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第ニ章
第33話 病院へ
しおりを挟む「早苗、早苗大丈夫? 」
結城 莉愛夢が飯塚 早苗を心配して、取り乱している。
何故かその場に現れた戊家執事自称セバスチャンは、俺達の様子を見て何かがあったのだと理解したようだ。
「セバスさん、どうしてここに? 」
「今は、その女性を病院に連れて行かれた方が宜しいかと思います。宜しければ手配しますが」
「そ、それなら、私の母親の病院に連れてってくれるか? 直ぐに連絡を入れる」
庚は、こういう事態を放っておけない性分だ。
「失礼ですが、貴女様の病院はどこに? 」
「市ヶヤだ。私は庚 絵里香。私の母親がそこで医者をしている」
「これは、庚家のお嬢様でしたか。私は戊家執事のセバスチャンと言います。では、私どもの車を使いましょう。その方が早いでしょうから」
校舎脇の来賓用の駐車スペースに黒塗りのリムジンが止まっていた。
セバスさんが車の中に入り、直ぐに出てきて俺達を招き入れる。
俺は、飯塚を抱えながら車の中に入ると、そこには、金髪を縦ロールにした見るからにお嬢様と呼ばれるに相応しい女性が乗っていた。
みんなが車に入ったのを見届けててその立てロールの女性は、
「セバス、直ぐに出しなさい」
自称執事セバスチャンに命令して車を発進させた。
「その方は何処が具合が悪いのですの? 」
「校舎から飛び降りて、彼がそれを抱きかかえて助けたんです」
「えっ、校舎から飛び降りたですって? 」
「はい、本当です」
庚は、その金髪お嬢様に説明すると、そのお嬢様は
「校舎から飛び降りた人間を抱きかかえて助けるなど、普通の人間には出来ない所業。貴方は何者ですか? 」
金髪女の視線が俺に向かう。飯塚は、ソファーのような高級な椅子に横たわっている。
すると、執事のセバスチャンが金髪縦ロールに耳打ちした。
すると、その表情が俄かに厳しい表情になる。
「すみません。車に乗せてもらい助かります。私は、庚 絵里香と言います。ここちらは友人の結城 莉愛夢、そして霞 景樹君です。そして、今、寝ているのがクラスメイトの飯塚 早苗と言います」
庚が自己紹介を始めた。
俺達も紹介してくれて助かる。
俺は、目の前にいる金髪縦ロールの女性に心当たりがあった。
戊家当主と食事をした時に言っていたフランス人の妻とのハーフ、そう戊家当主の娘だ。
「自己紹介がまだでしたね。私は戊 シャルロッテ・リズです」
やはり、戊家当主の娘だ。
「そこの貴方! 貴方が霞 景樹ですのね」
いきなり大きな声で言われた。
「はい。そうです」
面倒臭そうな女子だ……
「私は、お父様から言われて帰国しました。何故だか理由はわかるかしら? 」
「いいえ、わかりません」
「お父様からお聞きしてると私は聞いていますがっ! 」
ここには、庚を含め結城もいる。
あまり、そのような会話はしたくないのだが……
金髪のお嬢様の態度が変なので庚が口を挟んできた。
「失礼だが、戊さんは、十家の戊家の方だと概ね見当が付く。霞君と知り合いなのか? 」
「貴女は、庚と名乗ってましたわよね。つまり、庚家のご息女という訳ですね。そうです。私は戊家当主の娘です」
「ほう、それで、霞君とはどういう関係なんだ? 」
「それは、お父様から、け、け、け、け、け……」
毛穴を数えるのが趣味!?
それともバグったのか?
「け!? 『け』とはなんだ? 」
「だから、私は、そのけ、け、け……」
何か、面倒くせーー!
「リズお嬢様。自己紹介も大事ですが、今は、この方を早急に手当をすべきかと思います」
流石、執事のセバスチャン。
空気が読める男だ……
「そうですわね。私とした事が病人を放っておくなんて、どうかしてましたわ」
横たわっている飯塚は、顔色が悪い。
結城が心配そうに見ている。
「あと、10分程で着きます。庚様、お母様に再びご連絡をお願いします」
「そ、そうだな。わかった。救急搬入されるように手配の電話をかけよう」
庚も自分を取り戻したようだ。
さて、さて、この金髪縦ロールお嬢様に関わると、碌な目に合わない気がプンプンする。
危険度特Aの人物。ある意味、壬より厄介な相手みたいだ。
俺は、豪華なリムジンの中でリズと名乗るお嬢様の冷たい視線を感じながら、早く家に帰りたいと思っていた。
10分程で病院に到着して、飯塚が運び込まれた。
庚の母親が、庚 澄香が事情を聞いている。
「落下時の衝撃は無いと思います。ただ、何らかの薬物の禁断症状が出ていると思いますので、対処の方を宜しくお願いします」
「薬物の禁断症状? 君は、何か知ってるの? 」
みんなのいる前では、話づらい。
「ここでは、ちょっと……」
「そうね、わかったわ。こっちに来て」
庚 澄香から案内されたのは、相談室と呼ばれる小さな部屋だった。
この部屋には、庚の母親と2人きりである。
「君、何を知ってるの? 」
「え~~っと、新ジュクのビル崩壊事件は知ってますか? 」
「え、うん。あの予備校と反社会勢力のビルが崩壊した事件よね。それが何か? 」
俺は、その予備校が薬の販売を生徒にしていた事。
崩壊した反社会勢力のビルがその元締めだった事を告げる。
そして、飯塚 早苗は、その生徒だった事と薬を使っていた事を説明した。
「つまり、ビル崩壊事件により薬が手に入らなくなったわけね。わかったわ。でも、何で君はそんな事を知ってるの? 」
どうするかな……
「ビルを崩壊させたのが、その~~俺の妹達でして……」
「えっ!? 」
しまった、通報されるかな……
「君、名前は? 」
「霞 景樹と言います」
「……『霞の者』そう、君が……」
庚当主から聞いていたようだ。
すると、庚 澄香は、俺の手を握り、深々と頭を下げた。
「君が、絵里香を……絵里香を助けてくれてありがとう。本当に感謝してるわ」
倉庫の件の事を言っているようだ。
「感謝される必要はありません。倉庫の時は、庚をもっと早く助ける事が出来ました。だが、俺は敢えて助けませんでした。夜な夜な邪鬼討伐に向かう庚を諦めさせる為です。お嬢さんは、そのせいで怪我を負いました。俺が負わせた怪我と言っても過言ではありません。だから、感謝される事は何もありません」
それでも、庚 澄香は、頭を下げていた。
「そんな事はないわ。主人から聞いたのよ。絵里香が邪鬼討伐に行く度に何度も影から支えてくれたのでしょう? ありがとう。本当にありがとう」
薄っすら涙を浮かべて礼を言われても、戸惑ってしまう。
俺はただ、任務を遂行しただけだ。
感謝される筋合いはない。
「もう、頭をお上げください。わかりました。その気持ち受け取っておきますから」
「そうね。でも、それだけ貴方には感謝してるわ。あなた方に何かあった場合、私の力が及ぶ範囲であれば力になるわ。これだけは、覚えておいて」
「わかりました。覚えておきます。それで、飯塚の件、頼んでも宜しいですか? 」
「事情はわかったわ。絵里香のクラスメイトだもの。ちゃんと観るわよ」
飯塚の話を伝え終わったので、帰ろうとしたら庚 澄香から申し訳なさそうに伝えられた。
「絵里香には貴方の事を話してないの。ごめんなさい……」
その方が俺にはありがたい。
「ええ、その方が気楽ですから、俺からもそう頼もうと思ってました」
すると、庚 澄香は、ニコって笑った。
「主人から聞いてたけど、絵里香にはもったいない男の子ね。でも、絵里香にはちょっと無理かしら。貴方の周りには、きっと素晴らしい女性ばかりいるのでしょうからね」
何か変な話になってきたので、お暇することにする。
「じゃあ、俺行きます」
「出来るだけ、絵里香と仲良くしてあげてね」
そう言われて部屋を出た。
結城と庚は、応急手当て室の前のベンチに座っている。
俺は、2人に挨拶せずに、病院を出た。
すると、病院の前には、あのリムジンがまだ止まっていた。
「霞様、どうぞ中へ……」
戊家執事 自称セバスチャンは、さっきまで乗せてもらったリムジンに、また、俺を招いたのだった。
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