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第ニ章
第39話 遠征(1)
しおりを挟む今日は、水曜日
茜叔母さんが帰ってくる日だ。
この家は、茜叔母さんの家なので当たり前の事だが、ここ数日、掃除をしなかったせいで、部屋が汚い。
「陽奈、洗濯物をソファーの上に置くな。パンツが落ちてるぞ」
「だって、面倒なんだもの~~。お兄、拾っといて」
何で俺が陽奈のパンツを片さないといけないんだ……
「瑠奈は、そこの機材を片付けなさい」
「兄様、そんなご無体な……」
双子妹は、掃除が苦手だ。
陽奈は、普段からの態度で苦手なのはわかるが、瑠奈も料理は好きだが、片付けは面倒らしい。
こんなところは双子の性格が似通っている。
「兄様、そろそろ学校に行かなければ、遅刻になります」
「えっ、もう、そんな時間なの? 」
仕方なく、掃除の途中で学校に向かう。
麗華さんは、昨日の夜から自分の家に帰っていた。
帰ったら茜叔母さんに怒られそうだな……
自業自得なのでしょうがないが、妹達の分までというのは納得がいかない。
主に部屋を汚している犯人は妹達なのだから……
学校に着くと、結城 莉愛夢が声をかけてきた。
「昨日は、ありがとうね」
直接、声をかけなくともメッセージで十分だ。
男子達から妙な視線を向けられる。
『今度は結城かよ』
『壬といい、水沢といい、庚まで手にかけておきながら、今度は結城とは……』
言っておくが手にかけた覚えはない。
勝手に話しかけてくるだけだ。
俺には、本当に迷惑な話なんだぞ。
転校してきた一ヶ月。
本当なら悠々自適なモブライフを満喫していたはずだ。
なのに何故……
お昼は、妹達と食べる事になっている。
また、その光景を誰かに見つかりでもしたら……
あ~~考えたくない。
『ここに、霞 景樹はいるのですか? 出て来なさい。この私が、来てあげましたわよ』
突然、教室にあらわれ大声で俺の名前を叫ぶ、あれは何ですか?
金髪宇宙人ですか?
『誰だ、あの美人……』
『噂のハーフ美少女先輩だ』
『何で霞の事? 』
『また、霞かよ。死ね! 永遠に死ね! 』
そんな訳で、迷惑な金髪お嬢様は、俺を昼に誘ったのだった。
言うまでもなく、教室内は大騒ぎとなった。
そして、昼休み……
元菜園部管理下の屋上で、金髪お嬢様と結城 莉愛夢、庚 絵里香、水沢グループの女子4人、それと双子妹とその友達メグちゃんでお昼を食べている。
こ、これは、校外学習以来の地獄だ……
金髪お嬢様が用意したお昼はお重が5段、それにスープがついた豪華なものだった。
戊家執事自称セバスチャンが、優雅な仕草で料理を取り分け、みんなに配っている。
流石、セバスさん……
「セバスさん、身体の具合はどうですか? 」
「お陰様で回復しております」
「今日は、何故、お嬢様がお昼に誘ってくれたのでしょうか? 」
「先日のラーメンのお礼だそうですよ。霞様がお支払いしてくださった件の」
「そうですか、そんなつもりは無かったのですが……」
ブラックカードを持ちながら食券販売機の前でウロウロされても目立つだけだからやめて欲しかった……とは、言えない。
「お兄、その人がセバスさん? 」
「そうだよ」
「私もセバスさんと一戦したいな」
「これは陽奈様ですね。お噂は聞き及んでおります。この私で良ければいつでもお相手させて頂きますよ」
「やったーー! 約束だよ」
陽奈は、超嬉しそうだ。
それに比べて瑠奈はさっきから金髪お嬢様を『ジッ』と見ている。
怖いので、スルーしよう……
「霞君、モテモテだねーー」
そう茶化すのは、水沢の友人で小柄な木下 沙織だ。
「ハーレム状態だよね~~私の彼なら喜んじゃうよ。どうんな気分? 霞君は」
水沢の友人でポッチャリ系の女子相崎 佳奈恵は、自分の彼氏と比べているようだ。
勿論、気分は最悪である。
庚 絵里香は、黙々と食べている。
結城 莉愛夢は、この状況を面白がっているようだ。
壬といえば、餌を与えられたリスのように目の前のお弁当に集中している。
そうだ、壬に指輪をあげる約束をしてたんだっけ……
今度の土曜日にでも買いに行くか。
陽奈と瑠奈の友人のメグちゃんは、先輩に囲まれて萎縮しているようだ。
屠殺前の子ブタになっていた。
早く昼が終わらないかな……と考えてた俺だった。
◇
夜になって、邪鬼討伐に向かっている。
茜叔母さんが帰ってきて、部屋を片付けていたらいつもより遅くなってしまった。
それと、今回の討伐は他県である。
親父から連絡が来て、富士山が見える海辺の町に向かっている。
足は、購入したバイクである。
国産ロードバイク 400CC。
勿論、免許は持っている。
瑠奈が言ってたサイトカーは、取り外しができるので今日は付けていない。
陽奈が一緒に行きたそうな目をしていたが、茜叔母さんに止められてた。
というか、陽奈が散らかした自分の服を片付けさせられていた。
約4時間、バイクを走らせついた場所は、白い砂浜と綺麗な海のある町だ。
里にいた頃、遠征に向かう場合は、足がないので身体を強化しながら走り続けていた。
時間はかかるが、里から出て知らない街に行くという旅行気分もあり、それなりに楽しかった覚えがある。
バイクを海沿いのパーキングに停めて海岸を散歩する。
動かさなかった身体をほぐすためだ。
打ち寄せる波飛沫が舞い、音だけが周囲に響き渡る。
今、誰もいないこの浜辺は俺だけのものだった。
『兄様、目的地は、そこから40分程山に入った隧道です』
インカムに瑠奈からの通信が入る。
「もう、遅いから寝てていいぞ。俺は大丈夫だから」
『いいえ、そうは行きません』
困ったな……真面目なのはいいが瑠奈の身体が心配だ。
「瑠奈、これは俺の任務だ。瑠奈も自分の体調管理ができないと『霞の者』として恥ずかしいぞ。寝不足は、全ての判断を謝せる。それに、お肌にも悪いしな」
『兄様、ずるいです。でも、わかりました。早めに休みます』
「そうしてくれ。このままだと俺は瑠奈が心配で仕方がないよ」
そんな内容の会話を数分して、やっと納得してくれたようだ。
散歩しながら身体を動かしバイクの運転で鈍った身体をほぐしていく。
さて、そろそろ向かうか……
俺は、バイクまで戻り、エンジンをかける。
セルの音が一転してエンジン音に変わった。
俺は、バイクを走らせてその隧道に向かった。
◇
峠の山道を走り、側道に抜ける。
この先は、廃棄された道があるだけだ。
道幅は狭く、木は倒れており、落石の跡がところかしこに見受けられる。
オフロードのバイクではなくスポーツ系のバイクなので、このような道は走りにくい。
俺は、バイクを置いて荷物を背負って、走る事に決めた。
夜の闇は、音さえも覆い尽くすように周囲には静けさが立ち込めている。
俺の足が木の枝を踏みつけた消え入りそうな音がここでは響き渡る程だ。
『霞の者』の者たちは、皆、目が良い。
夜でも問題なく見える程だ。
しかし、霊が多い……
霊は、清浄な空気を求めて山に集まる事がある。
でも、数が異常だ。
ここに集まる霊を喰っているのか……
山奥の滅多に人も寄り付かない場所に、突然、人が現れたら懐かしさに寄ってくるのは当たり前だ。
人間に取り憑けば、空いた腹も少しは満たされる。
俺は、剣を抜き、悪意を持って近づいてくる霊は、問答無用で斬り捨てる。
斬られて消滅していく霊を見て、躊躇う霊も出てくる。
そういう霊は、斬り捨てないで放っておく。
それは、不完全な浄化しか出来ないからだ。
「悪く思うなよ」
そう話しかけながら隧道に向かうと、道の端に霊が固まっている場所がある。
何かを取り囲んでいるようだ。
俺は、それに近づき何かに群がっている霊を剣を使って追い払う。
すると、そこには、小さな子供の霊がうずくまっていた。
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