この世界の裏側で誰かが何かをしている〜最強のモブと自重出来ない美少女双子妹〜

涼月 風

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第ニ章

第40話 遠征(2)

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 道の端にうずくまっていたのは、小さな子供の幽霊だった。

「どうしたんだ? こんなところで」

『………………』

 子供の霊は、何かを必死に訴えているが、俺にはわからない。
 声帯を持たない霊は、空気を振動させることはできず声を出せない。

「困ったな……陽奈なら会話ができるんだが……」

 陽奈には、動物と意思疎通ができる。
 これは、直接動物の脳内に話しかけることが出来る、所謂、テレパシーという能力だ。
 霊にも同じで、魂に直接語りかける事が出来るようだ。

 子供の霊は、隧道の方角を指して手でバッテンのジェスチャーをした。

「そうか、あそこには行くなと言いたいわけだな」

 俺は、子供の霊に背を向けて隧道に向けて歩き出した。
 すると、その霊は、追いかけてきて俺を止める仕草をする。

「お前には、あそこにいる物がヤバい奴だってわかってるのか」

 大きく頷く霊は、俺の顔を見つめる。
 頭から血を流し、顔が半分崩れているその姿は、着ているものから生前は男の子だったのだろうと想像がつく。

「俺は、そいつを退治しに来た。心配はいらん」

 それでも、俺を止めようとするその子供の霊は、きっと恐ろしい目にあったのだろう。

 俺は、その子供の霊を振り切って隧道の入り口に立つ。
 暗闇の中から、ヒシヒシと伝わる冷気。
 身体の毛穴が開く感覚。

 間違いない……あの霊が止めるはずだ……

 暗闇の中から人の顔が現れた。

 一つ……二つ……三つ……

 顔だけが宙に浮いており合計九つの顔が俺の方をニヤけた表情で見つめている。

相柳そうよく』か……

 こいつは邪鬼ではない。
 だが、似て非なる物……妖怪とも呼ばれている。
 九つの人の顔を持つ大蛇だ。

 ケタケタと笑う顔、ニヤつくだけの妖艶な女の顔、落ち武者のような顔……

 九つの顔は体に撮り込んだ人間や人の霊の顔に変えられるようだ。
 俺の姿を見て、最近取り込んだと思われる今風の中年男性の顔に変えた。

 俺は愛刀『夜烏』を抜く。
 神霊術を使う前に襲いかかって来た。
 身体が大きく、顔から紫色の息を吐く。

 毒か……厄介な……

 俺は、相柳の突進を避けて、神霊術を使う。
 身体に身体強化をかけ、目が金色に光り出した。

 一瞬、時が止める……

 イヤ、正確には止まったのではない。
 全てが、スローモーションのようにゆっくりと時間が流れる。

 相柳の身体を剣で斬り裂く。
 1回の攻撃では、浅かったようだ。
 更に、何度も斬りつけ胴体を両断した。

 神霊術が解いて様子を見るが、蛇の尾の部分と顔の部分は、まだ、動いている。

「ブクブクと太りやがって、どれ程喰ったんだ」

 先程から変わる顔を見ていたが、変わらない顔がひとつだけあった。
 俺は、その顔をめがけて剣を突き刺した。

『うぉおおおおお!! 』

 地響きのように響き渡る低い怒号。
 それは、末期の叫びだった。

 闇から這い出る者達は、闇へと帰って行く。
 それは、邪鬼でも妖怪でも同じ事だ。

 相柳の姿は、闇の中に消えるように吸い込まれていった。





 厄介な相手だったな……

 毒を吐くとは予想外だ。
 幼い頃から、毒になれるように僅かな量を摂取し続けたこの身体にも、この世界に存在しない毒なら蝕む事ができる。
 その証拠に俺の左手は、黒ずんていた。

 俺は、バックの中から、清められた水『聖水』を取り出して、その黒ずんだ左手にかける。
「シューッ」と音がして、焼けるような痛みが伝わってきた。

「うぅううう……」

 滅多に呻き声をあげる事など無かった俺が、その痛みに耐えきれずに声に漏らした。
 それを見ていた子供の霊は、心配そうにこちらを見ている。

「お前は、優しい子なんだな……」

 顔の表情が分からぬ程、崩れているその子は、俺の顔を覗き込んでいた。

『聖水』をかけたが、痛みは直ぐには引かない。
 ただ、身体の壊死を防いだだけだ。

 体内に入り込んだ毒は、直ぐには排出されない。
 下手をすれば、内臓を腐らせる。

 残った『聖水』を飲み干して、バイクが置いてある場所まで向かう。
 この量では足りない……
 バイクには、予備の『聖水』を積んである。

 身体が思うように動かない。
 思った以上に毒の周りが早かったようだ。

「俺とした事が……」

 重い身体を引きずりながら、バイクまで何とかたどり着き、タンクの上のバッグからペットボトルに入った『聖水』を飲み込んだ。

 身体が焼けるように熱い……

 熱が、出て来たようだ。

 ここまで付いて来た子供の霊を追い返すことも出来ず、俺はその場で倒れてしまった。





 鳥の囀りがこ聞こえる。
 スマホから、アラームの音が鳴っている……

『う~~朝刊配達行かねければ……』

 いつも俺が起きる時間だ。
 だが、起きた場所は、部屋ではなかった。

「そうか、俺は、ここで……」

 熱は引いているようだ。
 というか、寒い……身体が冷えている……

 夜露に濡れた服は、湿って重みを感じる。

 すると、バイクのそばに昨夜の子供の霊が立っていた。
 こちらを覗き込み、心配そうに見つめている。

「お前、まだ、いたのか? 」

 そう言うとバイクの影に隠れてしまった。

 まぁ、仕方がないか……
 壬に頼んで浄化してもらおう。

 俺は重い腰を上げて、服を祓う。
 土ほこりが湿って、小枝や落ち葉が服にくっついていたようだ。

「お前も来るか? 」

 子供の霊は大きく頷いた。
 出来れば霊とは長い時間一緒に居たくない。
 側にいるだけで、精気を抜かれるからだ。

 壬のところまでなら、何とかなるか……

 スマホを見ると県外になっている。
 朝刊配達のは間に合わない。
 休むと連絡を入れなければ……

 俺はバイクに跨り、子供の霊を後ろに乗せる。
 そして、道に転がった石を避けて峠道に出た。

 峠を下り、少しひらけた場所でスマホを見ると電波が繋がっていた。

 メッセージと電話の履歴が半端ない。
 全て、瑠奈と陽奈からだ。

 俺は、内容を流し読みして行くと陽奈が代わりに朝刊配達に行ってくれたようだ。
 配達先は瑠奈の指示があれば大丈夫だ。

 安心して、メッセージを返しておく。

 峠の道を下り、家がポツリポツリと見え始めて来た。
 夜露で濡れた服が、身体の体温を奪う。

「何処かに、温泉でもあれば良いけど……」

 温泉街は海沿いの近くにある。
 もしかしたら、朝からやっているところがあるかもしれない。

 町が眼下に広がる場所に出ると、後ろに乗っていた子供の霊が後ろから離れて、俺を先導する形で宙を飛んでいる。

「着いて来いと言うのか……」

 一晩中、俺の側にいてくれた、この霊を粗末に扱うつもりはない。
 俺は、気持ちよさそうに飛んでいるその霊の後を追った。

 着いた場所は、少し高台の岩場がある海だった。
 その岩場の上には、小さなお地蔵様が祀られている。

「もしかして、お前はここで死んだのか? 」

 首を上下に縦に降るその子供の霊は、そこから、民家のある方に向かって飛んで行った。

 子供の霊が向かった先は、大きな民家のだった。
 豪華な造りは、時代とともに劣化しているが、名のある旧家なのだろうと想像がつく。

 俺は、子供の霊がその家に遠慮なしに入って行くのを見届けた。
 すると、中からお婆さんが出て来たのだ。

「あら、珍しいわい。懐かしい感じがしたから外に出てみれば若い兄ちゃんがおる」

「おはようございます。道に迷ってしまって……」

 子供の霊に着いて来たとは言えない……

「そうか、そうか、これも何かの縁じゃ。中にお入り」

 このお婆さんは、霊ではなくれっきとした人間のお婆さんだ。
 子供幽霊は、懐かしそうな態度をしていて、その婆さんの側から離れない。

「それじゃあ、遠慮なく……お邪魔します」

 玄関を開けると土間になっており、土と湿気の匂いが立ち込める。
 嫌な匂いではなく、懐かしい匂いだ。

 婆さんは俺の姿を見て、

「どこから来なすった? 」

「東京です」

「そりゃあ、えらいこったなぁ」

 お婆さんは、浴室に行き風呂を沸かし始めた。

「今、風呂を炊いとるから、入っていきなさい」

 遠慮をする俺を、子供の霊が俺の手を引っ張る。

「わかった、わかった」

 子供の霊につい話しかけてしまった。
 すると、その婆さんは、

「お兄さん、わかるんか? カズ坊がおるのが……」

 お婆さんは見えてるわけではない。だが、その気配を感じ取っている。

「はい……実は……」

 山の峠で子供の霊にあって、そのまま、ここの連れてこられた事を正直に話す。

「そうかい、そうかい。カズ坊はここにおるのじゃな……」

 お婆さんは、見えないはずの子供の霊をしっかりと抱きしめていた。

「今、お婆さんの腕の中にいますよ……あっ……」

 その時、子供の霊は、薄くなっていった。
 そして、そのまま消えて無くなった……

「逝ったのかい? 」

「はい、成仏したようです……」

「そうか、そうか……」

 お婆さんのくしゃくしゃの目からは大きな涙が零れ落ちていた。





 その子供の霊は、あの岩場から落ちて遺体が上がらなかったそうだ。
 靴と血の跡が残っていただけだったらしい。

 それも、50年以上前の話だ。

 恐らく、自分は亡くなったとは知らずにいろいろな場所に行ったのだろう。
 そこで、あの隧道の場所で『相柳』に拘束されて、霊や人を集める役目を負わされていたようだ。

 最初に子供の霊を見た時に足に細い糸のようなものが絡んでいた。
 その先は隧道に繋がっていたので、何らかの原因でこの場所から動けないのだと俺は判断した。
『相柳』が、俺に討伐されて自由になったようだ。

 そして、俺はお婆さんのところでお風呂を借りて、着ていた服を乾かし、おまけに朝食まで頂いて、家に帰るのだった。


~~~

※ 話に出てきた『相柳』は「そうりゅう」と呼ばれていますが、昔は「そうよく」と呼ばれていました。
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