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第ニ章
第22話 校外学習(2)
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~~倉庫での戦闘後の庚 絵里香~~
絵里香は、目を覚ますと見慣れぬ天井と薬品の匂いが漂う空間で寝ていた。
周りを見渡し、自分の状況を確認すると、どうやら病院だと理解する。
「絵里香、眼を覚ましたのね」
絵里香のベッドの側にいたのは、庚 澄香。
絵里香の母親だ。
「お母さんがいるという事は、ここは、お母さんの病院ですか? 」
絵里香の母親は、女医さんだ。
仕事が忙しく、殆ど家に帰ってこれないが、それでも絵里香の母親だ。
絵里香が攫われたと聞いていても立ってもいられなかったようだ。
「心配したのよ。怪我の方は大した事はないわ」
「すみません。ご心配をかけました」
「そんな事はどうでもいいわ。絵里香、もう、あんな事はしないで……」
あんな事とは邪鬼退治の事を言ってるのだろうと直ぐに理解できた。
「ですが、私は十家の庚家です。邪鬼討伐は代々、受け継いできた任務です」
「それは、わかっているわ。でも、慎一郎さんも邪鬼討伐より庚家発展のために努力しているのよ。今の時代、邪鬼討伐だけでは生きていけないわ。勿論、庚家を守る事も出来ない。貴女がしてる事は、そんな庚家に迷惑をかけているのよ。理解できる? 」
「迷惑をかけている……そんなつもりは……」
「なかったと言い切れる? 庚家は、法を守る番人よ。貴女がしてる事は、この国の法を犯してるのよ」
「ですが、邪鬼は……」
「邪鬼討伐は大事だわ。でも、貴女はまだ学生です。きちんと学校を卒業して社会人になった時考えれば良い事よ。それまでは、十家の枝別れた血筋が陰ながら頑張ってるわ」
「神霊術が使えない血筋では、邪鬼討伐は無理です」
「神霊術が全てではないわ。今の邪鬼は、人に憑依するものが多いのは知ってるわね。その者達は決まって犯罪を犯すわ。それを拘束する事で神霊術に頼らなくても抑えが効くのよ」
「ですが、それでは犠牲になる人間が増えます」
「それでもよ。今の法律ではそれ以上は裁ききれないわ。貴女も大人になって考えてもらわないと困ります」
「ですが……」
「また、今日のような事が起きても貴女は大丈夫だと言えるの? 」
「それは……」
絵里香は、理解していた。
あの鬼には敵わないと……
(でも、何で私は生きてるんだ? そういえば、誰かが私を抱きしめて……その、助けてくれたような……)
「これからは、こんな無茶をしてはいけません。貴女は、十家である前に私と慎一郎さんのかけがえのない娘なんですからね」
(理解はしてる……だが、私は……でも、今の実力では、到底、無理だ。もっと、強くならないと……そうすればお母さんもお父さんも認めてくれるのではないか?)
「わかりました、今はやめておきます……」
苦渋の決断だった。
(だが、仕方がない……)
「それと、私は誰に助けられたのでしょうか? 」
「私にはわからないわ。でも、下着姿だった絵里香の上にあの黒いパーカーがかけられていたって聞いてるわ」
むき出しのクローゼットには、黒いパーカーがかけられていた。
「そうでしたか……」
絵里香は、その黒いパーカーを見つめていた。
◆
母親がバイタルをチェックして、病室から出てしばらくすると、庚 慎一郎が部屋に入って来た。
「絵里香、無事で良かった」
心配をかけてたようだ。
庚 慎一郎は、絵里香を叱るのではなく身体の心配をしていた。
「すみませんでした……」
「それは良い。絵里香が無事なら問題ない」
こういう時に家族に愛されていると理解する。
「状況は聞いている。絵里香からも聞きたい」
絵里香は、覚えている事を素直に話す。
それを黙って庚 慎一郎は聞いていた。
「そうか……人間が角が生えた邪鬼にか……」
慎一郎は 、眉を潜めて何やら考えていた。
「お父さん、一つ聞きたい事があります」
「何だね? 」
「霞の者とは何の事でしょうか? 今日、いや昨日転校して来た壬家の女生徒がその前に転校して来た霞兄妹の事をそう呼んだのですが、お父様なら知ってますよね」
「知っている。でも、今の絵里香には教えられない。せめて学校を卒業するまではね」
「どうしてもですか? 」
「私達には絵里香しかいない。だから、きちんと学校を卒業して自力で生活ができるまでは霞の者の件は教えられない」
「そうですか、わかりました……」
庚 絵里香は父親の真剣な眼差しに、その重要性を理解したのだった。
そして、霞 景樹本人の口からその事を聞こうと決心した。
◆
校外学習で目立つ女子達と回る羽目になった俺は、猫背をさらに拍車をかけて、まるで腰の曲がった爺さんのように隠れるように歩いていた。
「霞君、腰痛いの? 」
結城さん、そうではない。周りからの視線が痛いのだ。
「何と無くかな? 」
思考停止中なので、返事は口任せにしている。
「すぐ近くに博物館があるからそっちも見に行こうよ」
「そうだね~~」とか「行きたい~~」とか女子達は話しているけど、俺は早く1人になりたい。
周りの視線を浴び、男子達から罵声の声を聞きながら午前中は何とか乗り越えた。
そして、お弁当の時間、更に、水沢が何時もお弁当を食べてる女子3人が合流し、女子7人、男子1人という構図でお弁当を食べる羽目になったのである。
何で……
この状態を羨ましいと思う男子達に言いたい。
趣味も会話も成り立たない女子というモンスターの中で男子1人でいるこの気まずさは、地獄でしかないと……
そんな俺の気持ちも知らずに、女子達は面白おかしく騒ぎながらお弁当を食べ始めた。
「庚さん達と仲良くなれて嬉しいなぁ~~」
水沢のレベルにしても庚達は、遠い存在だったらしい。
水沢の友人で眼鏡っ娘の田辺 由香里は、如何にも図書委員というキャラが立ち過ぎてる女子だ。
その子が会話の中で妹が遠足でここの動物園に来ているという事を言っていた。
朝の子供の団体の中に田辺 由香里の妹がいたようだ。
「そうそう、知ってる? 」
そう言いだしたのは、また水沢の友人で少し小柄な木下 沙織がこんな事を話していた。
「この近くに不忍の池があるんだけど、そこのボートに恋人同士で乗ると、その2人は別れるんだってーー」
都市伝説とかいうやつか……
まぁ、俺には関係ないがな。
「そうなんだ~~」とか「知ってるよ~有名じゃない」とか女子の会話スキルは何でこんなに凄いのか、改めて感心する。
もう1人の水沢の友人、少しポッチャリ系の女子相崎 佳奈恵は、明るい性格でみんなに合わせることができる女子だった。「私、彼とここのボートに乗ったけど別れてないよ」と言っている。彼氏持ちらしい。
壬は、さっきから結城 莉愛夢からスマホの使い方を教えてもらっている。
壬は、何だか嬉しそうだ。
そして、庚は、女子達の話に入りながらも俺に鋭い視線を時たま向ける。
倉庫での件はバレてないはずだ。
何せ熊さんのお面を被っていたからな。
それに、庚当主からは『霧の者』の事は伝えないと言っていた。
なら、何故にそう視線を送ってくるのだろう?
すると、結城が
「絵里香ってもしかしたら霞君に興味あるの? 」
「えっ、何でだ? 」
「だって、さっきから霞君の事ばかり見てるじゃない? 」
「ち、違う。私は、そんな理由で見てたわけじゃない」
「じゃあ、どんな理由なのさ? 」
「それは、その、何だ。前髪が気になったのだ。そうだ。霞君の前髪が長いのでうっとうしくないのかと気になっただけだ」
「ふ~~ん、そうなんだ~~」
結城は庚をからかって遊んでいるだけなのだろう。
だが、本人がいる前でその話をされても、俺はどんな顔をすれば良いの?
「霞君、絵里香が前髪あげたほうが良いって言ってるよ。その方が格好良いってさ」
完全にからかいモードだ。
そんな事、庚は言ってなかったぞ。
すると、女子達は面白がって俺の前髪を上げようと近づいて来た。
甘い香りが俺の周囲に立ち込める。
もう、無理だ。これ以上、ここにいたら俺は……
「すまん、ちょっとトイレ」
最終兵器を発動した。
俺は、そのままトイレにかけ込んだ。
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