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第1章
第40話 阻止
しおりを挟むその日の午前中に退院手続きを済ませ、迎えに来てくれた楓さんの車に乗る。何故か、そこには清水先生とルミも一緒だ。
「拓海くん、私引っ越すんだ」
そう朝の検診の時に言ってたけど、同じマンションの同じフロアーとは知らなかった。
「先生、忙しいでしょ。その間ルミはどうするんですか?」
「それなんだけど、ルミは拓海くんの家に住むことになりました。パチパチパチ」
確かに部屋は余ってるし、俺は良いけど楓さんの負担が増えるんじゃあ……
「でも、私が家に帰ってきた時はルミは返してね。一緒にご飯食べて過ごすんだから」
そういうことらしい。
「家には霧坂さんもいますけど大丈夫そうですか?」
「柚子には言ってあります。快く承諾してくれました」
楓さんから頼まれれば、霧坂さんはなんでもOKを出しそうなもんだけど。
「拓海くん、ルミに勉強とかいろいろ教えてあげてね。勿論、私もできる時にはするわよ」
「わかりました。俺も未だ勉強中ですけどね」
荷物は昨日の内に運び込まれているらしい。
自宅に着き、家のドアを開けると見慣れた女性が『お帰りなさいませ』と出迎えてくれた。
「坂井さんがなぜここに?」
竜宮寺家に仕えていた侍女長の坂井芳子さんだ。
「竜宮寺家は、定年退職致しました。侍女長の座は白崎に譲りました。これからは拓海様のお世話をさせて頂きたくまいったしだいであります」
メイドさんに定年なんてあるんだ。
「坂井侍女長には、無理言って来てもらったのです。私が不甲斐ないばかりですみません」
赤ちゃんの時から知っている坂井さんには楓さんも頭が上がらないらしい。
「俺は嬉しいけど坂井さんはいいの?」
「ええ、楓ちゃんから連絡をもらいまして喜んでこちらにまいりました。そういう事ですから宜しくお願い致します」
人数も増えたし、部屋も余ってるので助かる。
「こちらこそよろしくお願いします」
☆
拓海のいない学園の昼休み。
1年3組を訪れる2年生の女子がいた。
「蔵敷拓海君はいるかしら?」
教室のドアから出てきた男子生徒に尋ねた。
「く、蔵敷ですか、今日は来てないですよ」
「そう、ありがとう」
今日もいないの?
直接会ってお礼言いたかったのに。
土曜日に兄は落石に当たって大怪我をした。私達家族は病院に駆けつけたのだが、兄はピンピンしてたのだ。
話を聞くとお父さんが、特殊な能力を持つ人に治療をお願いしたらしい。
その人が蔵敷拓海、英明学園の一年生だ。
私はお礼を言おうと昨日の昼休みに訪れたのだが、お弁当を持ってどこかに行ったと聞いた。
しばらく探したのだが、顔も知らない相手を探すのは無理だと思い、その日は諦めた。
そして、今日は休みだという。
休みなら仕方ないわ、明日もう一度来てみよう。
自分のクラスに戻ろうとしたら、綺麗な女子から声をかけられた。
「あのー、先輩は蔵敷君に何かようなのですか?」
「ええ、お礼を言いたくてね。詳しい話は出来ないけど、兄を助けてくれたらしいの」
「そうだったんですね。明日は来ると思います。さっき連絡を入れたらそう返信がきました」
「ありがとう、明日また来てみるわ」
「はい、わかりました」
綺麗な子だったわね。
蔵敷君の彼女かしら?
私も兄さんを誘ってどこかに行こうかしら。
兄は身体が弱くて入院ばかりしてた。
そんな兄をDNAレベルで治療してくれたみたいだ。
にわかに信じ難い話だけど、彼は何人もの人を治療して助けているらしい。
だけど、この話は誰にも言えない。
用意されていた契約書にサインしたのだから。
今年の夏は楽しみだわ。
兄さんに見てもらえるように、少し際どい水着を買おうかな。
えへへへ……
妄想の中で兄と手を繋ぎ夕暮れの浜辺を歩く光景を想像していたのだった。
………
「あれって、安藤葉月先輩だよなあ?学園3大美少女の1人の」
「ラッキー、俺声かけられた、このまま死んでもいい」
「昨日も来てたよな。何の用なんだ?誰か探していたみたいだけど」
「蔵敷を探してた。そう声をかけられた」
「くっ!また蔵敷かよ。金髪転校生といい、なんなんだ、あいつは!」
1年3組のカーストトップだと自負している男子3人は、最近結城渚と霧坂柚子と登下校をしている拓海の事が気に食わない。
それにもまして、金髪美女の幼馴染も転校してきた。
そして、さらに2年生で学園男子の憧れの安藤葉月先輩まで蔵敷に用事があるらしい。
「あいつ、調子のってね?」
「ああ、ハブのくせに生意気だ」
「野球部の先輩がヤバいチームの人、知ってるらしいんだわ。その人達紹介してもらおうか」
そんな話を長々としてると、声をかけられた。
「君達、蔵敷くんは今日は来てないのかい?」
声をかけてきたのは3年の生徒会長だ。
「あ、は、はい、休みです」
「そうか、用事を頼もうと思ったが休みなら仕方ないな」
そう言って出て行った。
「生徒会長に聞かれたか?」
「ああ、マズいかもな」
「あの人って竜宮寺家の親戚だろ。蔵敷とどういう関係なんだ?」
「私と拓海くんのことかな?君達は外部生だろ。この学園は意外と権力者の子息子女とか多いから、この国にいたければ下手な事を考えずに大人しく過ごした方が身の為だよ」
いつの間にか戻ってきた生徒会長が小声で囁いた。
「「「わ、わかりました」」」
「じゃあ、よろしく」
そう呟いて教室を出る時、チラッと霧坂柚子の方を見て出て行った。
霧坂柚子は、そっとスマホをしまったのだった。
☆
「学校って大変……」
すっかり疲れ切ってしまったアンジェは、霧坂柚子と一緒に下校している。
「渚さんは?」
「今日は部活だと聞いていますわ」
「ねえ、その口調って必要?」
誰も突っ込まなかった霧坂柚子の猫かぶりをアンジェは勇者の如く尋ねたのだった。
「尊敬してる人がおりまして、その人みたいになりたいのですわ」
「あ、それって陣開楓さんでしょう。あの人、すごいよね。頭はいいし、強いってたっくん言ってたし、私もあんな女性になりたいなあ」
すると、霧坂さんが身を乗り出した。
「ですよね、ですよね。あの人の凄さはそれだけじゃないんです。高潔なんです。悪をくじき弱きを助ける、そんな素晴らしい人なんです。それに、苦手だったお料理も努力で克服して、今では一流シェフ顔負けの味付けなんです。それでですね、意外と知られてないのですけど釣り好きなんですよ。川は勿論、海でもプロ級の腕前なんです。それに……」
「柚子さん、ストップ!わかった、わかったから」
「は、失礼しましたわ、おほほほ」
「それ、続けるのね?」
「柚子さんは普通に話してた方がいきいきしてるよ。特に陣開さんが絡むとね」
「良いのです。私にも目標がありますので」
「そうなんだ。あ、そうか、だからかあ~~」
「何でしょうか?」
「柚子さんがたっくんに辛く当たる理由。楓さんをとられたからでしょう?」
「な、違います。そこまで私は愚かではありませんわ。確かに、楓先輩の寵愛を受けているあの駄猫に関しては腹が立ちますけど、それでも駄猫のことは認めているのですわ」
「へ~~そうなんだあ」
「はい、初めて治療に付き添った時に、あの駄猫の能力で女性の未来が救われました。駄猫はその時意識を失ってしまったのですが、後から聞いた話だと、治療する時に代償として、治療相手の負った痛みを受けてしまうと。
私も稽古で相手の攻撃が当たった時は物凄い痛みを感じます。ですが、身体の欠損する程の痛みではありません。それを治癒する駄猫は、あらゆる人の痛みを受けているわけですから、想像を絶する痛みなのでしょう。そんな駄猫は凄いと思っています。
ですが、楓先輩の食事を食べてる姿とか見ると表情は変わりませんがデレデレしてる感じがします。そこはどうしても許せません!」
「う~~ん、柚子さんの事わかった気がする。面倒くさい人だって」
「そうズバズバ言わなくても自覚しておりますわ」
「まあ、時間はたっぷりあるしゆっくり柚子さんを観察しようかな」
「観察されるのですか?それはちょっと」
「だって、観察しなければ揶揄う事できないじゃない。冗談のつもりでいても柚子さんにとっては怒りのポイントだったりするわけだし。相手を怒らせてしまうのは、私のポリシーに反するの。だから、ぎりぎりのところでいじるのが楽しいんだ」
「遠慮しときますわ」
「それとひとつ言っておくけど、私のたっくんのこと、そろそろ駄猫って言うのやめてくれる。不愉快だわ。人にはそれぞれ怒りのポイントがあるの。私の場合はたっくんよ。たっくんのことを少しでも悪く言ったら許さない。私の能力って透過だけど人体も透過できるの。そして、任意の場所で元に戻せるのよ。
柚子さんの頭の中を透過して、握っていた石でもプレゼントしようかしら。
それから、たっくんの怒りのポイントはお姉さん。これだけは気をつけてね。じゃないと地球が滅んじゃうから」
アンジェの言葉で震え上がる霧坂柚子だった。
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