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第123話 どこか抜けてる人
しおりを挟むロビーで爺さん二人と話していると、カナドとユメカが帰ってきた。
「二人とも無事だったか?」
そう尋ねるとカナドが、
「あれくらいどうってことないぜ。まだ、爺さんとの修行の方がキツかったくらいだ」
確かに……!
「そうか、なら良かった」
「主人さま、私頑張ったよ。頭撫でて」
そう言われてユメカの頭を撫でながら、シーラのことを話しておく。
「マジかよ!人を何だと思ってやがる!!」
「うん、絶対許せない!」
カナドもユメカも怒りまくっている。
「そういうわけで、今はシーラが普通の生活を送れることが先決だ。帝国の対処はそのあとだ」
この二人も爺さんたちと同じで、今すぐ帝国に乗り込む勢いだった。
「わかった。美味いもん作ってやるぜ」
「わかった、私もシーラちゃんに会いに行ってくる」
二人はそう言って駆け出した。
「おい、今、夜だしみんなが帰って来てから……」
俺の声は二人には届かず、カナドは厨房に、ユメカはシーラが休んでいる部屋に行ってしまった。
この二人は、考えるより先に行動に出てしまう。だが、それが良いところでもある。
……まあ、大丈夫か
行ってしまったのは仕方がない。
俺は、他のみんなの様子を千里眼で見ながら、自室に戻るのだった。
◆
「そんなところで寝ると身体に悪いっぴ。起きるんだっぴ」
家妖精のコボルトが起こしにきた。
どうやら、ソファーに腰掛けながら寝てしまったようだ。
「ああ、おはよー。えーっと、ピピ?」
「そうだっぴ」
……おお、初めて当たった。
「朝食ができたっぴ。カナドの兄貴が張り切ってたっぴ」
「わかった、すぐ行くよ」
起きてすぐに千里眼を使って、戻って来なかった仲間たちの安否を確認する。
どうやら、学生たちを森の外まで送っていくようだ。
「となると、帰りは夕方かな……」
今日も学校があるから、ここに戻ってくるころには、みんなも帰ってくるだろう。
あと、気掛かりなのは赤毛のシーラのことだが、朝食を食べ終わったら様子を見に行く必要があるな。
そんなことを考えながら食堂に行くのだった。
◇
「やべぇ、電車の時間に間に合わない!」
日本に戻ってきた俺は、制服に着替えるなり慌てて自転車に飛び乗った。
本来なら影渡りを使えば一瞬で駅まで行ける。だが、ここは日本。
変なところで能力を使ってバレたら大ごとだし、エイシスにも小言を言われるのは確定だ。
駅の駐輪場に自転車を放り込み、走って改札へ。
ホームには、ちょうど電車が入ってくるところが見えた。
……これ逃したら遅刻確定だ
発車ベルが鳴り響く中、階段を駆け下り、滑り込むように車内へ飛び込む。
その瞬間、ドアが「ピシャッ」と閉まった。
『マスター、駆け込み乗車はダメですよ。周りにぶつかれば怪我をさせますし、自分も危険です』
正論を言われてしまった。
(わかってるよ……急いでても、やっちゃダメなものはダメだよな。次から気をつける)
電車が動き出すと、なんとなく視線を感じる。
吊り革につかまる女子高生グループが、クスクスと笑っている。
(白い髪って、そこまで珍しいのか……?)
『……髪の問題ではないと思いますよ』
(じゃあ何で笑ってんだ?走ったから髪が乱れてるとか?)
『教えてもいいのですが……』
(教えてくれよ、焦らすな!)
『……“社会の窓”が全開です』
は?
慌てて視線を下げる。
股間のファスナーが完全に開いていた。
(ひえぇぇ!!何でもっと早く言わなかったんだよ!)
カバンで前を隠しつつ、全力でファスナーを上げる。
『マスターの自主性を尊重し、自ら気づき学ぶ力を育もうと……』
(ゆとり教育みたいな言い方やめろ!!
てか……いつから開いてた!?)
『マスターが家で制服に着替えてトイレに寄った時からですね』
(最初からかよ……)
人生で一番恥ずかしい通学時間になった。
今日はもう目立つ行動は一切しない。
そう固く誓った。
……
今は昼休み。
屋上のお茶会メンバーで、旧校舎に集まってお弁当を広げている。
俺は相変わらず、購買のパンだ。
「ねえ、みんな。今度、十五歳から探索者免許が取れるようになるでしょう?
だから、このメンバーでパーティーを組もうと思ってるんだけど……どうかな?」
提案したのは、コミュ力モンスターこと国崎美鈴、ミーちゃんだ。
「私は賛成だよ」
いとこのチーちゃんは、どうやら事前に聞いていたらしい。
「実は私も興味あるんだよねー。いろいろ勉強になりそうだし」
同じクラスの樫村世理愛さんが続く。
「拙者も後学のために探索者には興味がありました。
なので今、ダイエットに励んでおります」
深海君は胸を張って言うが、彼のお弁当箱は二段重ねの重箱。
中には、豚カツと唐揚げがギューギュー詰めになっていた。
(((それ、絶対、妹の愛佳ちゃんの手作りだ)))
「それで、ケンくんも当然免許取るよね?」
「でも危なくないか? ゲート先のダンジョンには魔物が出るんだぞ」
素人が魔物と戦うのは危険だ。
みんなを危険な目に遭わせたくない。
「無理しない階層ならそんな危険じゃないって、テレビの探索者も言ってたよ」
「そうそう。無理はよくないし、命大事だよ」
……これは止められそうにない。
最悪、俺が全員守ればいいか。
「わかったよ。無理をしないなら賛成だ」
「やったー! 決まりだね。じゃあ、早速だけどパーティー名を考えてね!」
ミーちゃん、気が早い。
「屋上のお茶会じゃダメなのか?」
「それでもいいけど、せっかくだし新しい名前も考えてみようよ。
世理愛ちゃん、何かアイデアない?」
「そうね……少し考えてみるわ」
「深海君は?」
「拙者でござるか? 拙者はこの集まりでは新参者ゆえ、先達の意見に従うでござる」
「深海君、先とか後とか関係ないよ。立派なメンバーなんだから遠慮しないで言ってね」
チーちゃんに言われ、深海君は明らかに驚き、そして嬉しそうに微笑んだ。
「わかったでござる。ならば遠慮なく……
『アース・ウィンド&ファイヤー』などどうでしょうか?
お婆ちゃんが若い頃、ディスコで踊った話をよくしておりまして」
「いいと思うけど……ちょっと長いかも」
「今スマホで調べたけど、有名なグループみたいだね。
そのまま使うのはさすがに気が引けるかな」
ミーちゃんはすぐ調べていた。
「じゃあケンくんは?」
「そうだな……俺は今の名前でいいと思うけど」
正直、パーティー名なんてすぐに思いつくものじゃない。
「それより、チーちゃんとミーちゃんは何か考えたのか?」
「それがね、二人で話しても全然思いつかなかったの。
だから、みんなの意見を聞いてるんだよ」
「やっぱりか。でも安心したよ。考えられないのが俺だけじゃなくて」
「えへへ、ケンくんと同じで嬉しいな」
ミーちゃんは照れくさそうに笑う。
しばらくして、黙っていた樫村さんが口を開いた。
「考えてみたんだけど、屋上のお茶会にちなんで……『ティータイム』なんてどうかしら?」
(あれ!?どこかで聞いたバンド名みたいだけど、マズくないか?)
「わあ、それいい!」
「さすが世理愛ちゃん、名付け王だね!」
「拙者も異論はござらん!」
みんなが口々に賛成し、異論を唱えることはできなそうだ。
俺も「覚えやすいし、響きがいいと思う」と言って賛成したのだった。
◆
その頃、拠点では。
「よし、完成っと。あとはケンイチロウ君に頼んでおいた魔石をはめ込むだけなんだけど……どこに置いたのかしら?」
昨日の話し合いで浄化の魔法陣を教わったセンジュ王女は、トイレに設置するための浄化魔道具の試作品を作り終えたところだった。
本来なら、あとは魔石を組み込めば完成……のはずなのだが、その肝心の魔石が見当たらない。
そこへ、ドワーフのドドンパ爺さんが姿を見せた。
「パイプってのは、こんな感じでいいのか?」
爺さんの手には、穴の開いた鉄製の丸い棒である試作したパイプが握られている。
「うん、上出来よ。あとは数が必要だけど……大丈夫そう?」
「ああ、任せとけ。孫のチヒロがいるからな。あいつは俺より才能がある。
このパイプだって、ちょっと説明しただけで構造を理解しやがった。
全く、先が楽しみだぜ」
「本当にすごいわね。あとでチヒロちゃんに相談したいことがあるんだけど……これはこれで全部完成してからね」
「ああ、わかった。じゃあ俺は最終処理場の穴を掘ってくる。
それと……“便器”ってやつはケン殿が用意するんだったか?」
「そうなの。でも……ケンイチロウ君って、意外と忘れっぽいみたいなのよね。
頼んでおいた魔石も、どこに置いたのかわからなくなっちゃって」
「がははは! 人間、完璧なやつなんざいねぇってこった」
ドドンパ爺さんは豪快に笑いながら、穴掘りに向かっていった。
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