この世界の裏側で誰かが何かをしている〜最強のモブと自重出来ない美少女双子妹〜

涼月 風

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第一章

第1話 転校

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~およそ半年程前の事~




「お前達には転校してもらう」

 都心から離れた山間の町に住んでいる俺こと霞景樹かすみかげきは、家族揃って夕食を食べていた時、突然、父からそう言われた。

「転校って、こんな時期にか? 」

 夏休みが明けて、二学期が始まったばかりだ。
 俺は、少し戸惑っていた。

「景樹、お前はいくつになった? 」

「16歳だよ。親父知ってて聞いてるよね? 」

「昔なら元服を済ませた一人前の歳だ。嫁をもらって子供がいたとしてもおかしくない」

 スルーかよ! しかも、嫁って……

「何、訳のわからない事言ってんだよ。今は令和だよ、親父。それに、男子が結婚できる歳は18歳だ」

「令和だろうが大化の改新だろうが関係ない。霞家かすみけにとってはなぁ。あははは」

 わけがわからん……

「それってお兄だけなの? 」
「私も兄様と一緒に転校します」

 2つ年下の双子の妹の陽奈ひな瑠奈るなは、真剣な眼差しで父に話しかけた。

「勿論、陽奈と瑠奈も一緒だ」

『はぁ~~!? 』

 ますます意味がわからん……

 テーブルの向かいでは、陽奈と瑠奈が『やったーー! 』と喜んでいる。
 中学2年の双子の妹は、転校する事に疑問を抱かないのだろうか?
 それに母さんも何もなかったように黙って食事を続けている。

「マジかよ、親父? 」

「おおマジだ! 」

 その声は真剣そのものだった。
 これは、普通の転校ではない。
 そもそもこんな時期に転校などあり得ない。

「陽奈と瑠奈も揃って転校って事は、そういう事なんだよな? 」

「そうだ……」

 これは、任務のようだ。
 妹達と一緒にという事は、俺だけでは捌ききれないほどの仕事らしい。

「わかった……」

 そう言って手元にあった麦茶を飲み干す。
 俺の承諾を待っていたかのように父は、真剣な眼差しを向けた。

「学校の手続きは済ませてある。妹のあかねのところから通ってもらいたい」

「茜叔母さんのところに住むのか? 」

「そうだ。詳しい話は、茜から聞くといい」

 こうして俺と妹達との転校は唐突に決まった。







 俺と双子の妹は、今、都会のジャングルを彷徨っていた。
 今まで過ごしてきたところは、山と畑と田んぼしかないところだった。
 交通機関といえば、隣の大きな町までの周回バスしかなく一日5本しか走っていない。

 そんな田舎者が、都会のターミナル駅で迷わないはずがない。

「むっ、ここはダンジョンか」
「現在位置がここですから、右方向に行けば山手線の乗り場があると思います」

 陽奈と瑠奈は、スマホを見ながら悪戦苦闘していた。

「なぁ、駅員さんに聞いた方が早くないか? 」

「ダメです、兄様。都会の人間は信用できません。迂闊に声をかければ、騙されて廃ビルに連れていかれてあんな事やこんな事をされてしまいます」

「そうよ。都会の人は超怖いんだから~~」

 瑠奈も陽奈も何処からそんな知識を得たのか?

「大丈夫だよ。俺があそこの駅員さんに聞いてくるよ」

「あの兄様が大胆な行動に~~! 」
「お兄、骨は拾ってあげるからネ」

 大きな荷物を持って騒いでいる妹達を置いて駅員に場所を聞きに行くと、親切に教えてくれた。

「あっちだってさ」

 妹達に教えると安心したように、小さなため息をついていた。

 それからも散々迷いながらも双子妹を連れて目的地であるマンションに辿り着いた時には、俺達はぐったりしていた。

「都会は、迷宮だらけね。ゴブリンやオークもいっぱいいるし~~」
「狩り尽くしましょう! 経験値を上げるチャンスです」

 妹達の感想は俺が都内町の高校に通ってた時にバスの中で読んでいたラノベの知識だ。
 部屋に隠して置いたものを、見つけて読んでしまった妹達は、すっかりハマってしまったようだ。
 勿論、ここにはゴブリンやオークはいないし、仮に討伐しても経験値は上がらない。
 ここは異世界ではなく、現実の世界なのだから……

「迷宮みたいなのは認めるが、それは単に慣れてないだけだ。それに魔物じゃない。俺達と同じ人間だよ。だから、狩るのは無しね」

 俺達が住んでいたところは、人より獣の方が多かった。
 あまりの人の多さに街行く人々がゴブリンやオークに見えたらしい。
 間違って狩りをしたら大ごとになる。

「わかってるわよ。お兄は冗談も通じないの? 」
「兄様には、教育が必要のようです」

 あっ、これは、あとが大変そうだ……

 茜さんのマンションの前で連絡を入れると、叔母さんが直ぐにエントランスに駆けつけて来た。

「みんな久し振りね~~。それにしても大きくなったわね。景樹なんかもう、こんなに背が伸びて、立派な男の子になったじゃない? 双子ちゃんも綺麗になって~~」

 茜叔母さんと最後に会ったのは、俺が10歳の頃だった。

『叔母さん、お世話になります! 』

 俺達が声を揃えて言うと、何故か頭をゴツンと殴られた。

「叔母さんって誰の事かな~~? 茜さんよ。いいわね。これ、すっごく大事だから」

 そこには、般若の顔をした茜叔母さんがいた。







「霞 景樹です。宜しくお願いします」

 虫が囁くような小さな声で自己紹介をする。

『聞こえねぇぞ~~』
『何か暗そうだね』
『美少女が良かったな~~。むさい男じゃなくってよ~~』

 クラスの生徒達の反応は、期待通りだ。
 俺は友達を作りに来たのでも高校生活を満喫する為に来たのでもない。
 ある任務をこなしに来ただけだ。
 だが、今、俺の感想を言った人物は覚えておこう……

「霞君の席はあそこね」

 担任の篠崎友紀(27歳、独身)は、窓際の一番後ろの席を指差した。
 急な転校生の為に、取り揃えた席のようだ。
 列の長さがそこだけ一席分多かった。

 慣れない伊達眼鏡を直して自分の席に着く。

 左側が窓、右側は誰もいない。
 目立たないように過ごさなければならない俺としては丁度良い。

 俺が根暗で絡みずらそうな奴だと思ったのか、前の席の女子は露骨に嫌そうな顔をしていた。

「みんな騒がないで~~慣れない霞君の為に色々教えてあげてね」

 クラスの喧騒は、そんな先生の一声で治るはずもない。
 各々、クラスに突然舞い込んだ異物(俺)を評価しているようだ。

 この日の為に、伸ばしておいた髪を切らずにいたのは正解だったようだ。
 前髪の長さと伊達眼鏡のおかげで俺の顔は、クラス生徒達の印象に残らないだろう。

かのえさん。クラス委員長の貴女に霞君の事頼んでも良いかな? 」

「はい。わかりました」

 篠崎先生は、クラス委員長に俺の世話を頼んだようだ。

 今回の転校での任務の1つに、クラス委員長のかのえ 絵里香えりかの動向を探るという事案がある。

 都合よく俺がこのクラスに転校出来た事も、とある権力によるものだ。

 庚 絵里香の人となりを知るには丁度いい……

 俺は、席に座りながら大衆に溶け込むようになりを潜める。
 そう、完全なるモブになる為に……







 一時間目が終わった休み時間に、庚 絵里香が俺の席にやってきた。
 腰まである長く綺麗な黒髪。
 少しツリ目の凛とした顔立ちの美少女。

 女性剣士、姫騎士……

 庚 絵里香を表現するならそんな感じだ。

「霞君。クラス委員長の庚だ。学校の案内は必要か? 」

 透き通る声に、強い意志が見られる。
 この場合は、責任感か……

「そうですね。お願いします」

 学校内の設備状況は、事前に把握してある。
 でも案内はしてもらおう。
 話す機会は、この時以外にはあり得ない。
 あとはモブとして、密かに様子を伺えばいい。

 そう、庚 絵里香を知る為に……。

「昼休みなら時間が取れる。案内は昼休みでいいかな? 」

「はい」

「わかった。昼休みになったら迎えに来よう」

 そう言って庚 絵里香は自分の席に戻って行った。
 クラスの男子達は、その様子を見ていたらしい。

『マジかよ。羨ましいぜ』
『庚に話しかけられることなんか俺でもないのに』
『俺も転校生だったら、庚に案内してもらえたのにな~~』

 そんな男子の声から察するに、庚 絵里香は人気があるようだ。
 まぁ、あんな美人なら男性もほっとかないか……

 それに庚家の後ろ盾もその魅力に拍車をかけているのだろう。

 嫉妬のような視線を浴びながら、その場をやり過ごす。
 そして、俺は、昼休みまで一声も発しないでクラスの状況を把握していた。

 男子で目立つのはバスケット部の高瀬たかせ  悠人ゆうととその友人達だ。
 因みに、俺の自己紹介の時、文句を言った3人はこのグループの中にいる。

 女子では須崎すざき  美梨みり達のグループが目立つ。
 ギャルっぽい出で立ちの5人で休み時間の度に騒いでいる。

 庚 絵里香は、特に親しそうな人物はいなそうだが、この数時間で判断するのは危険だ。

 彼女はこのクラスでは突出した美少女だ。
 俺のモブ化計画に最大の障害となる重要人物だと思う。

 あと注意しておく人物は、水沢 清香。この女子も数人のグループを作っている。
 清純そうな美少女だが、こう言った普通の感じが一番厄介だ。
 隠れファンとかいそうだし……

 まぁ、あとはどうにかなるだろう。

 それよりも、妹達が心配だ。

 頼むから自重してくれよ……
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