124 / 125
第124話 不良少年と再び
しおりを挟む放課後。
学校を出て帰宅する道すがら、どこかで見覚えのあるガラの悪い男子生徒が、俺の前に立ちふさがった。
「お、来たな! 白いの!」
「えーっと……誰でしたっけ?」
『マスター、昨日スナックで気絶させた連中ですよ。これはメスゴブリン行きですね』
(ああ、あいつらか……。向こうの世界で濃い日常を送りすぎて、こっちのトラブルが些細に感じて完全に忘れてたよ)
『マスター……もしかして認知症ですか?』
(えっ!? 俺、そうなの!?)
「おい! 忘れたとは言わせねぇぞ。昨日は眠り薬なんか使いやがって、姑息なやつだな、お前は!」
(……そういえば【スタン】で気絶させたんだった)
「薬なんて使ってないぞ。お前らが勝手に寝たんだろう」
「嘘つくんじゃねぇ! 今日は姑息な手段は通用しねえぞ。すげぇ人連れてきたからな。白いの、ついてこい!」
番長らしき人物が、再び昨日のスナックへと俺を連行しようとする。
正直面倒だが、これ以上絡まれるのも嫌なので、今日でケリをつけようと思った。
厳つい連中に囲まれてスナックに入ると、カウンターの奥では店主らしき人物が、アロハシャツを着た金髪のチャラついた若い男と話していた。
「さあ、今日こそ卑怯な真似はさせねぇぞ。お願いします、兄貴!」
番長がチャラい男に声をかけたが……
「おーーっ! やっぱケンじゃねぇか! 白い髪って聞いてたから、もしかしてって思ったんだよ!」
「あ、航平さんでしたか。お久しぶりです」
そのチャラい男は、かつて工事現場でバイトしてた時に仲良くなった瀬戸海航平さんだった。
八王子ゲートでは、俺は白い仮面姿で会っている。
「ケンと会うのは、あの件以来か。こんな田舎まで来た甲斐があったってもんだ」
「おい、こんな田舎で悪かったな、航平」
「夢さん、冗談ですよ。ギャグセンスないと女にモテませんよ?」
店主と航平さんは旧知の仲らしく、親しげに話している。
聞けば、二人はボクシングの試合で殴り合った仲だという。戦績は二勝二敗一分とのこと。
そして俺を呼び出した番長は、航平さんのボクシング界の後輩らしい。まだプロ入り前だそうだ。
「航平さん、タトゥーなくなってますけど、消したんですか?」
「ああ、あれはシールだよ。工事現場のおっちゃんたちに舐められねぇように、あの時だけ貼ってたんだ」
ヤンキーの世界にも色々あるらしい。
「それよりケン、最近何してんだ?」
「普通に学校行ってますよ。そういえば今日、探索者免許を取ろうかと、いとこたちと話してました。
気が早いけど、パーティーメンバーも決まったところです」
「おーそうか! 免許取ったら、俺の仲間とダンジョン潜ろうぜ。
ちょっとは先輩風ふかせる……と言いたいが、ケンには必要ねぇ気もするな」
「いろいろ教えてくれるなら助かりますよ」
「ぶっちゃけ、ケンは強いだろ?
あの工事現場の身のこなし、ただもんじゃねぇと思ったぜ。
ほら、これ潰してみろよ」
そう言ってゲーセンのコインを投げ渡してきた。
(潰すのは簡単だけど、力を使っても大丈夫か?)
『ヤンキー界では力を示すのが礼儀らしいですよ』
……その情報源どこだよ!
仕方なく、ほんの少しだけ力を解放し、親指と人差し指でコインを軽く折り曲げる。
「「おおーーっ!!」」
その場のヤンチャ君たちが一斉に歓声をあげた。
「ほらな! 俺だってそんな神技できねぇのに、ケンは簡単に曲げやがった。
全く、どんな握力してんだよ」
航平さんは俺を立てるように笑った。
「なぁ近藤。ケンは見た目は軟弱そうだが、一本芯が通った漢だ。
ガス爆発の現場で、まだガス漏れして二次爆発の危険がある中、怪我人を助けに突っ込んでいった」
「それって、この間起きた都内の現場ですか?」
「ああ、その現場に俺もケンもいた。
人ってのは、いざって時に本性が出るもんだ。
だが、ケンは自分が危険なのを承知で人を助け回ったんだ。
近藤、お前できるか?
自分よりデカい男たちを背負って、荒れた現場の中を動き回ることがよお」
「………」
声をかけられた番長は、言葉に詰まったままだ。
「俺はその姿を見て、是非ともこの男とダチになりてえって思ったんだ。
ケンのダチになれば、きっと俺が幸せになれるって確信があった」
航平さんは、飲んでた酒なのか烏龍茶なのかわからないが、グラスをテーブルに置いた。
「やはり、それは正しかった。
ケンと出会ってダチになってからの俺は幸運続きだ。
死にそうになった時も生き延びられた」
「それに、自分の背中を任せられる仲間もできた。
ダンジョンでは、仲間を見捨てて逃げる奴。そんな奴らをたくさん見たぜ。
なあ、近藤、そんな奴に命預けられるか?」
「自分はそんな奴らに背中を預けるのは嫌です」
「そうだよなぁ。だが、ケンは違う。
俺が惚れるほど良い漢だ。
だからこれ以上、ケンにちょっかい出すんじゃねぇぞ!」
「は、はい! 航平先輩、すみませんでした!」
「近藤、謝る相手が違ぇだろ?」
「そ、そうでした! 本当に……すみませんでしたぁ!」
絡んできた学生たちが一斉に深々と頭を下げた。
「……あ、うん。気にしてないから。
これ以上絡まなければ、ね」
『マスター……メスゴブリン行きがなくなりました。残念です……』
エイシスは何を期待していたんだ……。
「なあ、ケン、ちょっとこっちに来てくれ」
航平さんに連れられて、店の奥の個室へと入った。
部屋には、お酒やジュースが並んでいる。
喉が渇いていたので、航平さんに断ってジュースを飲むことにした。
「スナックにこんな部屋があるんですね?」
「まあ、ここはそういうんじゃねぇぞ。女を連れ込む部屋だ」
まあ、そんな雰囲気はあるけど……。
「まさか!?」
「ケン、俺にそっちの趣味はねぇ。実はな、内密な話があってよ。夢さんに話を通しておいたんだ」
ホッとしたのも束の間、“内密な話”というワードに、厄介ごとの匂いがした。
「ケンよ。この間の八王子ゲートの魔物の進行の件は知ってるよな?」
「ええ、緊急避難があった日ですよね。テストの最中だったので、みんな困惑してましたよ」
「うむ……そうか。実は俺、その現場にいたんだ」
「マジですか?」
……知っているけど、知らないフリをした。
『マスター、今の演技には合格点をあげられませんよ。ダメダメです』
(エイシス、お前、いつから映画監督になったんだ?)
「それでよ。探索者協会から緘口令が引かれたんだが……ケンにだけは話しておこうと思ってな」
「そうなんですか?俺が知ってしまってもいい話なんですか?」
「緘口令って言っても、探索者の間では誰でも知ってる情報だ。
あの八王子ゲートの進行を防いだのは探索者協会って話になってるが、実は違う。
白い仮面の男と剣の達人の爺さん、それと小学生くらいの小さな少女たちなんだ」
「な、なんだってーーっ!」
『マスター、さっきより演技が酷いです。マイナス10点ですね』
(まて、エイシス。俺には会心の演技だったぞ)
「まあ、驚くのも無理はねぇ。で、続きがあるんだが、その白い仮面の男は日本人らしい。
今、探索者協会ではその男の情報を募ってる。有力情報を持ち込めば賞金が出るらしい」
(探索者協会も厄介なことをしてくれたもんだ……身バレには気をつけないと……)
「実は、ぶっちゃけ、その白い仮面の男はケンなんじゃねぇか、と俺は思ってたんだ」
「ぶほっ!!」
思わず飲んでいたジュースを吹き出してしまった。
「な、何言ってるんですか!俺のわけないでしょう?学校でテスト受けてたんですから!」
「まあ、そうだよな。なんとなくそう思っただけだ。
俺はその男に助けられたんだが、雰囲気といい、立ってる時の重心の置き方がケンに似てたんだよ。
もしケンだったとしても、俺が協会に話すつもりはねぇけどな」
(雰囲気はわかるけど……重心の置き方ってなんだよ。そんなの意識したことないぞ)
『この男、なかなか良い観察眼を持ってますね。見ているところが常人とは違います』
エイシスは感心しているようだ。
これは、さらに警戒が必要だな。
航平さんの話を聞いて、身を引き締めるのだった。
75
あなたにおすすめの小説
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。
日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。
フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ!
フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。
美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。
しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。
最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる