現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風

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第124話 不良少年と再び

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 放課後。

 学校を出て帰宅する道すがら、どこかで見覚えのあるガラの悪い男子生徒が、俺の前に立ちふさがった。

「お、来たな! 白いの!」

「えーっと……誰でしたっけ?」

『マスター、昨日スナックで気絶させた連中ですよ。これはメスゴブリン行きですね』

(ああ、あいつらか……。向こうの世界で濃い日常を送りすぎて、こっちのトラブルが些細に感じて完全に忘れてたよ)

『マスター……もしかして認知症ですか?』

(えっ!? 俺、そうなの!?)

「おい! 忘れたとは言わせねぇぞ。昨日は眠り薬なんか使いやがって、姑息なやつだな、お前は!」

(……そういえば【スタン】で気絶させたんだった)

「薬なんて使ってないぞ。お前らが勝手に寝たんだろう」

「嘘つくんじゃねぇ! 今日は姑息な手段は通用しねえぞ。すげぇ人連れてきたからな。白いの、ついてこい!」

 番長らしき人物が、再び昨日のスナックへと俺を連行しようとする。
 正直面倒だが、これ以上絡まれるのも嫌なので、今日でケリをつけようと思った。

 厳つい連中に囲まれてスナックに入ると、カウンターの奥では店主らしき人物が、アロハシャツを着た金髪のチャラついた若い男と話していた。

「さあ、今日こそ卑怯な真似はさせねぇぞ。お願いします、兄貴!」

 番長がチャラい男に声をかけたが……

「おーーっ! やっぱケンじゃねぇか! 白い髪って聞いてたから、もしかしてって思ったんだよ!」

「あ、航平さんでしたか。お久しぶりです」

 そのチャラい男は、かつて工事現場でバイトしてた時に仲良くなった瀬戸海航平さんだった。
 八王子ゲートでは、俺は白い仮面姿で会っている。

「ケンと会うのは、あの件以来か。こんな田舎まで来た甲斐があったってもんだ」

「おい、こんな田舎で悪かったな、航平」

「夢さん、冗談ですよ。ギャグセンスないと女にモテませんよ?」

 店主と航平さんは旧知の仲らしく、親しげに話している。
 聞けば、二人はボクシングの試合で殴り合った仲だという。戦績は二勝二敗一分とのこと。

 そして俺を呼び出した番長は、航平さんのボクシング界の後輩らしい。まだプロ入り前だそうだ。

「航平さん、タトゥーなくなってますけど、消したんですか?」

「ああ、あれはシールだよ。工事現場のおっちゃんたちに舐められねぇように、あの時だけ貼ってたんだ」

 ヤンキーの世界にも色々あるらしい。

「それよりケン、最近何してんだ?」

「普通に学校行ってますよ。そういえば今日、探索者免許を取ろうかと、いとこたちと話してました。
 気が早いけど、パーティーメンバーも決まったところです」

「おーそうか! 免許取ったら、俺の仲間とダンジョン潜ろうぜ。
 ちょっとは先輩風ふかせる……と言いたいが、ケンには必要ねぇ気もするな」

「いろいろ教えてくれるなら助かりますよ」

「ぶっちゃけ、ケンは強いだろ?
 あの工事現場の身のこなし、ただもんじゃねぇと思ったぜ。
 ほら、これ潰してみろよ」

 そう言ってゲーセンのコインを投げ渡してきた。

(潰すのは簡単だけど、力を使っても大丈夫か?)

『ヤンキー界では力を示すのが礼儀らしいですよ』

……その情報源どこだよ!

 仕方なく、ほんの少しだけ力を解放し、親指と人差し指でコインを軽く折り曲げる。

「「おおーーっ!!」」

 その場のヤンチャ君たちが一斉に歓声をあげた。

「ほらな! 俺だってそんな神技できねぇのに、ケンは簡単に曲げやがった。
 全く、どんな握力してんだよ」

 航平さんは俺を立てるように笑った。

「なぁ近藤。ケンは見た目は軟弱そうだが、一本芯が通った漢だ。
 ガス爆発の現場で、まだガス漏れして二次爆発の危険がある中、怪我人を助けに突っ込んでいった」

「それって、この間起きた都内の現場ですか?」

「ああ、その現場に俺もケンもいた。
 人ってのは、いざって時に本性が出るもんだ。
 だが、ケンは自分が危険なのを承知で人を助け回ったんだ。

 近藤、お前できるか?
 自分よりデカい男たちを背負って、荒れた現場の中を動き回ることがよお」

「………」

 声をかけられた番長は、言葉に詰まったままだ。

「俺はその姿を見て、是非ともこの男とダチになりてえって思ったんだ。
 ケンのダチになれば、きっと俺が幸せになれるって確信があった」

 航平さんは、飲んでた酒なのか烏龍茶なのかわからないが、グラスをテーブルに置いた。

「やはり、それは正しかった。
 ケンと出会ってダチになってからの俺は幸運続きだ。
 死にそうになった時も生き延びられた」

「それに、自分の背中を任せられる仲間もできた。
 ダンジョンでは、仲間を見捨てて逃げる奴。そんな奴らをたくさん見たぜ。
 なあ、近藤、そんな奴に命預けられるか?」

「自分はそんな奴らに背中を預けるのは嫌です」

「そうだよなぁ。だが、ケンは違う。
 俺が惚れるほど良い漢だ。
 だからこれ以上、ケンにちょっかい出すんじゃねぇぞ!」

「は、はい! 航平先輩、すみませんでした!」

「近藤、謝る相手が違ぇだろ?」

「そ、そうでした! 本当に……すみませんでしたぁ!」

 絡んできた学生たちが一斉に深々と頭を下げた。

「……あ、うん。気にしてないから。
 これ以上絡まなければ、ね」

『マスター……メスゴブリン行きがなくなりました。残念です……』

 エイシスは何を期待していたんだ……。

「なあ、ケン、ちょっとこっちに来てくれ」

 航平さんに連れられて、店の奥の個室へと入った。
 部屋には、お酒やジュースが並んでいる。

 喉が渇いていたので、航平さんに断ってジュースを飲むことにした。

「スナックにこんな部屋があるんですね?」

「まあ、ここはそういうんじゃねぇぞ。女を連れ込む部屋だ」

 まあ、そんな雰囲気はあるけど……。

「まさか!?」

「ケン、俺にそっちの趣味はねぇ。実はな、内密な話があってよ。夢さんに話を通しておいたんだ」

 ホッとしたのも束の間、“内密な話”というワードに、厄介ごとの匂いがした。

「ケンよ。この間の八王子ゲートの魔物の進行の件は知ってるよな?」

「ええ、緊急避難があった日ですよね。テストの最中だったので、みんな困惑してましたよ」

「うむ……そうか。実は俺、その現場にいたんだ」

「マジですか?」

……知っているけど、知らないフリをした。

『マスター、今の演技には合格点をあげられませんよ。ダメダメです』

(エイシス、お前、いつから映画監督になったんだ?)

「それでよ。探索者協会から緘口令が引かれたんだが……ケンにだけは話しておこうと思ってな」

「そうなんですか?俺が知ってしまってもいい話なんですか?」

「緘口令って言っても、探索者の間では誰でも知ってる情報だ。
 あの八王子ゲートの進行を防いだのは探索者協会って話になってるが、実は違う。
 白い仮面の男と剣の達人の爺さん、それと小学生くらいの小さな少女たちなんだ」

「な、なんだってーーっ!」

『マスター、さっきより演技が酷いです。マイナス10点ですね』

(まて、エイシス。俺には会心の演技だったぞ)

「まあ、驚くのも無理はねぇ。で、続きがあるんだが、その白い仮面の男は日本人らしい。
 今、探索者協会ではその男の情報を募ってる。有力情報を持ち込めば賞金が出るらしい」

(探索者協会も厄介なことをしてくれたもんだ……身バレには気をつけないと……)

「実は、ぶっちゃけ、その白い仮面の男はケンなんじゃねぇか、と俺は思ってたんだ」

「ぶほっ!!」

 思わず飲んでいたジュースを吹き出してしまった。

「な、何言ってるんですか!俺のわけないでしょう?学校でテスト受けてたんですから!」

「まあ、そうだよな。なんとなくそう思っただけだ。
 俺はその男に助けられたんだが、雰囲気といい、立ってる時の重心の置き方がケンに似てたんだよ。
 もしケンだったとしても、俺が協会に話すつもりはねぇけどな」

(雰囲気はわかるけど……重心の置き方ってなんだよ。そんなの意識したことないぞ)

『この男、なかなか良い観察眼を持ってますね。見ているところが常人とは違います』

 エイシスは感心しているようだ。
 これは、さらに警戒が必要だな。
 航平さんの話を聞いて、身を引き締めるのだった。


 

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