは何しにここに来たんですか?』

(それは、花を買いに……違う!パンだ。パンを買いに来たんだった)

『思い出したようで何よりです。みんなはお腹を空かせてマスターの帰りを待ってますけどね』

「いかん!こうしちゃいられない」

花屋に行く前に、開いてるパン屋を探してパンを買い、その足で花屋に寄って証書と花の代金金貨10枚を置いてきた。

なぜ、金貨10枚かだって?

勿論、利息だよ。



………
補足

主人公が利息を秒利率と言ったのは、あくまで比喩表現であり、実際のミストラル世界の利率を主人公は知らないようです。





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