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第125話 その後の話
しおりを挟む学校帰り、公立高校の不良たちに連れられて向かったスナックで、久しぶりに航平さんと話をした。
不良たちは航平さんに一喝され、どうやら俺に絡むのを止めたようだ。
その後、別れ際に軽く挨拶を交わし、いくつか買い物を済ませて自宅に戻る。
「ホームセンターにも寄ったけど、便器ってすぐには手に入らないな」
屋敷に六箇所、教会に二箇所、ドワーフの工房に一箇所。合計九個必要だ。
「注文扱いになるらしいけど、業者じゃないからか、やたら質問されたし……」
店員さんに根掘り葉掘り聞かれた挙句、結局その場では注文せずに帰ってきた。
『マスター、【創作】で作れますよ。材料があれば魔力はほとんど使いません。無い場合は消費量が増えますが、今のマスターなら便器九個くらい余裕です』
(確かに、高校生が便器を九個まとめて買うより、その方がよっぽど現実的だな)
『ただし、構造を理解していないと失敗します。ネットで構造を勉強することをおすすめします』
そう言われ、メーカーサイトから説明書と設計図をダウンロードして印刷した。
「じゃあ、エアコンとか冷蔵庫も【創作】で作れるのか? これから暑くなるし、生活必需品だと思うんだけど」
『そもそも向こうの世界には、電気で稼働する物がありません。外装は作れても、基盤を作っても意味がありません。
魔道具として作るなら専門知識が必要ですが……都合よく、その方面に詳しい王女がいますよね。相談してみては?』
言われた通り、念のためエアコンと冷蔵庫の説明書と設計図も印刷しておいた。
「ケーキやお菓子も買ったし、ペロ用の刺身も買った。向こうに行くとするか」
そう呟いて、俺は襖ゲートを潜った。
……
亜空間に入った瞬間、妙な違和感を覚えた。
「あれ? なんか……亜空間、広くなってないか?」
『おそらく、世界樹の影響でしょう。あの木はただの植物ではありません。魔力を供給する特別な存在ですから』
「それにしても、広がりすぎじゃないか?」
『世界樹を神として祀る種族もいるほどです。マスターやペロの神力と同調した結果でしょう』
ラノベでも、世界樹は神格扱いされることが多い。
そう考えると、ありえない話でもない。
「俺としては嬉しいけど……ログハウスだけだと、ちょっと寂しいな。川とか山があれば、別荘みたいでいい感じなんだけど」
『いずれ作ればよいではありませんか。焦っても仕方ありませんよ。
マスターには、やるべきことがまだたくさんあります。一歩ずつ、着実に進めることをおすすめします』
……まあ、確かに。
俺みたいな凡人は、あれこれ手を出すと、すぐ煮詰まってしまう。
そう自分に言い聞かせ、水魔法で世界樹に水を与えてから、教会へ向かった。
……
「ペロ、起きてるか? 昨日は大活躍だったみたいだから、刺身買ってきたぞ」
すると、いつも寝転がっている祭壇の上から、ペロがぬっと顔を向けた。
《お刺身あるの? じゃあ、すぐ食べるわ》
にょろにょろと這い出し、教壇の上まで登ってくる。
俺はストレージから刺身のパックを取り出し、その前に置いた。
「竜を追い払ったんだって? すごいじゃないか」
《当たり前よ。私は神なんだから。竜の一匹や二匹、赤子の手をひねるくらい簡単よ》
自慢げに言いながら、刺身をもぐもぐと食べ始めるペロ。
「そうかー……あのペロが、立派になったもんだなぁ」
《“あの”とは何よ。“あの”とは。私は昔から立派よ》
相変わらず、自意識だけは神クラスである。
「それで、どうやって追い払ったんだ? 【念力】か?」
《あ……ち、違うわ。話し合っただけよ。私は平和主義だし、無闇に攻撃するほど子どもじゃないもの》
「へぇ。来た竜って知性があったんだな。俺も会話できるかな?」
《できるわよ。あんたに会いに、竜王が来るらしいから》
ペロはマグロの赤身を食べ終えると、次は白身に手を伸ばした。
「……ペロさんや。俺に会いに来るって、どういう意味?」
《ああ、それね。竜王が悩んでるみたいだったから、あんたを紹介したの。“あんたなら解決できるかも”って》
「は!? どういうことだよ!」
《だから、今言ったでしょう? “解決できる”って言ったら、“じゃあ会いに行く”って。
だから、その問題、さっさと解決してね》
「ペロ。刺身、没収します」
《わーーっ! 何すんのよ! まだイカ食べてないのよ!》
どうやらペロは、厄介ごとを俺に丸投げしたらしい。
これ以上、問題を抱え込んだら、俺の自由は完全になくなる。
ペロが喚いていたが構わず、刺身をストレージに戻し、俺は屋敷へ引き上げるのだった。
……
「お帰りなさいだっぴ」
家妖精のコボルトが出迎えてくれた。
「えーっと、ピコ?」
「違うっぴ。ピケだっぴ」
外してしまった。
ピケは男性だから、今度から執事服を着せよう。
そうすれば、確率が二分の一にあがる。
「ピケ、みんなはまだ帰ってないのか?」
「まだだっぴ」
「そうか……」
心配になった俺は千里眼で確認する。
すると、あと15分くらいで大森林から出られそうだ。
一応、ユリアに念話で状況を確認しておく。
……
『ユリア、そっちは問題ないか?』
『あ、ケン様! みんな無事ですよ』
『それなら良かった。帰りに連絡をくれれば、迎えに行くぞ』
『あー、それなんですが……今日は帰れそうにないのです。
学園の先生が、今回の状況について王宮へ説明しなくてはならないそうで、アンジェラさんも一緒に同行することになりました。
そのため、今夜はアンジェラさんの王都の屋敷に、みんなで泊まることになったのです』
『そうか。わかった。こっちは心配しなくていいから、ゆっくりしておいで。
それと、何か困ったことがあったら、すぐ連絡してくれ。
すぐに駆けつけるから』
『はい! わかりました』
……
念話を切ったものの、少しばかり皆のことが心配になった。
だが、アンジェラさんが付き添っているのなら安心だろう。
そう思うことにした。
「ピケ、赤毛の女の子の様子はどうだ?」
「ユメカちゃんと一緒だっぴ。食事もちゃんと食べたし、おやつも美味しそうに食べたって、ピコが言ってたっぴ」
食欲が出てきたなら、良い兆候だ。
「そうか。じゃあ、少し様子を見てくるよ」
そう言って、赤毛の少女シーラの部屋へ向かった。
部屋の前でノックすると、ユメカの返事があり、中に入る。
二人はテーブルを囲んでお茶をしていた。
「具合はどうだ?」
「あ、主人さま。シーラちゃん、元気になったよ」
ユメカが代わりに答える。
「それなら良かった。無理せず、ゆっくり休んでくれ」
「……はい。ありがとうございます」
やはり男性の俺には、まだ抵抗があるのだろう。
少し体を震わせながら、シーラは小さな声で返事をした。
「ユリアたちは、今日はアンジェラさんのお宅に泊まるらしい。
戻ってきたら紹介するよ。みんな心根の優しい子たちだから、すぐに仲良くなれると思う」
「……は、はい。わかりました」
ユリアを除けば、魔力過多症を患っていたユメカ、ヒカリ、チヒロたちには、それぞれ付き添ってくれる親族がいた。
だが、シーラにはユリアと同じく、心を許せる存在がそばにいない。
だから、信頼されるまで時間がかかることは、承知している。
「ユリア姉たちはお泊まりなんだ。いいなあ~。今度、主人さまとお泊まりしたいなぁ」
どうやらユメカも、たまには賑やかな場所に行きたいらしい。
「わかったよ。今度、一緒に行こう」
「わーい! やったー!」
ユメカはその場で立ち上がり、くるくると回って喜んでいる。
そんな様子を見て、赤毛のシーラの顔にも、ふっと笑みが浮かんだ。
「じゃあ、俺は用事があるから行くよ」
「主人さま、もう行くの?」
「ああ。ちょっと作らないといけないものがあってな。部屋にいるから、何かあったら言ってくれ」
「用事があるなら、仕方ないかぁ」
ユメカは少し残念そうに、そう言ったのだった。
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